Step28. 魔導書の購入
一週間の端っこ日曜日。
おやおや、いつも朝寝坊の沢渡ちゃんが早起きして張りきってますよ。
なぜかって……今日は月に一度のお買い物の日だから!
今日は本屋さんに行く予定。
ふっ、何を買うかって?
聞いて驚くなかれ、魔導書を買って、本格的に魔法の勉強をしようと思う。
ファンタジーの世界に来たのだ、魔法使いにならずにどうする。
……魔導書って何か知らないんだけどね。
ジン先輩に聞いたところによると、魔導書があれば簡単に魔法が使えるらしい。
魔法の使い方もレクチャーして欲しいので、小さめの専門店に向かっている。
大型店だと、品揃えは豊富かも知れないが、細々としたことは聞きづらい。
お店の名前は、魔法堂。
……聞き覚えがあるような無いような。
汎用的な名前だし、どこにでもあるよね!
大通りから、一本入った所にお店があった。
初めてのお店は、緊張するけど深呼吸して突撃!
ドアを開けると、カランカランカランと気持ちの良い鈴の音。
「いらっしゃいませーニャ!」
若い女性の店員さんが、元気に挨拶してくれた。
咄嗟に視線を逸らす。
――しまったな。
お婆さんか、お爺さんが店番をしていると思い込んでた。
うつむいたまま移動して本を探す。
「何かお探しかニャ?」
くっ、寄るな。寄るな。
「……しばらく見たいので、だいじょうぶ、です」
「わかりました。何かありましたらお声がけくださいニャー」
申し訳ないが、ありがた迷惑なサービスNo.1だろう。
いや、違うな。
何も知らない自分にとって、これは期待していた展開だ。
……店員が若い女性、という誤算を除いて。
本を見て行くと、思っている本がない。
本と言っていいのか分からないのだが、表紙を合わせて2ページしかない。
中身は見れないが、おそらく魔法陣だろう。
「お客様は、初めてかニャ?」
店員さんが、ニュッと目の前に現れる。
不意打ちで、目視を逃れられない。
……見ると二足歩行の猫だった。
いわゆるケット・シーというやつだ。
これなら大丈夫。声に騙されたっ!
「はい、魔導書を買うのも使うのも初めてなので、教えてください」
「それならそうと、初めから言うニャ!」
きっと素人感が、丸出しだったんだろうな……
「まずは、この買い物カゴを持つニャ」
出された買い物カゴを受け取る。
……最初からミスってたやつだ。
「それから、欲しい魔法を選ぶニャ。最後に表紙に閉じて、魔導書としてお渡しするニャ。表紙は次回お持ちいただけたら、追加するニャ。表紙は、こちらの10種類の中から選んでくださいニャ」
手ぶらで来た時点で、買う気がないか、初心者確定じゃないか!
「魔法を買うには注意点として、年齢と資格の制限があるニャ。お客様は身分証をお持ちかニャ?」
そりゃそうか、危険な魔法だってあるんだ。誰もが買えたらまずいだろう。
「えーと、会社の社員証なんですが、これでどうですか?」
「ニャニャニャニャ!? Magic Softの社員さんじゃニャいですか! ブルーカードだけど、多くの魔法はご購入いただけますニャ」
有名な会社なのだろうか?
