表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界でもプログラマは不足していた  作者: ベル
第二章 魔導コンロ
29/31

Step27. マスターアップ

 ――魔導コンロの改良が始まってから2週間が経過。


 さらに10%の燃費改善が進んだ。

 みんなの熱量が凄くて、少しでも改良すべく、考えうる限りのことをやった。


 大きかったのは、浮動小数(ふどうしょうすう)演算をなくして、固定小数(こていしょうすう)演算に切り替えたことだろう。

 魔導演算装置(コンピュータ)は、小数の演算は低速で、整数の演算は高速という特徴がある。


 高性能な中央演算装置(C P U)には、小数演算装置(F P U)が組み込まれている。

 そいつに計算を任せる場合は、比較的に速度がマシなのだが、魔導具の様に低スペックな装置には、搭載(とうさい)されていない。


 どうなるかと言えば、計算を中央演算装置(C P U)がエミュレートする。

 エミュレートには大きなコストが掛かるため、速度が非常に遅い。


 小数を使わなければ、いいじゃないかという話だが、その通り。

 そこから生まれたのが、整数で小数を表現しようという試みだ。


 仕組みは超絶簡単。


 例えば1.5という小数があれば、それを固定倍、仮に100倍にして保持する。

 1.5 × 100 = 150


 ……これだけ。

 100で割れば整数部分を取り出せる。


 ただ演算するときに注意点がある、掛け算をしたら、最後に100で割る。

 割り算をしたら最後に100を掛ける必要がある。

 試しにやってみよう。


 小数演算

 1.5 × 0.5 = 0.75


 小数を整数で代用

 150 × 50 = 7500

 7500 ÷ 100 = 75


 小数演算で出た答えの正当性(上の答えと同じになる)

 0.75 × 100 = 75


 ほら、関係性が成立してるでしょう?


 割り算についても同じだ。

 気になる方は試してみるといい。


 足し算と引き算については、何も気にせず計算すればいい。

 このやり方は、職人芸だ。


 ぶっちゃけて言うと、ここまでやる必要はない。

 会社のオーダーはクリアしているし、ユーザーのニーズも満たしている。


 何故やるかと言えば、()()()()()()

 納期の範囲で、最大限の(好きな)モノを作る自由は許されている。


 狂ってると自分でも思う。

 でも、これがプログラマという生き物なのだ。


「うぉぉぉぉい! 全てのテスト、安全基準をクリアしたぞぉぉぉおおい! マスターアップじゃぁぁぁあ」


 ――――問おう。貴方(あなた)が私のマスターか。

 ヒーモスが魔法陣から出現……じゃなかった。走って来た。


 そんなことより、マスターアップ!?

「いやったぁぁぁぁぁぁああああああ!」


 魔導コンロが完成した! この瞬間が何より(たま)らない。

 達成感を味わうタイミングは、間違いなくここだ。


 あとは量産と販売を待つのみ。

 致命的(ちめいてき)不具合(バグ)が見つからなければ、仕事は終わりだ。


 あーあー、しばらく何もしたくなーい。

 ……少し前から、仕事が手についてなかったけど。


「ここだけの話じゃが、希望小売価格は、税込み3,980ガルスにするそうじゃ。広告宣伝費と利益を減らして、価格を抑えるらしい。まずは流通を目指そうって訳じゃな。利益は燃料の魔導石で回収する算段となっとる」


 典型的な消耗品ビジネスだな。

 燃料の魔導石のパチモン(偽物)が、出なけりゃいいんだけど。


 純正品しか使えないように、対応を入れて置けばよかった良かったかなぁ。

 やり方知らんけど。

 まー、(しばら)くは大丈夫だろうけど。あとで進言はしておこう。


「いい価格ですね。個人的な興味でしかないですが、初期ロットの生産数って、どのくらいなんですか?」


 ずいっと、ヒーモスは顔を寄せてきた。


「誰にも言うなよ?」

「はい、勿論(もちろん)です」


 言う相手もいねーよ!


「1万個と聞いておる、ちなみに発注ロットは10個じゃ。お店の規模にもよるが、発注は最小にして様子見じゃろうな」


「それって、多いんですか? 少ないんですか?」

 今一つ規模感が分からない……。


「新商品の初期ロットとしては、多めだと思うのじゃが、この数だと製造原価が割高になってしまうので、利益を考えると少ないわい」


「やっぱり、そんなもんですよね」


 マスターアップも終わったことだし、そろそろ自分のチームに戻るか。


「まどうこんろ かんせいして よかったですね それでは わたしは これで しつれいします」


「ちょっと まちなさい まだ しごとが のこってるでしょ」

 やっぱり? 逃げられなかった。


 特許申請用の資料作成を、行わなければならない。

 魔導コンロは新商品に加えて、改良した内容は、特許のオンパレードだ。


 だけど素直にいって、資料作りめんどくさいよー。

 プログラミングだけやりたいよーーー!


