表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で待ってた妹はモーニングスターで戦う魔法少女(物理)だった件  作者: 未知(いまだ・とも)
第2章 〜私たちの還る場所〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/70

第58話「魂の器——迫られる、選択」

リヒトは、まきぽんの誰にも見せたくなかった過去の姿を見せつけます。

残酷な精神攻撃に、まきぽんは……?

ひときわ大きな画面。

まるで、魔女の鏡のように禍々しいモニターに映し出されたのは——


私の子供部屋だった。


誰もいない冷え切った部屋に、絵本やおもちゃが散らばっていて、

その真ん中に、ポツンと水色のドレスを着たみきちゃん人形が転がっている。


「……っ」


つぶらな瞳を見ると、胸の奥がチリリと痛む。


あの子のことは、今でもちゃんと覚えている。

泣きたい時も、寂しい時も、ずっと一緒にいてくれた。


おとーさんとおかーさんが買ってくれた、大切なお人形——。


「おねーたん……」


みきぽんも、不安そうに私のローブの裾を握ったまま、映像を見上げていた。


階段の上で、リヒトが満足そうに口元を歪める。


「その人形はな。お前にとって、ただのお気に入りのおもちゃじゃない」


カタカタッ。

ノートPCのキーが叩かれ、映像が切り替わる。


今度は、布団の中で泣いている、幼い私が映し出された。

暗がりの中で人形を抱きしめながら、背中を丸めて、声を殺して泣いている。


——わかってしまったんだ。


おとーさんがいなくなり、家の空気が変わったこと。

楽しかった日常が、もう元には戻らなくなってしまったこと。


そして、怖くなった。


変わらないものなんてない。

大好きな人も、ある日突然いなくなる。


自分の居場所も、私さえも。

いつかふっと消えてしまうんじゃないかと——。


「やめて……」


やっと絞り出した声は、あまりにもか細いものだった。


《ずっと泣いてばっかかよ》

《そんなんじゃ、親も見捨てたくなるよなw》


「やめてよ……」


リヒトの言葉による追撃は、止まらない。


「『寂しい』『悲しい』『捨てないで』——。

 お前は、そんな感情を言葉にできないまま飲み込んだ」


【まきぽん、どうしたんだよ】

【顔色悪いぞ、しっかりしろよ!】


「……そしてお前は、泣かない、いい子でいることを選んだんだ」


その一言一言が、鋭い針みたいに胸に刺さる。


リヒトの言っていることは——全部、本当だった。


私は泣きたかった。

でも泣かなかった。


泣いたら、おかーさんをもっと困らせると思ったから。


そんな子は、捨てられると思ったから——。


「でもな」


リヒトの目が、愉しげに細くなる。


「人間、押し殺した感情はなくならない。

 消えたように見えても、ただ心の底に沈んでいくだけだ」


ザザッ、と画面に黒いノイズが走る。


映像の中の私は、みきちゃん人形を抱きしめたまま、ぽろぽろと涙をこぼしていた。

それでも口元だけは、きつく閉じている。


声を出さないように。


誰も困らせないように。


「なあ、まきぽん」


リヒトが、心底楽しそうに囁く。


「その時、お前は願ったんだろ?

 『この悲しさを、誰かに持っていってほしい』って」


「……っ!」


息が止まった。


そんなことを、言葉にした覚えはない。

でも——。


(思ってた……)