そこそこ大きかったし、知名度はあるのかな、誰でも入れそうな感じだったけど……
あとカードの色には、意味があったのか。
つい先日ジェシカから、試用期間が終わったのでって、渡されたやつだ。
前のカードだと、年齢証明くらいにしかならなかっただろうし、タイミング良かった。
「あとニャいとは思いますが、本に施された鍵を外さないと中は開けないニャ。盗んでも爆音と追跡の魔法がかかっているので、地の果てまで追いかけるニャ!」
セキュリティが、しっかりしていて安心だな。
「ありがとうございます。大体分かりましたニャ」
おっと、釣られてしまった。
「それで改めまして、何をお探しニャ?」
「いやぁ、何も考えてないんですよね。例えば生活に便利な魔法だと、お勧めとかありますか?」
「そうだニャぁ。時刻確認、飲料水生成、ライティング、お着換えあたりがお勧めですニャ」
確かに便利そうだ。
着替えってもしかしたら、変身みたいなことができるんじゃ……
憧れのヒーロー、漢のロマンが詰まっている。
「全部ください!」
迷う必要は何もないだろう。色々試したい。
「お買い上げありがとうございますニャ。気前のいいお兄さんニャ」
「生活魔法でなくてもいいので、他にお勧めはありますか?」
「お、いいニャア。リストアップするので、少々お待ちくださいニャ」
「おねがいしまーす」
ワクワクテカテカするなぁ。
* * * * *
「おっませしましたニャ。お兄さんが購入可能で、お勧めのリストニャ」
・火炎球
5メートル先まで、火の球を飛ばす。
危ないので、人のいる場所で使ってはならない。
・水流球
5メートル先まで、水の球を飛ばす。
殺傷能力はないが、人のいる場所で使うと迷惑になる。
・気圧変化
1メートル四方の領域の気圧を変化させる。
耳が痛くなるので、人のいる場所で使ってはならない。
・浄化
物質の特徴を無くす。
例えば、毒物は無害化されるが、薬は効果がなくなる。
生物には効果がない。
・変態(獣人)
体の形状を獣人に変える。
バリエーションが沢山ある。人を驚かすのにお勧め。
・望遠視
遠くの物が大きく見える。
・拡大視
近くの物が大きく見える。
・集音
音が大きく聞こえる。
・遮音
音が聞こえなくなる。
・念話
半径3メートル以内で、声を出さずに会話ができる。
ただし、相手も同じ魔法を使う必要がある。
・浮遊
その場で、1~10メートル浮く。
室内で使うと危険、移動は出来ない。
「全部ください!」
色々あって面白そうだ。
「……お兄さん、ほぼ即答だニャ。お金かかるけどいいのかニャ?」
舞い上がっていて、お金のこと忘れてた。
「全部でおいくらになりますか?」
「ちょっと待ってニャ、えーと……表紙をおまけして、3万ガルスぴったりでいいニャ!」
「買った!!」
「お買い上げ、ありがとうございますニャ」
確かに安い買い物ではないけど、ビビるほどでもない。
1つ2,000ガルドくらいだと考えると、本当に本を買うような感覚でよさそう。
「バインダーはどれにしますかニャ?」
「この猫のやつでお願いします」
何を隠そう、可愛い猫が好きなのだ。
「あとお兄さん、カバンをお持ちではない様子だニャ。300ガルスになるけど、買うかニャ?」
「あ、はい。お願いします」
くっ、こっちでもカバンが必要だったか。
余計な出費は避けたい。今度からは持ち歩こう。
「わかりましたニャ! では購入のために身分証を見せてくださいニャ。社員番号を控えさせていただいてもよろしいかニャ?」
「はい。……どうぞ」
ノーと言ったら買えないだけなので、実質選択肢がないやつ。
「お待たせしました。どうぞニャ」
「ありがとうございます」
お会計を済ませて、魔導書を受け取る。
世界に1つしかない、自分だけの魔導書だ。
嬉しいなったら、嬉しいな。
「んじゃ、最後に使い方を教えてください」
「わかったニャ、念のため聞くけど、お兄さんは魔力は出せるかニャ?」
「Red Blue飲んだので、大丈夫だと思います!」
「それなら大丈夫ニャ、使いたい魔法のページを開いて指を置いて魔力を流すニャ。試しに念話の魔法を使ってみてくださいニャ」
魔法陣に指を置いて、魔力を流すと魔法陣が光りだした。
「(あー、あー、お兄さん、聞こえますかニャ?)」
声が聞こえる!?
慌てて店員さんの口元を見ると動いてないことが確認できた。
こちらもやってみよう。
「(はーい、聞こえてますよー。そちらどうですかー?)」
「(聞こえてますニャ。あとは指を離すと魔法の停止ニャ)」
指を離すと、魔法陣が光を失う。
「使い方は、これだけニャ!」
「はい! ありがとうございました」
あれっ……?
魔法って魔法陣に魔力流すだけで、使えるの?
もしかして、トイレの魔法陣もこれでよかったんじゃないか。
水を流すのに魔法陣を模写してたけど、そんなことしなくて良かったのか!?
次行ったときに試してみよう。
水流すだけで、5分かかるなんて、薄々おかしいと思ってたんだよね……。
店員さんの対応と新たな情報、そして魔導書に満足して、魔法堂を去った。
いつも最後までお読みいただいて、ありがとうございます!
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