第61話「最終決戦、魔法少女VS悪意の配信者!」
リヒトの弱点を見つけたまきぽんとみきぽん。
ふたりの心を一つにした攻撃が、今、炸裂する——!
「や、やめろ——ッ!!」
リヒトの顔が恐怖に歪む。
「アンタの悪意の配信は、ここで終わりだよ!」
「わるいぱそこん、こわれるでちーー!!」
青とピンクの二つの光は、混じり合い、猛り狂う龍のように、リヒトに正面から襲いかかった。
ドガァァァァァァンッ!!
「ぐぁぁぁぁぁっ!」
リヒトは翼を丸めて防ごうとしたが、勢いは止められず、そのまま冷たい石の階段に叩きつけられた。
反動で爆風が吹き上がる。
「おっと」
飛んできた石の欠片を、バルガンが盾で防いでくれた。
——そして。
ガッシャーーーーーン!
リヒトの手を離れたノートPCは、激しく石段に打ち付けられて大破した。
キーボードの破片が宙を舞い、石畳をカランカランと転がっていく。
「……やったかしら!?」
バルガンの背後から、ノエルが覗き込む。
すると——。
ゴゴゴゴゴ……
浮島が地鳴りを上げる。
「う、うわっ!?」
「なに? 地震!?」
「おねーたん!」
私は咄嗟にみきぽんを抱き寄せた。
境界の聖域が、覆っていた黒いノイズを振り払うかのように揺れると、やがてノイズは勢いを失い、シュウン……と消えていった。
【うおおおお、やったぞ!!】
【PC撃破きたあああ】
【まきみき最強!!】
リヒトの黒い翼も、PCの破壊と同時に、分解されるように消えていった。
「うっ……うわぁぁぁぁぁっ!!」
全ての力を失い、彼は頭を抱えて膝をついた。
「俺の……俺の配信が……!
俺の、俺だけの『劇場』がぁぁぁ!!」
【悪意の配信、閉幕のお時間です】
【リヒトくん、ねぇ今どんな気持ち?】
「はぁ……っ、はぁ……っ……」
私は肩で息をしながら、リヒトを見つめた。
——やっと終わったんだ。
リヒトは壊れたノートPCの残骸を、必死でかき集めようとしている。
「動け……動けよ……!
まだ配信は終わってねーんだよ……!
俺の観客は……俺の数字は……!」
その声には、さっきまでみたいな余裕はもうなかった。
みっともないくらいに必死で、見ているこちらが苦しくなるほどに哀れだった。
「……リヒト」
私が名前を呼ぶと、彼はびくっと肩を震わせた。
「近づくな……!」
壊れたPCを胸に強く抱えながら、こちらを睨みつけてくる。
でもその目には、もう前みたいな力はなかった。
「お前らに何がわかる!」
ノエルは竪琴を下ろし、そっと胸に手を当てた。
バルガンも戦斧を下ろしたまま、険しい顔でリヒトを見ていた。
「俺にはな、これしか……これしかなかったんだよ……!」
「おにーたん……」
肩を落とし、涙をにじませ始めたリヒトを、みきぽんも心配そうに覗き込む。
「現実じゃ、誰も俺なんか見ねぇんだよ。
誰にも褒められねぇ。誰にも必要とされねぇ……」
リヒトは、そんな自分を笑い飛ばそうとしていた。
でも、その顔は涙でぐしゃぐしゃに歪んだだけだった。
「だから、俺はひたすら配信で数字を稼いだ。
数字さえ出せば、みんな俺に注目してくれた……」
その言葉に、ズキッと胸が傷む。
——それは私も、少しだけ同じだったから。
再生数ゼロ、リスナーゼロ。
やっぱり私なんて、誰からも必要とされてないんじゃないかって、怖くてたまらなかったから。
もちろん、それは人を傷つけていい理由にはならない。
だけど——
数字がほしいあまりに、炎上配信者の道を選んでしまったリヒト。
方向は真逆だけど、抱えていた寂しさは、彼も一緒だったんだ……。
私はその場に立ち尽くした。
さっきまであれほど憎らしく思えた背中が、今は壊れたおもちゃにすがる子どもみたいに震えている。
「リヒト」
私は勇気を出して声をかける。
「こんなこと……もう終わりにしようよ」
リヒトはぴくりと肩を振るわせ、こちらを振り返った。
「リアルに帰ろ?」
「……は?」
リヒトが、ぽかんとした顔をする。
「な、何言ってんだよ、お前」
私は力強く彼を見つめた。
「バロールの力を借りて、思う存分他人を傷つけて……
あんたを馬鹿にした誰かを、ここで見返せたかもしれない」
「…………」
「でもさ、あんたもわかったでしょ?