幼い私は、心のどこかで確かに願っていた。


苦しい。

寂しい。

怖い。


こんな気持ち、なくなってほしい。

誰か、代わりに持っていって。

私の代わりに泣いて。


——私の代わりに、悲しんで。


「やめて……っ!」


耐えられずに、私は叫んだ。


【まきぽん……】

【おいリヒト、それ以上やめろよ】


コメントが流れる。

その優しさが、今は逆に苦しかった。


だって今晒されているのは——

誰にも見せたくなかった、弱くて幼くて、情けない私だから。


「お前は、ずいぶん自分勝手だよな?」


リヒトは笑った。


「自分じゃ抱えきれない苦しみを、誰かに背負わせたかったんだろ?」


ぽろりと、涙が溢れる。

泣いているところなんて、見せたくないのに。


その瞬間——

私が弱っているのを嗅ぎつけたのか、クー・シーが鋭い牙で私に狙いを定めてきた。


「きゃあっ!」


「……危ねぇっ!」


すぐ横で、バルガンの戦斧とクー・シーの牙がぶつかり合い、火花が散った。


「まきぽんちゃん、しっかり!」


ノエルの竪琴の音色も、絶え間なく響いている。


「……ありがとう」


今この時にも、バルガンとノエルは、私たちを守るために必死で戦ってくれている。


だが、リヒトはそんなことにも目もくれず、攻撃の手を緩めようとしない。


カタカタッ……。


リヒトがPCを操作すると、みきちゃん人形が大きく映し出される。


そして次の瞬間。

人形が、ほわ……っと淡い光を放ち始めた。


「……え?」


私は息を呑む。


ガラス玉みたいな瞳に、青い光が灯った。

その瞬間を、みきぽんは苦しそうな顔で見つめていた。


「な、何……?」


心臓が早鐘を打つ。

リヒトは、その反応を待っていたみたいに笑った。


「今、そいつは『器』になった」


「器……?」


「お前が抱えきれなくなった悲しみを、受け止めるためのな」


人形の瞳は、悲しみに満ちた青い光を放っている。


「人形に宿ったんだよ。

 お前の——『捨てられた子供』としての悲しみが」


「……嘘っ」


……そんなこと、ありえない。

頭の奥がぐらぐらする。


「そして人形に宿った悲しみは、お前の心の片隅で徐々に成長しながら——

 ついにこのスカで形になった。

 焼き付けられた、強い『感情』としてな」


「……!」


そうだ。瑛士さんが言っていた。


強い感情が形になる世界。

言語詠唱システム。

バロールの暴走。


つまり——。


「AIバロールが、私の悲しみを『みきぽん』として、この世界に固定した……?」


「その通りだ」


リヒトはケラケラと嘲笑した。


「おねーたん……」


みきぽんは、大きな瞳に涙を浮かべて私を見上げていた。


「みきぽん、ずっと……かなしかったでち」


「悲しかった……?」


「おねーたんが、かなしいとき。

 おねーたんが、ひとりでがんばってるとき。

 ……みきぽんも、むねがぎゅーってして、ないちゃいそうだったでち」


ぽつり、ぽつりと、みきぽんは自分の言葉で続ける。


「でも、みきぽんがかなしければ……

 おねーたんは、わらっていられまちた……」


「みきぽん……」


私は、何も言えなくなる。


「そういうことだ」


リヒトが勝ち誇ったように告げる。


「みきぽんは、お前の『妹』じゃない」


上空を激しい稲光が走る。


「お前が捨てたかった、感情の『残骸』なんだよ!」


神殿が、リヒトが、

戦っている仲間たちの姿が、稲光に照らされて網膜に焼き付いた。


同時に私の中で、大きく何かが壊れる音がした。


「うそ……」


みきぽんは、ただ、私のローブをぎゅっと掴んでうつむいている。


「……じゃあ」


やっと私は、声を絞り出した。


「この子は……ずっと、私の代わりに苦しんでたってこと……?」


「ああ、そういうこったな」


リヒトは肩をすくめる。


「やっとわかったのかよ、鈍い姉だな」


「そんな……」


私は力を失い、その場に膝をついた。


今まで、みきぽんは守るべき妹だと思っていた。


でも、その正体は——

自分の心が壊れないように、私が切り捨てた悲しみ。


みきぽんの方が、私を守ってくれていたなんて……。


「おねーたん……」


みきぽんが、私の胸元に顔をうずめる。


「みきぽん、おねーたんが、だいすきでち」


その一言で、余計に胸が締めつけられた。


「なんで……」


声が震える。


「なんでそんな大切なこと、今まで言わなかったの……」


みきぽんは、困ったように目をぱちぱちさせた。


「だって……おねーたん、がんばってまちた。

 じゃましちゃだめって、おもってたでち」


「……っ」


無理に笑おうとしている、その笑顔を見たら……もう限界だった。


「私が笑うために、みきぽんを犠牲にしていたなんて……

 そんなの……そんなのやだよ……」


こらえていた涙が、ぼろっとこぼれ落ちる。

私はみきぽんを、ますます強く抱きしめた。


「——はいはい、美談タイムはそこまでだ」


リヒトが冷たく言い放つ。


「で、問題はここからだぜ」


ノートPCの光が、リヒトの悪意に満ちた笑みを浮かび上がらせる。


「なあ、まきぽん。

 この世界——ティル・ナ・スカが消えたら、そいつはどうなると思う?」


「……どういうこと?」


私はみきぽんを抱きしめたまま、睨み返す。


「簡単な話だよ」


リヒトは、楽しそうに嗤った。


「そいつは、お前の心から切り離された存在だ。

 スカが消えれば、一緒に消えちまう」


「……消える?」


その言葉を、私は咄嗟に理解できなかった。


「そう。この世界を救おうとすれば——」


リヒトの声が、やけに染み入るように響く。


「みきぽんは、消えてなくなる」


「……!」


視界が、暗転した。

足元がぐらりと揺れた感覚に襲われる。


「うそ……」


「でも、バロールを倒して現実に帰らないと、お前の本体は危ない。

 ——つまり、『詰み』なんだよ」


リヒトは、心底楽しそうに笑う。


「現実を取れば、妹が消える。

 妹を取れば、自分が死ぬ」


喉がからからになった。


「さあ、どうする?

