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異世界で待ってた妹はモーニングスターで戦う魔法少女(物理)だった件  作者: 未知(いまだ・とも)
第2章 〜私たちの還る場所〜

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第57話「みきぽんの正体——公開処刑、開始!」

ルグの覚醒を阻止するため、再びまきぽんたちの行く手を阻むリヒト。

まきぽんは戦うため、みんなに自分の過去を見せることを決意するが……?

ピコンッ。


スマホアプリの配信が始まり、私たちの周囲にいつものコメントウィンドウが浮かび上がる。


【うおおおお、配信始まった!】

【ってそこどこ!?】

【ティルナノにこんなマップあったっけ……?】


「みなさん、こんにちは!」


声が少しだけ掠れたが、無理やり笑顔を作る。


「……今、緊急で動画を回しています!」


【出た、『緊急で回してます』】

【配信者が一度は言ってみたいセリフ】


「ここは境界の聖域ってとこなんだけど……あれ、見てください!」


私はスマホを持ち上げ、神殿と、その手前の階段にいるリヒトを映した。


「今日は、ちょっとヤバい配信になりそうです!」


【ちょ、リヒトじゃねーかww】

【生きとったんかワレェ】

【まじかこのコラボ最悪すぎる】


「これコラボじゃないからね!? こんなのと絶対コラボしたくないからね!?」


私が叫ぶと、階段の上のリヒトは、肩を揺らして笑った。


「いいじゃねーか。数字取れるぞ?」


《今日の生贄はこいつか?》

《へへっ、いい顔で泣いてくれよ》


リヒト側のリスナーからは、嘲るようなコメントが溢れる。


「さあ……今日は盛り上がろうぜ、まきぽん」


バルガンが私を守ろうと、リヒトの前に立ちはだかってくれた。


「おい、何のつもりだ?」


この世界の住人であるバルガンやノエルには、リスナーたちのコメントは見えない。

私が一人でリヒトに立ち向かっているように見えるんだろう。


「おっと、お前らは邪魔すんなよ。

 ——こいつの相手でもしてろ」


オオオーーーン……


リヒトがそう言ってPCを操作すると、不気味な遠吠えとともに、黒い大きな魔狼が姿を現した。

洞窟で私たちを襲った魔物、クー・シーだ。


私がリスナーのコメントを、スマホで魔力に変換できるように、

リヒトは自分のリスナーの悪意に満ちたコメントを、PCを使って魔物やマジックアイテムとして具現化することができる。


「クソッ、またかよ!」


「まきぽんちゃん、魔物は私たちに任せて!」


ノエルは緊張した面持ちで竪琴に手をかけた。


「二人とも……ありがとう!」


バルガンとノエルは、私たちに時間を与えるため、漆黒の魔物に立ち向かっていった。


「——さあ、邪魔者はいなくなったぜ!

 お前の見せたくない過去、みんなにもっと見てもらおうな?」


「……最っ低」


惨めな姿を次々と強制的に見せられて、私は唇を噛んだ。


【まきぽん、顔色悪そうだけど大丈夫か?】

【ちょっと深呼吸しろ、な?】

【俺たちはお前を見てるからな!】


コメントが次々と流れていく。

その心強い言葉で、少しだけ気が軽くなった。


(……そうだ。今の私は、一人じゃない)


「みんな、ありがと!」


私は息を整えると、キッとリヒトを見上げた。


「あんたさ、勝手に人の過去を切り抜くとか、ほんと趣味悪いよね」


「過去?」


リヒトは、ノートPCを片手で軽く持ち上げる。


「違うな。これは『素材』だ。

 観客が一番盛り上がるのは、生の絶望なんだよ」


カタカタッ。

キーを叩く音がやけに大きく響き、そのたびに、私の闇を映した配信画面が現れる。


SNSでつぶやいても、ショート動画を作っても。

全然いいねが付かない。

登録者も増えない。


誰からも見つけてもらえなくて途方に暮れていた、昔の私。


《ギャハハッ! 惨めだなぁ?》

《無名ってのは、いてもいなくても同じだよな?》

《ほら、泣け!泣けよ!》


リヒトは自分のリスナーたちが盛り上がるのを、満足そうに眺めている。


「——『観客リスナー』ってのは、こういうのが好きだろ?

 頑張ってるヤツが、報われない瞬間とかさ」


【好きじゃねーよ、勝手に主語でかくすんなよ!】

【こっちは応援するために来てんだよ】


そのコメントを見て、目頭がジワッと熱くなる。


「そうだよ、みんながいてくれる。

 だからこんなの、全然効かないんだから!」


「……へえ、まだ余裕ありそうだな?」


リヒトは、そんなものは気にも留めないとでもいうように笑っていた。


「じゃ、これはどうだ?