——そんなのは、ずっと続かない。いつかは終わるんだよ!」
病院で眠っていた自分の姿が脳裏に浮かんだ。
リヒトも、リアルではきっと……。
「だからさ、リアルに帰ろって言ってるの!」
「ふっ……ふざけんな……!」
リヒトは私を睨みつける。
「なんで俺なんかを、助けようとするんだよ!?
散々、お前のこと苦しめた俺を……」
「嫌いだからだよ!!」
私は思わず声を強めた。
リヒトが、目を見開く。
「私……あんたのこと、ほんと嫌い!
ムカつくし、性格悪いし、配信者としても最っ低!!」
【急に火の玉ストレートでわろた】
【せやな】
【そこは満場一致】
「でもさ」
私は、スマホをぎゅっと握った。
「ここであんたを見捨てて終わるのは、もっと嫌なの!!」
聖域の石畳を、冷たい風が吹き抜けた。
「私は、そういう終わり方、……やだ」
声が震える。
それでも、リヒトから目は逸らさない。
「あんたも帰って、リアルでやり直しなよ。
辛いかもしんないけど、まだ終わりって決まったわけじゃないでしょ」
「やり直す……?」
リヒトが、ぽつりと呟く。
「今さら、俺が……?」
「できるでち!」
みきぽんがぴょこんと前に出て、小さな体でリヒトを見上げる。
「わるいことしたら『ごめんなたい』するでちよ!
おねーたん、いつもそういってまちた!」
「みきぽん……」
「そうね」
ノエルが、そっと口を開いた。
「ここで消えて終わりにするより、生きて償う方が、ずっと苦しい。
でも……そっちのほうが、ずっと価値があるわ」
「ちっ……」
バルガンも舌打ちをしたが、満更でもない顔をしている。
「おめーのことは気に入らねえけどよ、……ま、ここで死なれてもスッキリしねえからな」
【帰れよ、リヒト】
【リアルで配信やり直せ】
【俺、生まれ変わるなら見にいってやってもいいからな】
コメント欄にも、思った以上に優しい言葉が流れていた。
リヒトはそれを見て、憑き物が落ちたような顔をした。
「……なんだよ、それ……」
そして手の中の壊れた機械の破片を、きゅっと握りしめた。
「なんで……なんで、そんなこと言うんだよ……」
神殿を覆っていた黒い雲が、少しずつ晴れていく。
「決まってるじゃん」
私は深く息を吸った。
「配信って、本当は人を不幸にするためのものじゃないからだよ」
その瞬間、私の周りに光の渦が走った。
そして警告音とともに、空中に見慣れぬシステムウィンドウが立ち上がった。
「な、何!?」
『——接続異常対象を確認』
『言語詠唱システム、対象とティル・ナ・スカとのリンク崩壊を確認』
『現実への強制送還処理、開始します』
無機質なアナウンスが流れる。
ティル・ナ・スカの『世界』それ自体が、リヒトに裁定を下したかのように。
「……え?」
リヒトが顔を上げる。
彼の足元に、白い魔法陣のような光の輪が浮かび上がっていた。
「おい、なんだよこれ……!」
「リヒト!」
私は思わず手を伸ばす。
白い光が、リヒトの体を下から包み込んでいく。
「ま、待て……! 俺はまだ……」
「帰って!!」
私は叫んだ。
「今度こそ、リアルでちゃんと生きて!」
リヒトは、はじめて私をまっすぐに見つめた。
その目には、もう悪意は宿っていなかった。
代わりにそこにあったのは——
迷子の子供みたいな、どうしようもなく不安そうな瞳だった。
「……お前って、ほんと……変なやつ……」
光が、さらに強くなる。
「まきぽんちゃん、危ない!」
ノエルが私の腕を引いた。
次の瞬間、リヒトの身体は真っ白な光に包まれて——
跡形もなく、消えた。
後には壊れたノートPCの破片だけが残っていた。
【……行った?】
【リヒト帰ったのか】
【不本意ログアウトで草……いや草じゃねえな】
「……今度こそ、終わった?」
私は荒い呼吸を整えながら、呆然と立ち尽くす。
「みてーだな」
バルガンはあたりを見渡してうなずいた。
「少なくとも、あのクソ野郎の気配は消えたようだ」
みきぽんも私の手をぎゅっと握ったまま、きょろきょろと見回した。
「おにーたん、かえったでちか……?」
「うん……多分」
でも、その静寂の中、
ピキッ。
神殿の方から、かすかな音が聞こえてきて、
私たちは、はじかれるように神殿を見上げた——。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました!
散々悪あがきをしていたリヒトも、リアルに帰っていきました。
でもね、私だって、私だって……
PVゼロで心がガツンと落ち込む、辛い日だってあるんだよぉぉぉ!
でも、闇堕ちせずにしっかりがんばります(笑)。
さて、この先いつか、配信で『きれいなリヒト』が見られる日が来る……のか!?
その時を楽しみにしていましょう(≧▽≦)




