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平民の少女

 社交場で貴族の令嬢アリス・メサイアを陥れる為の最後の一手を打った平々凡々な少女『カノン』は、アイルレイト王国の第三王子ビルスに手を引かれ、豪華な部屋まで案内されていた。


「大丈夫ですか?」


 心配するビルスにカノンは頷き、


「はい、大丈夫です。ビルス王子」


 答える。


「そうか。ならばよかった」


「はい。これでこの国の未来は安泰ですね」


 カノンは微笑み、自身の企てた今回の計画の成就に心底安堵する。

 

「アリス様のようなひとが王妃様になるのは、間違っています」


「ああ、そうだな。あの女は、平民のことなど一切考えない。今回のこの一件がその証明だ」


 ビルスは知らない。今回の企てのその内情を。

 カノンの欺瞞(ぎまん)を疑わず、その甘言に惑わされて、何も知らず、ただ利用されているだけ。


(馬鹿な人。自分の婚約者を信じずに私を一方的に信じるなんて)


 カノンはこういう男のことが嫌いだったが、それを全く表に出すこともなく偽りの笑顔を張り付ける。


「ビルス様、色々と助けてくれてありがとうございます」


 心にもない感謝の言葉だが、その言葉を真に受けてビルスはカノンの頭をぽんぽんと撫でる。


「王子として当然のことをしたまでさ」


 振り払いたい気持ちが湧き上がるが、やはり表には出さない。

 が、


「そうだ。これは提案だ。もし君がよかったらあの女の代わりに私の婚約者にならないか?」


 その言葉には不覚にも目を見開いた。


「私が……ですか?」

  

 この男はどこまで馬鹿なのだろう。

 王子の婚約者が平民など、そんなことを王が、他の貴族が許すわけない。

 そんなことも分からず勝手に婚約者を決めようとしている。

 ビルスは頷き、


「将来、私が王の座についた時に君に私のことを支えてもらいたいんだ」


 自分の将来を夢想しながら言う。が、その夢想する未来は既に閉ざされていることにビルスは気付かない。


(馬鹿を通り越して愚か。何故あの王様が、アリス様をあなたの婚約者に決めたのかすら分からないなんて……)


 婚約の申し出に照れた顔を演じながらもカノンは内心で目の前の男の愚考を冷笑する。


(あなたが馬鹿だからこそ、聡明な思考力のアリス様が選ばれたというのに)


 アリスは世間知らずで体力こそないが聡明な思考力を有する。

 一方のビルスは体力だけならば五人の王子の中でも最もあり、さらに幼い頃から国を抜け出しては街に繰り出していた為、平民のことも深く知っている。

 つまり互いが互いの短所を補うべき存在で、王を目指すのならば決して切り捨てるべきものではなかった。


 それなのにビルスはアリスを切り捨てた。

 この時点で、もはや彼の王位継承は絶望的といってもいい。


「それでどうかな。君の答えを聞かせてほしい」


 カノンは頬をかく。


「私では荷が重いですよ」


 平民という立場上、強く断ることはできない。が、その言葉をただの謙虚に受け取ったのか、


「君なら大丈夫だ。私と共にこの国を守っていこう」


 ビルスはそう言った。


(どうしよう。正直もうビルス様には利用価値はないし、『あの方』の指示を仰いだ方がいいよね)


 あの方というのは今回の計画を企てた者だ。

 自分だけでは間違いなくアリスのことを出し抜くことはできなかった。全てあの方のおかげだった。


「あの、その……、」


 カノンは困った顔を演じる。と、ビルスは肩を竦めた。


「そうか。そうだな。まだ心の準備はできていないよな。大丈夫だ。君の心の準備ができるまで私は待つよ」


 ポジティブだ。

 断られるということは思考の片隅にもないのだろう。


(まあ、あの方の指示があるまでの時間稼ぎにはなるかな)


 そう思いながらカノンは苦笑する。

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