表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元勇者だけどたまに猫になる魔王と一緒に暮らしてレストランやってます。この関係は誰にも言えません  作者: 甘城ソウヤ
第4部:遠き日の記憶と、冷たい祈り

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

88/95

第88話 『逃げ場のない食卓と、泥の絶対防御』

 ビィィィィン……ッ!!


 屋根の上。逆光を背に受けて立つ弓聖リディアの放った一本の矢が、アルフレッドの首筋に迫っていた暗殺者の毒刃を粉砕し、背後の柱を深々と穿った。その神業に、狂信者たちの波が一瞬だけ静まり返る。


「……助かった、リディア」


 アルフレッドが言った、その直後だった。王都の空を覆う分厚い暗雲が、轟音と共に真っ二つに割れた。


「待たせたな! そいつは、わしに任せろおぉぉ!」


 雷鳴を切り裂いて降臨したのは、泥だらけの作業着を纏った元聖騎士団長、グレゴリウスだった。彼は大地を穿つ勢いで信者たちの群れの奥へと着地すると、その豪腕で愛用のクワを大きく振り被った。


「わしのクワに比べれば、貴様らの陣形など柔らかすぎるわ!」


 ドゴォォォォンッ!!


 英雄の一撃が、大地を耕すように炸裂する。その刃は、教会の兵士が掲げていた対魔王兵器『ジャミング・クリスタル』を、台座もろとも完全に粉砕した。


「どうじゃ! やってやったぞい!」


 と痛快に笑いながら、グレゴリウスは大きく跳躍して、アルフレッドたちの横へと戻ってくる。


「……なっ!?」


 教会の兵士が驚愕の声を上げた瞬間。王都の空気を縛り付けていた高周波音が消え去り、押し殺されていた魔力が一気に吹き出した。


「……ふん。調子に乗ったな、羽虫ども」


『キッチン・ブラン』の店先。魔力を封じられていたディアボロの深紅の瞳が、無慈悲な怒りをもって冷酷に光る。


「我が城の庭先を汚した罪、その命で贖うがいい。一分子も残さず灰にしてくれる」


 彼の白磁の指先に、世界を終わらせるほどの圧縮された黒い炎が灯った。邪魔なクリスタルが消えた今、彼が指を弾けば、この路地裏に群がる数千の信者など一瞬で消し飛ぶ。


「やめろ!!」


 アルフレッドが、血を吐くような声で叫んだ。


「あいつらは操られてるだけの王都民だ! 殺すな!」


 その悲痛な声に、ディアボロの指先がピタリと止まる。膨れ上がった殺意は、行き場を失ったまま、呆気なく霧散した。


「ええい、どきなさい銀髪! あんたの野蛮な炎じゃ、街ごと消し飛ぶわ!」


 ディアボロの前に、深紅のローブを静かに翻して割り込んだのは、大賢者エリアーナだった。彼女が杖を天へと掲げると、首筋の亀裂が激しく発光し、膨大な魔力が路地裏に溢れ出す。


「不殺の炎壁 (パクス・フォイヤー・ヴァント)!!」


 彼女の杖から放たれたのは、熱を持たない優しく巨大な炎だった。それは狂信者たちを傷つけることなく、柔らかな壁となって彼らを路地の外へと押し出していく。


 そして炎は『キッチン・ブラン』をすっぽりと覆い尽くし、外部からの干渉を完全に遮断する巨大な光の繭を形成した。


 ドンッ! ガンッ!


 光の壁の外から、狂信者たちが無機質に壁を叩き続ける音が響き始める。


「……これで、外の連中は手出しできないわ。でも……」


 エリアーナが、悔しげに唇を噛んだ。


「私たちも、中から一歩も出られない」


 完璧な防御。だがそれは、見方を変えれば完璧な『断絶』だった。絶対的な力を持て余したまま閉じ込められた、檻の完成だった。



 ――その数刻前。


 遥か遠く、分厚い暗雲に覆われた魔界は、地獄のような戦火が吹き荒れていた。


「魔王様はどうした!?」


「ゼノン様、助けてください!」


 燃え盛る街の中で、逃げ惑う魔界の住人たちが悲鳴を上げる。教会から流れた聖なる武器を掲げる過激派の前に、城の正門がついに突破されようとしていた。


「そこを退け! 王のいない城など、ただの空き箱だ!」


 過激派が極大魔法の詠唱を始める。絶望に誰もが目を閉じた、その時。崩れかけた城門の前に、一人の男が進み出た。


「……はぁ、はぁ……」


 魔王代理、ゼノン。服は焦げ、顔色は死人のように青白い。いつものように胃を押さえて泣く余裕すらなく、ただ、震える足で必死に立っていた。


「退け、ゼノン! 貴様ごと消し飛ぶぞ!」


 だが、ゼノンの脳裏に浮かんでいたのは、かつて自分を掬い上げてくれたあの白磁の手と、温かいスープを出してくれたあの小麦色の笑顔だった。


「……どきません。魔王様も、アルフレッドさんも……手は出させません!!」


 ゼノンの全身から、命の火を燃やすような魔力の奔流が噴き出した。


「たった一人でも……ボクが、死んでも護らなきゃいけないんですぅ!!」


 その叫びと共に、ゼノンの体がどろりと漆黒の液体となって崩れ落ちた。溢れ出した液体は、瞬く間に魔王城下町を完全に覆い尽くすほどの、巨大な漆黒のスライムへと姿を変えた。


「なっ……なんだあれは!?」

「構うな! 撃てぇぇっ!!」


 過激派たちが一斉に魔法を放つ。それらすべてを、巨大なスライムが静かに吸い込む。だが、魔法を受けるたびに、ゼノンの命は確実に削られていく。


 それでも、彼は一歩も引かなかった。


「ボクだって……みんなを護りたいんですよぉぉぉ!!」

最後までお読みいただきありがとうございます! 少しでも「面白い」と思っていただけたら、【★での評価】や【ブックマーク(フォロー)】で応援してもらえると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