 みんなに、もっとおもしれーもんを見せてやろうぜ?」


カチッ。


一枚のモニターが切り替わる。

そこに映されたのは——


幼い頃の私だった。


「え……?」


一瞬、思考が止まった。


見覚えのある暗い部屋に、今よりずっと小さかった私が座っている。


あれは……私が三歳くらいの頃だった。


部屋の片隅には、段ボール箱が積まれていた。

そして床の上には、何かが散らばっている。


ぬいぐるみ。

絵本。

おもちゃ。


そして——。


私は、女の子の人形を大切そうに抱いていた。


挿絵(By みてみん)


「……みきちゃん」


ずっと記憶の底に埋もれていた、人形の名前がぽろりとこぼれてきた。


丸くて青い瞳。

紫色のツインテールに、水色のワンピース。


【なにこれ】

【まきぽんの子どもの頃?】

【うおめっちゃかわいい! ……けど、なんで泣いてんの?】


「へぇ」


リヒトが、にやりと笑う。


「それが、お前のお気に入りか?」


神殿の空気が張り詰め、みきぽんが、ぴくっと肩を震わせた。


「……おねーたん?」


「リヒト、あんたどこまで知ってるの……」


返事をした私の喉は、からからに乾いていた。


「お前は小さい頃、両親が離婚して、母親と二人で今のマンションに引っ越したんだよな?」


リヒトが続ける。


「荷物が段ボールに詰められ、知らない大人たちが家の中でバタバタしてる。

 でも、小さかったお前には、何が起きてるのかわからなかった」


カタカタと、彼は愉快そうにキーボードを叩いた。


別のモニターの中では、幼い私が部屋の隅っこに座っていた。

遠くから、両親の声が聞こえる。


子供にはわからない内容だったが、少なくとも、楽しそうな雰囲気ではなかった。


幼い私はどうしたらいいかわからず、ただ、家の中の空気が変わるのだけを感じ取っていた。


何か、悪いことが起きてる。

何か、変わってしまう。


——何か、大事なものがなくなる。


「やめて……」


私はもう一度言った。

でも、リヒトの精神攻撃は止まらない。


「お前、その時思ったんだろ?」


またキーを叩く。


映像の中で、私は水色の服の人形を抱きしめていた。

ぎゅっと、壊れそうなくらい強く。


「お前のオヤジは、母親と、家族で住んでいた家を捨てた。

 じゃあ、次に捨てられるのは誰だ?——」


リヒトは残酷な笑みを浮かべながら、私を指差した。


「そうだよ、『お前』だ」


「……っ!」


息が詰まる。

胸の中の、一番柔らかくて一番見たくなかった場所に、冷たい針を差し込まれたような衝撃が走った。


(違う……)


違うって言いたい。

でも、口から言葉が出てこない。


だって——。


心の底では、そう思っていたから。


幼い私は、言葉にこそしなかったけど……、

心のどこかで、ずっと怯えていた。


次に捨てられるのは、自分なんじゃないかって。


「……ちがっ」


私は、知らず知らずのうちに、自分の胸元を押さえていた。

痛い。

息がしづらい。


「——どうした、まきぽん?」


リヒトが嗤う。


「まだ始まったばかりだぞ?

 『捨てられた』子供としての自覚、ちゃんと持てよな」


「そんなふうに言うのやめて……!」


私は反射的に叫んでいた。


「へえ? 違うのかよ?」


「違うってば……」


リヒトは首を傾げる。


「そうかよ、じゃあ見てみろよ」


また一つ、私に見せつけるために、新しいモニターが目の前に浮かび上がる。


 * * *


幼い頃の私は、引っ越した先の部屋にいた。

ぼーっと床を見つめたまま、ますます人形を強く抱きしめている。


「……どうしたの、りおん?

