12話「行かせるか」
「一ノ瀬柚葉ちゃん。君のことでしょ?」
引っ張られた腕につられて体勢が傾き、耳元で囁かれた。
「何言ってるんだ?」
引っ張られた腕にさらに力が加わり、自分の体はベットに倒れた。
「ユキは、僕とは言わない。仕事中だから俺と呼んでると思ったけど、君はユキではない。」
倒れた態勢の僕の目の前に橋川の影が現れる。
「一ノ瀬柚樹でもない。」
両腕を片手で抑えられ、身動きができない。
橋川の顔には明るさは消え、影だけが写しだされる。
「っ…!」
縛られている腕から痛みが走ってくる。
「それに。君かな?ユキが、かな?馬鹿じゃない?」
橋川が馬鹿にしたように笑う。
「ユキさ、全国ツアー中だよね?」
橋川が真剣な顔で首を傾げる。
…そうだった。兄は今、全国ツアー中だから僕に生徒会を任せた。なら、柚樹がユキと知ってる奴は僕がここにいることがおかしいと気づくじゃないか。
「……馬鹿だね。」
笑がこぼれて、少し笑が止まらなくなった。
「じゃあ、やっぱり君はユキの妹の柚葉ちゃんなんだね。」
腕を支えている力が弱くなった。
「うん。ごめん。橋川君。」
声音を普段通りにして話した。
「じゃあ一つイイかな?」
「なに?」
橋川が一瞬微笑んだように見えた。
「君は…女の子なんだよ。」
そう言われたあとにされたのは首筋当たりのキス。
された瞬間、どこか冷たく感じたあとに暖かさを感じて、痒さも感じて…顔後赤くなるのがわかった。それとさぁーと血の気が引いた。
「ここの生徒が君が女だってわかったらもっと襲われちゃうかもよ?」
橋川が不適切な笑みを向ける。
「じゃあ、こっちがしたら?」
「え?」
僕は上手く、橋川の足を自分の足に引っ掛けて今度は自分が橋川の上にまたがる感じになる。
そして、さっき橋川にされたことを彼にやり返す。
「ぅん!?」
橋川が目を見開いて僕のことをみる。彼の顔が林檎のように真っ赤だ。
「女が男にキスをしたら男はどう感じるの?」
僕はわざとさっきの彼と同じような不適切な笑みを向ける。
「別にどうも、しない」
彼の声が一文字一文字小さくなっているような気がした。最後の言葉はまるで振動のようだ。
「と言いながら顔が赤いのはなんで?」
彼をからかいたいと本能がくすぐられたのか、僕はにやけた顔をしたがら話しかけていた。
「こんな事……普通誰もがこうなる。」
やはり彼の声は少し小さい。
照れてるような気もする。
「橋川君てさ、可愛いよね。本当。」
自分はその可愛さに気づけたことが嬉しかったのか笑顔になっていた。
その顔を見てか彼の顔は熟し過ぎた林檎のように真っ赤だ。
その赤すぎる頬にそっと手を触れた。
とても頬から見るのと同じくらい熱かった。熱がこもっていた。
「熱あるの?」
彼のおでこにかかっている前髪をほおに触れている反対側の手で払い、おでこを合わせた。
「おいっ!」
彼の言葉は無視をして、もう少しおでこを合わせ、それから数秒後に顔と顔の距離ができる。
彼の額も頬と同じように熱かった。自分の額にもその熱が移りそうだ。
「良い加減にしろ!」
両肩をしっかりと掴まれ、彼は倒れている上半身を起こした。
僕は今、彼の太もも当たりに座っている。
橋川が僕のことをじっと見てから話した。
「とにかく、女だってことはバレるなよ。」
「当たり前だよ。」
「ならいいけど、何かあったら俺に言えよ。」
「どうも。迷惑がかからない程度にしまーす。」
まるで他人事のように話している兄弟のようで笑えてくる。
橋川と僕は目を合わせてお互い笑った。
「これから、決勝戦を始めます。」
アナウンスが保健室に鳴り響く。
「僕、いかなちゃ。」
僕が橋川の上からどけようとする。
「行かせるか。」
橋川に手を捕まえ、立つことを許されない。
「ちょっと!僕勝負を置き去りにするとか嫌なんだけど!それに櫻井と闘いたいんだけど!」
僕が彼の上で暴れる。
それにイラついたのか彼は僕の頭をがっしりと掴む。
「行くな。…行ったら放送で君が女だってことをバラすから」
「さっき、自分でバレるなって言って、今度はバラすとか矛盾してない?」
「とにかく行くな。じゃなきゃユキとお前が入れ替わっていることをお前の学校にも言う。そうすれば家族も学校も大変なことになるだろうけど」
「…。意地悪ヤロー。」
「とにかく行くなよ。」
「分かったから。頭を離せ。」
「はいはい。」
やっと橋川の手が頭が離れる。よし、今のうちに!
「だーかーらー。」
また僕の腕を彼が掴む。
「行かせないって言ってんの。」
彼の目はもう真剣同様だった。
なぜ、そんなに真剣になっているかは僕には謎だか、僕の方の学校に電話、もしくは訪問されては困る。僕は今、なんらかの病気で入院中と学校に申請してある。
母にはまぁ、何とか隠せている。(学校からの連絡はこないからギリギリ隠せている。)まぁ、あとは兄の責任だ。
とにかく、ばれてはいけないことがわかると僕はもう彼に抵抗できない。
「おっ、諦めた?」
僕が彼の上で暴れることをやめると笑みを浮かべて聞いてくる。
「僕の本能は嫌だと言っているけど、現実的に考えてそれは適切か行動ではないと判断したからな。」
顔の向きを橋川から外へ向ける。
「拗ねるなよー。」
橋川が腕を掴んでいない手で頭を撫でた。
「僕、女だけど子供じゃないからな。」
橋川には視線を戻さないで喋る。
「分かってるよ。」
彼の声は優しかったが、まだ僕の頭を撫でる彼にはイラついていた。
ちなみに橋川はインターネットでユキに妹がいることを確認しました(((対戦後




