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ブラン

 手を引かれ、足底のオリハを浮き船にして、沖に向かって海面上を歩くこと百メートル。足下に、陸を感じた。

 マリーは手をほどき、一人先頭に立つ。そして波洗う足元に声をかけた。

「ブラン!」

 陸が動いた。さすがに驚く。それが鯨の背だと理解するのに数秒かかった。マッコウクジラだ――

「ブラン、ゴー!」

 波を割り、泳ぎ始める。マリーは指示を出したあと、注意深く水平線に顔を向ける。ときどき、黒い背中に目を向ける。そのときだけ、体の力みが(やわ)らいだ。

 ブランというのは当然、この鯨の名前だろう。そして、雰囲気的に――この(クジラ)こそただ一人の親友。そんな印象を受けた。


 足の裏に伝わる感触。ブランは巨体全体を、オリハ・コーティングしていた。

 このことだけで、鉱脈を見つけたという話の信憑性は高まる。

 そして今――

 マッコウクジラ(ブラン)は、コーティングの能力を無限に引き出した、尋常ではあり得ない速度でもって大洋を走り始める――!

 ジェットエンジンだった! 黒い大砲だった!

 マリーの髪の毛が銀色に吹き流れた。それはいかにも幻想的で!

 前かがみになる。足を背にくっつけ、しかしながら海水との摩擦抵抗は限りなくゼロにする。そうしてようやく、まともに立っていられる。


 満月。南国の星空。


 おお! 僕らは――どこへ行くのだろう!?


 知らず、身が震えた。

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