ムー星人 2
僕の語りを引き取って、マリが皆に向かって問いかけた。
「宇宙はどうやって出来るかご存じ?」
いきなりの話だ。答えられる者はいない。それが当然のようにマリも気にすることなく続けた。
「それは、夢なのよ。人が、こんな風な世界があればいいな、と夢見ることによって、そんな宇宙が現実に誕生するの。この宇宙の外側に、子宇宙として……」
突如としてVR空間。それは、銀河のきらめく、宇宙空間のそれだった。
「アルファケンタウリ人の夢を元とした子宇宙があるし、アンドロメダ星雲人の夢に起因した子宇宙も当然ある。無限個の子宇宙が誕生し、消滅している」
「そんな中、“ある地球人”の夢が、結果を出した。だからここに、私がここに、出現したの」
「“その人”が思い描いた夢というのが、時空間を無限に旅することができる宇宙船エンジン。すなわち――」
「“自由落下エンジン”だったというわけ!」
宇宙は、ビックバンから始まった、という仮説がある。ある一点から、外へ外へと膨張したんだそうな。なら――
「“その子”は考えた。
『宇宙の外側はどうなっているのだろう?』(笑)
『いや、いや』
『“希薄していくだけの外側”なんてどうでもいいじゃないか。むしろ――ビックバン。“宇宙の中心”は、どうなっているのだろう』
『光が旅立った原初にして、宇宙最深の淵!』
『そここそが最終にして究極の秘境だ』
――と」
「ところで」
「当然ながらこの宇宙にも、親となる宇宙がある。つまりはこの宇宙も、誰か一人の親宇宙人の夢の創造物。親・子・孫・ひ孫と、宇宙は永遠に連なっている――」
「ということは、親の、親の親の親の――」
「――無限の彼方に、神祖たる“究極の宇宙中心点”が存在する!?」
「そう!」
「そこへ征くために、このムー大陸という飛翔体が建造された。子宇宙の中心点をワープイン・ゲートとし、親宇宙の外側、のすぐ内側、にワープアウトし、今度はその宇宙の中心点に落下する。この繰り返し。そして全旅程中、ただ一度の寄り道、すなわち、夢を思い描いた“主人公”を乗せるためここに、この太陽系に、この地球に、やって来た!」
「ところが――」
「初めての多元宇宙間の航海で、私は予期しないトラブルに見舞われた」
「この宇宙は、誕生してから138億年経つという。そして、私らの出現も、子宇宙誕生から138億年。でも――」
「時間的には、私たちの宇宙のビッグバンは、主人公の夢見た瞬間。だから、この宇宙の“現在”に、ワープアウトするはずだった。それが――」
「初ワープが、時間軸を予想以上に飛び越えてしまった!」
「機体もダメージを受け、コントロールを失ってしまう」
「それが、今から5億年前……!」
5億年前のVR映像――
「当然ながら、迎えるべき主人公は影形もない」
「そこからは、私の苦闘の始まりだった。
主人公を誕生せしめるべく、地球史を裏から操った。
5億年!
えんえんと、地球生命の血脈を、たどり続けた。
恐竜を絶滅させたこともあるわ。
長かった……。
……」
こちらに顔を向ける。愛おしい顔だった。
「サトウ家に貴方が誕生したとき、私がどんなに喜んだか想像もつかないでしょう!」「……」
「ところが、サトウ家は貴方を残して滅してしまった! 保護者消滅。幼子にとって、この影響は大きい。そのままでは永遠に夢が生まれなくなる! 私は、貴方の庇護者、姉たる真理の存在を身をもって騙ることにした」
彼女は自分の手を見る。
「このボディは、オリハの中間素材を組み合わせて作った、本物な人体なんです。それで、真理に成り代わった。そして」
「中学生時代、一度海原家を破産させた」
「すぐに、私が日本近海から鉱脈を見つけたことにして、家勢を回復させた。白神家と、隣同士になることができた」
「残されたことは、主人公の宇宙旅への意欲に火を入れることのみ。
そして私は主人公を乗せて、親宇宙の親宇宙。そのまた宇宙へと、真の中心点にへと、旅立つの!」
「それが、私の願い……!」
マリは僕を見た。
「5億年こめて、愛してる……」