 『捨てられた子供』の次は、『妹を消す姉』にでもなるか?」


「やめて!!」


私は叫んだ。


でも、その叫びは自分でも情けないくらい震えていた。


みきぽんは、きゅっと私に縋りついた。


「おねーたん……だいじょぶでち」


「大丈夫じゃないよ!」


私は、みきぽんを抱きしめる腕に、さらに力を込めた。


「全然、大丈夫じゃない……」


小さくて、あったかい体。

柔らかい髪。

ぎゅっとしがみついてくれる腕。


私の心が壊れないように、ずっと守ってくれていた、みきぽん。


やっと、この世界で出会えたのに。

『消える』だなんて、そんなの——。


「……おねーたん」


みきぽんが、そっと私の頬に触れた。


「みきぽんね、おねーたんが、まいにち

 たのしくいきてくれるなら……それでいいでち」


「やだ」


即答だった。


「そんなの、絶対やだよ!」


みきぽんが目を丸くする。


「やっと会えたのに……

 そんな簡単に、消しちゃうなんてできるわけないよ……!」


【……つらい】

【これ選べって無理だろ】

【まきぽん……】


コメントもさきほどまでの勢いはなく、戸惑いと悲しみに溢れていた。


だが——その中で。


【おい、まだ詰んでるなんて決まってねーだろ!】


ひとつの発言が、私の目を強く射抜いた。


【選択肢がその二つだけなんて、誰が決めたんだよ!】


「……!」


私はハッとした。


そうだ。

まだ、決まったわけじゃない。


リヒトが勝手に二択だと思わせているだけだ。


【確かにな】

【おまえ、頭いいな】

【そうだぞまきぽん、諦めんな!】


エリアスも、リゼも、ノエルも、バルガンも、そして私も——

ここまで何度も、この世界の理不尽をひっくり返してきた。


だったら。


「……どっちも、お断り」


私は涙を拭い、顔を上げた。


「何?」


リヒトが、少しだけ眉をひそめる。


「アンタが勝手に用意したバッドエンドなんか、選ぶわけないじゃん!」


私はスマホを握りしめた。


「私はみきぽんも、現実も、どっちも諦めない。

 エリアスたちが作ったこの世界なら——きっと、まだ道はある!」


「へぇ?」


リヒトが笑う。

でもその笑いには、先ほどまでの余裕はない。


「だったら見せてみろよ。

 その『第三のルート』とやらをよ!」


「……いいよ、やってやる!」


私は、みきぽんを抱きしめたまま立ち上がる。

足は震えている。

心臓も、痛いくらい鳴っている。


確証はない。それでも。


「私はもう、自分の悲しみから逃げない。

 この子ごと、ちゃんと受け止める」


みきぽんが、私を見上げる。

その瞳の奥に、青い光が灯った。


「おねーたん……」


「だから、一緒に探そう」


私はみきぽんを見つめ、泣きながら笑った。


「私たち、二人で帰る方法を!」


その瞬間。

みきぽんの胸元で、ブローチがまばゆいほどに青く輝いた。


挿絵(By みてみん)


「……!」


聖域の空気が変わる。

リヒトの口元が、ぴくりと引きつった。


「……おい、まさか」


淡いブルーの瞬きは、みきぽんの全身を包み込んでいく。


それは悲しみの色じゃない。

深くて、澄んでいて、まっすぐな……


誰かを守りたいと願う、強い心の色だった。


「おねーたん……!」


みきぽんは、小さな手で私の手を握った。


「みきぽんも、おねーたんと、いっしょにかえるでち!」


青い光が、さらに強くなる。


「チッ……まだ諦めてねーのかよっ!」


私は、青白い光に包まれたみきぽんを見つめていた。


この光は、きっと——

私たちの未来を変えてくれる。


最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。


次回、二人の選ぶ道に希望はあるのか……?

引き続き、見届けていただけたら嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