11話「保健室」
僕と櫻井が互いの顔を見合わせた時、不思議と安心感が湧いた。
「えーでは、決勝戦は三十分後に行います。」
アナウンスがそう知らせると人が動き始める。
僕は本部に行き報告をしてから外へ向かった。櫻井は本部の人に質問やらなんやらされてて今は一人で行動している。
「あっ。」
僕が向かった先には橋川の姿があった。
「あ、え、あ…一ノ瀬。おめでとう。」
慌てた様子で言葉を発してから橋川は笑顔を作った。
「ありがとう。」
彼にお礼を言う。
それから少し沈黙が湧く。
そしてその空気を僕が破る。
「さっきはごめん。大丈夫?」
「まだ気にしてたの?大丈夫だよ。あのぐらい。」
あははは。と乾いた笑を橋川が漏らす。
「…保健室行った?」
僕は橋川に近づいた。
「だから大丈夫だって。」
橋川が手で仰ぎながらまた笑う。
「…じゃあこれは?」
彼のひたいから垂れる血の横を指先で軽く突ついた。
「っ…!」
橋川の眉がピクリと動いた。
「やっぱ痛いんじゃん。と言うかそんなところ怪我して大丈夫とかありえないから。」
「ほら、行くよ。」彼の腕を引っ張りながら言った。
「だから大丈夫だって!ほって置いて!!」
橋川に怒鳴られる。
腕を引っ張ってた手を離して彼の顔を見た。
彼の顔は血の色を変えていて本当に僕にキレたことがわかる。
それから橋川の顔が通常状態に戻り僕に謝罪する。
「あっ…ごめん。」
「でも、本当にこれは一ノ瀬の性じゃないから。」
僕の顔を見ないで彼がそう言った。
…それに対しては笑顔で答えた。
「うん。わかった。」
「じゃあ、気にしないでくれるね。」
橋川が少し嬉しそうに安心したように言ってきた。
「それとこれは話が別だから!」
その態度に少しイラついてからか声は予想より大きく、僕は腕を伸ばし彼の腰の後ろに添えられていた腕を引っ張った。
「ちょっ、一ノ瀬!」
僕にいきなり引っ張っぱられ橋川は軸がぶれ、体勢が崩れながらも引っ張られる状態で歩く。
「そんなに僕に心配させる事が迷惑か?」
そう言い残して橋川を無理やり保健室へ連れて行った。
保健室に連れて行くまでさっきの言葉について自分の思考の中で抗議した。いや、理由なんか、考えなくても分かっているけど…。
別にあんな事を言いたかったわけではない。けれど、額から血が出てる状態でも大丈夫大丈夫。と言いつける橋川の態度か嫌になって子供のように当たっただけだ。
…彼にも、自分にも。
「ついたぞ。」
僕に引っ張られる状態で歩いていた橋川はいつの間にか、抵抗する様子もなく素直に僕の後をついてきていた。
「…失礼します。」
彼の腕をまだ引っ張った状態で保健室に入る。
「…誰もいないな。」
橋川が言ったとおり部屋の中を見渡しても人の気配はなかった。
「そういや、休暇取ったって、誰か言ってたような。」
と言うか、一番怪我人が出そうな日に保険の先生がいないとかどうなのさ。
…いや、そう言う日だから先生がいないのかもしれないな。
「しょうがない。」
僕は溜息をわざとついて、それから橋川に言った。
「ベットか椅子に座って。」
「もしかして、一ノ瀬がやるの?」
「そうだが?」
僕が彼の顔を見ていると橋川は抵抗する事が無駄だと言う事に気づいたのか素直に影にあるベットに座った。
「よろしい。じゃあ包帯持ってくるから、そのままな。」
僕はそう言って救急箱を取りに行った。
「おまたせ。」
橋川がじっと黙っている。
どうしたんだ?と思いながらも救急箱から包帯と消毒液とガーゼを取り出した。
「ユキ…。」
橋川が柚樹のアイドル名を呼ぶ。
そう言えばこいつ、柚樹のファンなんだっけ。
ごめんな。僕、本物じゃないんだ。
心の中で謝りながら作業をする。
僕が双子の妹だと言う事はばれてはいけない。だから余計な事を口走ってはいけないと思ってたのに。
「僕はユキじゃないから。」
口走っていた。
橋川は「うん。」と呟いてまた静かになった。
「終了。」
なんとか額からでていた血を停め、ガーゼと包帯で固定した。
「随分、男らしい作業でした。顔に似合わず。」
「煩いなー。」
僕が拗ねるように言うと「嘘だよ。嘘。ありがとう」橋川がからかうように笑いながら言った。
確かに、僕の治療法は可笑しかったさ。
だって額から血をでた人のケアなんてした事ないし。
僕に女子力を求めたって無駄ですから!
と、一人で開き直っていた。
僕が包帯とか使ったものを救急箱に戻してた時、橋川が「一ノ瀬。」と僕の名を呼んだ。
「なに?やり直せと?」
彼に背を向け皮肉そうに言う。
「違うよ。」
優しい口調で言われ、笑われてるんだろうな。と自分の中で思う。
「ほんと、女子力がないんだから…柚葉ちゃん?」
「え?」
いきなり、僕の本当の名前を言われ、驚く。
けれど、僕の本当の名前、一ノ瀬柚樹の妹の事なんて知ってる人はいないのだから、違う人の事を言っていると…信じたい。
「なに言ってるんだ?僕は、一ノ瀬柚樹で…。」
僕はいきなり後ろ方から力強く肩を掴まれ、体勢を崩した。




