第62話「運命の石(リア・ファル)の叫び」
リヒトはシステムにより現実世界に強制送還された。
でも、安心したのも束の間——、
「……今の、聞こえた?」
私は思わず顔を上げた。
リヒトが消え、私の配信も終わり、
境界の聖域に、ようやく静けさが訪れたと思われた。
だけど今、静まり返った浮島に
ピキッ……
と、乾いた音が響いた。
「神殿の方からしたみたいね……」
ノエルはそっと竪琴を抱え直し、前方を見つめた。
石段の上にそびえる、白い建物。
崩れかけた柱列の向こうでは、古びた神殿に、光るコードの文字列が雪のように降り注いでいた。
「行ってみるか」
「うん……行こ」
私たちは顔を見合わせると、神殿へ向かって石段を登り始めた。
* * *
「うわ……でっか……」
神殿の入口は、近くで見ると想像以上の迫力だった。
私たちの身長よりもはるかに大きな両開きの扉は、なめらかな白い石でできていた。
そして表面には、神秘的な模様や、見たこともない古い文字がびっしりと刻まれている。
「ふんっ……!」
バルガンが両手をかけ、扉を全身の力で押す。
「ぬおおおおっ……!」
だが彼が顔を真っ赤にして力を込めても、扉はびくともしない。
「私もやってみる!」
私も反対側の扉に手を当て、全身の体重をかけて押してみた。
「ふむむむむ!」
「おねーたん、ひっぱるでち?」
「あ、そうか」
「ふぎぎぎぎぎ!」
私は魔法少女のドレス姿のまま、片方の扉に足をかけ、力いっぱい引いてみたが、それでも扉は動かなかった。
重いとか、そういう問題じゃない。
まるで世界の秘密を守る壁のように、扉は侵入者を硬く拒んでいた。
「ダメだよ、全然動かない!」
「封印されている、という感じよね……」
ノエルは扉に刻まれた古代文字に目をやった。
そして何かに惹かれるように、その視線を背後に向けた。
彼女の視線の先、
広場の中央には、細長い石柱があった。
「……待って」
「どうしたの、ノエル?」
「あの石……もしかして」
彼女は、はっと息を呑んだように目を見開く。
「あれは、リア・ファルかもしれないわ」
「……リア・ファル?」
聞き慣れない名前に、私は首を傾げた。
ノエルは扉に刻まれた古代文字に指先を這わせると、吟遊詩人の風格で、厳かに語り出した。
「トゥアハ・デ・ダナーン——
神々の種族が、この地にもたらした四つの宝のひとつ。
『運命の石』よ」
「運命の、石……?」
その響きに、私はごくりと息を呑んだ。
「『真の王が触れれば、石が叫ぶ』
——そう伝えられているわ」
確かにその石は、初めて見た時から妙に気になっていた。
放射状に敷き詰められた石畳の中央、
天に向かって聳え立つ姿には、不思議な存在感があった。
「でも、それとこの扉に何の関係が……」
「わからない。でも、こんな場所にある以上、無関係とは思えないわ」
ノエルはキッと振り返ると、私を見た。
「まきぽんちゃん。あの石に触れてみて」
「私が?」
私は、きょとんとノエルの顔を見た。
「ええ。不思議な力を使えるあなたなら、何か起こるかもしれないわ」
今は他に手がかりがない。
それに——
この場所まで来て、ただ立ち止まっているわけにもいかなかった。
「……わかった、やってみる!」
私たちは踵を返すと、広場の中央目指して歩いていった。
* * *
「これが……」
リア・ファルは、近づくほどに不思議な石だった。
ただのモノじゃない。
向かい合ってみると、中に何かの意識が宿っているような——
そんな感じがする。
「いくね」
私はみんなの視線を集める中、そっと石柱に触れてみた。
「……」
「……」
「……」
シーン……。
「……やっぱり、何にも起こらないよ?」
私は、他にボタンでもあるのかと、石の周りを探して回った。
「変ね〜……」
その時、バルガンが何かを閃いた。
「なあ、まきぽん」
「なに?」
「お前さんとみきぽんは、二人で一人、なんだったよな?」
「そうだけど……あっ!」
私も気がついた。
「そうよ、まきぽんちゃんとみきぽんちゃん、二人で触れてみたらどうかしら!」
「それだよ! ……やってみよう、みきぽん」
「あい!」
私はみきぽんの手を握った。
そして、それぞれ空いている方の手をリア・ファルにかざし、ゆっくりと押し当ててみた。
二人が同時に、ひんやりとした石に触れた、その瞬間——
オォォォォォォン……!!
浮島全体を揺るがすような、大きな共鳴音が轟いた。
「きゃっ!?」
そして私たちの手のひらから生まれた光が、石の表面を火花のように走ると、
やがて石柱も、石畳も、広場全体が脈打つように光を放ち始めた。
「本当に、石が叫んだな……!」
バルガンも目を見開いた。
——シュウウウウウン!
広場を満たしていた光は、石段を光らせながら、一気に神殿の扉へと向かって走り出した。
「光が……」
「みんな、行ってみよう!」
急いで再び神殿の扉の前に戻ると、そこに刻まれていた文字が、ひとつ、またひとつと青白く光り始めていた。
長きにわたり眠りについていた封印が、ゆっくりと解かれていくように。
ズ……ズズズズズ……
そして重い地鳴りのような音を立てて、ついに神殿の扉が内側へと開いていく。
「扉が……開いた……!」
私は思わず叫んだ。
ようやく開かれた神殿の奥からは、ひんやりとした空気と、淡く青白い光が流れ出してくる。
扉の向こうには、薄暗く、静かな神域が広がっていた。
その時——
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
リア・ファルは、ケルト神話に登場する聖石で、今でもタラの丘に存在していると言われています。
いつの日か、私も「いもモー聖地巡礼」できたらいいなぁ(*´ω`*)
次回、神殿の中で待ち受けていたのは……?
お楽しみに!