 今日からこのお家で、二人で一緒に暮らすのよ?」


「……おとーさんは?」


おかーさんは、とても悲しそうな顔をしていた。


「お父さんはね、もう帰ってこないのよ」


「そんなの……やだよぉ……」


「ごめんねりおん。でも、お母さんももう限界だったのよ……」


「やだぁ、やだよぉ……」


優しく語りかけるおかーさんの言葉にも耳を貸さずに、私はひたすら心を閉ざし、泣きじゃくっていた。


 * * *


ノートPCの周りでは、敵意のあるコメントが渦を巻いた。


《おーおー、かわいそうだな》

《泣けば大人がかまってくれると思ってるのか?》

《よかったじゃん、こういう不幸エピって伸びるからなぁ》


「やめて……!」


私は歯を食いしばる。

黒いコメントの文字列は、まるで蛇のように空中を這い回りながら、容赦無く私の心を抉りにくる。


《いらない子》


《いらない子》


《お前なんていらないんだよ》


「やめてって、言ってるでしょ!!」


声を張り上げた瞬間、スマホのコメント欄が一気に流れた。


【おい勝手に決めつけんな】

【まきぽんは、いらない子なんかじゃない!】

【今、千人以上が見てるじゃねーか】


「……!」


私ははっとして、スマホを見る。


コメントは途切れていなかった。

それどころか、私を応援してくれるように、どんどん流れている。


【まきぽんは一人じゃないぞ!】

【お前の配信見て、救われたやつがここにいる】

【少なくとも俺は、必要としてるからな!】


胸の奥に、熱いものが込み上げてきた。


「……そうだよ」


私は、かすれた声で言った。


「今の私は、一人じゃない」


「そうだな、『今』のお前はな」


リヒトが、たたみかけるように口を挟んだ。


「じゃあ、『その頃』のお前はどうだった?」


「——!」


言葉が止まる。

それは、あまりにも卑怯な問いだった。


今の私は、仲間がいる。

リスナーもいる。

角笛団のみんなも、みきぽんも。


でも——その頃の私は?


薄暗い部屋の片隅で。

一人で人形を抱きしめて。


何が起きているかもわからないまま、ただ怯えていた、あの頃の私は?


私は、すぐに答えることができなかった。


「ほらな」


リヒトは笑う。


「今のお前にも、昔のお前は救えない」


配信画面の中の私は、孤独に震えていた。


泣きはらした瞳。

ぎゅっと閉じた唇。

誰にも言えなかった不安——。


映像を見せつけられるたびに、あの頃の胸の痛みが蘇ってくる。


「やだ……」


視界が滲み、次第に立っているのが辛くなってきた。


「おねーたん!」


みきぽんが、私の手を握ってくれた。


「しっかりするでち!」


「だ、だいじょうぶ……」


すっかり顔色を失った私に向かって、

みきぽんは、空中の映像を見つめたまま、ぽつりと呟いた。


「あのころのおねーたんには……みきちゃんが、いたでち……」


「え……?」


みきぽんがにっこりと笑った。

そしてモニターに映る人形を、ゆっくりと指差した。


——あれは自分だ、とでも言うように。


そうだ。


あの頃大好きだったアニメ、『二人はピュアピュア』。

目の前に、助け合いながら戦う二人の魔法少女の姿が浮かんだ。


ピンク色のドレスに身を包んだ、主人公『ピュアピンク』。

そして隣には、親友の『ピュアブルー』。

その正体は、クラスメイトの蓬莱寺ほうらいじみき。


そう、あの人形の名前は、『みきちゃん』……。


私は、全てを思い出した。


「おねーたん……」


みきぽんは、私のローブの裾をきゅっと掴んだ。

辺りの空気が、ぴんと張り詰める。


「ようやく、思い出したようだな」


リヒトが、口角を吊り上げた。


「そうだよ。その人形が、お前の妹の正体なんだよ!」


「……!」


心臓が、どくんと大きく脈打った。


「何……言ってるの……?」


【みきぽんが……人形!?】

【おいリヒト、テキトーなこと言ってんじゃねぇぞ!?】


「テキトーなもんか」


ノートPCの画面が、妖しく光る。


「次は、そのちっぽけな人形——

 『みきちゃん』が、どうしてここにいるのかを教えてやるよ」


みきぽんの指先が、さらに強く私の裾を掴んだ。

その小さな手は、かすかに震えていた。


「おねーたん……」


「……みきぽん、大丈夫だよ」


私は、自分でも信じられないほど震える声で、そう返した。


本当は、ぜんぜん大丈夫なんかじゃない。

でも、ここでやめるわけにはいかなかった。


「最後まで、一緒に見るよ」


私は、スマホを握り直した。


「私の過去も、みきぽんのことも——

 全部、自分の目で確かめる」


リヒトは、それを聞いて満足そうに笑った。


「いい顔になってきたじゃねえか、まきぽん」


そして、ゆっくりとキーボードに指をかける。


「じゃあ、次の配信パートにいこうぜ」


ザザザッ……

辺りを囲む黒い配信画面に、一斉にノイズが走った。


「よし、お前の妹——

 『みきぽん』誕生編の始まりだ」


最後までお読みいただきまして、ありがとうございました!


同接と再生回数を稼ぐため、他人の一番見せたくない心の傷をえぐるリヒト……

リアルでは絶対に会いたくないタイプですね:( ;´꒳`;):


次回、ついにみきぽん誕生の秘密が明らかに……? お楽しみに!

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