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元勇者だけどたまに猫になる魔王と一緒に暮らしてレストランやってます。この関係は誰にも言えません  作者: 甘城ソウヤ
第4部:遠き日の記憶と、冷たい祈り

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第92話 『沈黙の親友と、新たなる座標』

 王都の石畳に、ルシウスが弾く鉄の算盤の乾いた音が響いた。


「敵の物資供給源、および黒幕の座標を特定しました」


 ルシウスは一分の隙もない姿勢のまま、眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせた。


「場所は旧市街区、ダミー商会が管理する『第十三倉庫』。その地下に、魔界への違法転送プラントが隠されています」


「旧市街だと!?」


 その報告に、いち早く反応したのはガイルだった。


「エレン様は大聖堂にいるはずだ! なら大聖堂には私が行かねば……っ!」


 ガイルが気力だけでフラリと一歩を踏み出す。だが、その直後。影のゴーレムから受けた腹部の深い裂傷から、再びドクンと嫌な音を立てて鮮血が噴き出した。

 ガイルの顔が引き攣り、限界を超えていた巨体が大きくよろめく。


「あ……エレン、様……」


 掠れた声がこぼれ落ちる。それを最後に、糸が切れたように彼の意識は途切れ、石畳へと重く崩れ落ちた。


「ガイル!」


 アルフレッドが間一髪でその巨体を受け止め、その場に横たえる。そのまま厨房から持ってきた未使用で真っ白な布巾を取り出すと、それを迷いなくガイルの傷へとあてがい、溢れんばかりの血を力強く押さえつけた。


「……よく頑張ったな、ガイル。みんなは、ここを守ってくれ」


 アルフレッドは気絶した親友をグレゴリウスに託すと、静かに立ち上がった。

 グレゴリウスは無言で深く頷き、力強い腕でガイルを抱え上げた。


「……任せろ、アルフレッド殿。ここは我らが死守する」


 グレゴリウスは、すぐ近くに佇む『キッチン・ブラン』へとガイルの巨体を運び入れた。店内の清潔な床に彼を静かに寝かせ、エリアーナたちが待機する安全な場所へと友を移していく。


 アルフレッドは店へと消えていく二人の背を見届け、その手に魔鋼の包丁を握り直す。


 周囲を見渡せば、過去の亡霊だった、影ゴーレムたちが消滅してもなお、戦いは終わっていなかった。

 教皇たちの放つ狂信のシステムが生きている限り、数千の王都民たちは虚ろな目のまま「異端を……裁け……」とうわ言のように繰り返し、再びアルフレッドたちを取り囲もうと波のように迫ってくる。


 その波の前に、エリアーナとリディアが立ち塞がった。


「『不殺の炎壁 (パクス・フォイヤー・ヴァント)』はもう張れないわ……!」


 深紅のローブを纏う大賢者エリアーナが、膝をつきかけて深く息を吐き出す。彼女の首筋にある青白い亀裂の光も、明滅して今にも消えかかっている。

 破壊の魔力を殺傷力ゼロに抑え込むという繊細な魔術式は、彼女の魔力を大幅に削り取っていた。


 先ほどのゴーレムで被害を受けた人々は、グレゴリウスたちの献身と衛兵の迅速な連携により、その多くが救い出されていた。だが、代わりに空いた広場の空白には、待っていたかのように狂信者の群れがゆっくりと埋め尽くしていく。


 ガイルを店内に寝かせ終わったグレゴリウスは愛用のクワを構え、己の分厚い肉体を壁にして狂信者の前に立つ。


「ここはわしらに任せい! 操られとるだけの民を傷つけるわけにはいかんからな!」


 グレゴリウスがクワの柄を横に構え、押し寄せる王都民たちを力任せに押し返す。


 だが、その時だった。狂信者たちの群れの影から、一切の音も立てずに黒い装束の男たちが滑り出してきた。


「ッ! 教会の暗殺部隊……!」


 リディアが鋭く叫び、剛弓を引き絞る。だが、暗殺者たちは意図的に王都民の背後に隠れ、彼らを盾にしながら、死角から猛毒の塗られた刃や暗器を次々と投擲してくる。


「卑怯な真似を……っ!」


 リディアが放つ峰打ちの矢が、空中で数人の暗殺者を弾き飛ばす。しかし、防ぎきれなかった毒刃がグレゴリウスの肩を浅くかすめ、エリアーナの足元に黒い短剣が深々と突き刺さった。

 傷つけてはいけない王都民と、確実に命を刈り取りにくる刺客。圧倒的に不利な防衛戦。


「あんたたちは早く行きなさい!」


 リディアが、エメラルドグリーンのポニーテールを振り乱し、肩から血を流しながらも力強く叫んだ。


「気絶したガイルは私たちが守っておくわ! だから……早く黒幕の親玉をぶっ飛ばしてきなさいな!」


 その悲痛な、しかし誇り高き覚悟を見て、アルフレッドは包丁を握る手に力を込め、倒れた親友へ視線を落とす。


「……ガイルを頼む」


 アルフレッドは短く告げた。


「ふん。さっさと終わらせるぞ。我が城の空気が澱んでかなわん」


 ディアボロが、不敵に笑ってアルフレッドの隣に並び立つ。


「……ああ、行こう」


 二人は背中を向けた。ゼノンとルシウスを伴い、黒幕の待つ『旧市街の第十三倉庫』へと、一切の迷いなく駆け出していく。


 残された三英雄は、迫り来る狂信者と暗殺部隊の波を前に、互いに背中を預け合い、笑った。


「さあて、若者たちにいいところを見せねばな!」


「ええ、死んでも守り抜くわよ!」


 終わらない狂信と、凶刃が飛び交う地獄の防衛戦が、再び幕を開けた。




 王都の片隅。旧市街のうらぶれた『第十三倉庫』。

 湿った埃の匂いが漂う薄暗い空間の奥で、ルシウスが鉄の算盤を弾き、空間偽装の術式を高速でハッキングしていく。


「……ロック、解除」


 パチリ、と最後の珠が弾かれた瞬間、床下へ続く広大な地下の巨大密輸倉庫への重厚な鉄扉が、重い軋み音を立てて開いた。


 アルフレッド、ディアボロ、ルシウス、ゼノンの四人が、冷たい地下の闇へと足を踏み入れる。

 だが、地下へ続く階段を下りきった彼らの前に、整然と並ぶ黒革と金属で全身を覆った集団が立ち塞がっていた。以前にも見た、王国の暗部、『掃除屋スイーパー』だ。


「……やはり来たか、エラーども」


 倉庫の奥から、静かな靴音を響かせて一人の男が進み出てくる。

 完璧に整えられた灰色のスーツ。片目には冷たい光を放つモノクル。

 王都の治安を管理する治安維持局室長、ヴァレリウスだ。

 彼は白手袋をはめた手でモノクルの位置を直し、冷徹な視線でアルフレッドたちを見据えた。


 かつて広場で「非効率な感情」に敗れたはずの彼が、残存兵力を率いて再び立ち塞がる。


「この王都の秩序の深部へ、これ以上クズどもを通すわけにはいかない」


 感情が欠落した、その声は無機質に倉庫に響いた。

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