 ううっ。


 やさしい(鬼畜な)ドワーフの先輩方は、サワタリがアイデアを沢山出してくれたので、資料作成はヤツが適任じゃろうと、推薦し(押しつけ)てくれた。


 自分も逃げようとしたので、人のことは言えない。

 誰だっていやなもんは、いやなんだよぉ。


 資料を作って、弁理士(べんりし)の先生に見て貰って、ミーティングを何度か繰り返して、今度こそ、本当に、終わったぁぁぁあ!


 でも、これで本当に終わってしまったんだよなぁ。

 このチームともお別れとなると、少し寂しい気持ちになる。


 同じ会社にいるので、いつでも会えるのだが、一緒に仕事する機会は一先(ひとま)ずなくなってしまう。


 仕方ないよね、これが出会いと別れというものだ。

 社内の人脈も増えたし、満足、満足。


 プログラマとは言え人脈は超大事だ。

 逆かも知れない、プログラマだからこそ、人脈が大事。


 会社でプログラマ1人が出来ることなど、たかだか知れている。

 人脈があれば、自分の好きな仕事を掴んだり、困ったことがあれば助力を求めることもできる。


 人間関係が苦手な人でも、関係者を少しずつでも増やしていけば、自己実現に繋がっていくと思う。

 少なくとも自分はそう考えて、行動していくつもりだ。


 ポールさんのチームに戻るので、開発メンバーに軽く挨拶(あいさつ)をして回る。

 いつでも戻ってこいよ。サワタリなら歓迎するぜ。と言われたのは嬉しかった。


 来た時は、炎上(えんじょう)案件と言われていたけれど、結果としては、エンジョイ案件だった。

 えっ、面白くないって? ……すいません。


 優秀な生粋のエンジニア(職人)チームで働けたことは、誇りに思う。




 * * * * * 




 ――マスターアップから二ヵ月後。

 満を持した、魔導コンロの発売日。


 朝一に開発メンバーで店頭に見に行くと、驚くことに売り切れていた。


 ……え?


 そんなにすぐに売れるのこれ?

 広告ほとんど打ってないよ。


 (くち)コミって言っても、今日が発売日だよ?

 10個しか仕入れてなければ、(もの)(はず)みで、売れることもあるよね。


 ……次の店に行っても商品は残っていない。


 いやいや、もう一店舗。


 SOLD OUTの文字。

 ……なかった。


 お店の人に聞いてみる。

「すいません、魔導コンロってもう無いんですか?」


「大変申し訳ございません。ただいま入荷待ちとなっております。反響が凄くて、卸売業者に魔導通話装置(電話)しているのですが、全然つながらない状況でして、入荷時期は未定です」


「情報ありがとうございます」


 ……これはヤバい、急いで会社に戻ろう。


 ……本音を言うと戻りたくはない。




 * * * * * 




 会社に戻ると、魔導通話装置(電話)が鳴り響いていた。

 ……やっぱり? あーあー、聞こえなーい。


 ガシッと後ろから肩を掴まれた。

 振り返るとそこにはポールさん。


「サワタリさん! ちょうどいい所に! 電話対応手伝ってください。魔導コンロの反響が大きくて、全社員で対応しているんです!」


「はい! 私も店頭に行ってきて、どこにも売ってなかったので慌てて戻ってきました」


「そうだったんですね。ではお願いします。工場をフル稼働させて追加生産はしていますが、入荷時期は未定ですとお伝えください。その他の質問が来たら、適当に受け流してください。くれぐれも、迂闊(うかつ)な発言はしないように注意してくださいね」


「分かりました!」


 その日から、一週間は大変だった。


「目標をセンターに入れてスイッチ……、目標をセンターに入れてスイッチ……」

 鳴り響く、電話。ひたすら無心で対応。


 一般消費者はメーカーに直接問い合わせるもんね……。

 カスタマーサポートに繋がらなかったら、代表番号にかけてくるのは必然だ。




 * * * * * 




 魔導コンロは、口コミのみにも関わらず、売れに売れた。

 飲食店からも多数の問い合わせがあり、販売ルートは拡大するばかり。


 生産が追い付かず、転売ヤーが現れるほど人気は加熱。

 会社を代表する、大ヒット商品となった。

いつも最後まで、お読みいただいてありがとうございます!

二章の魔導コンロ編はこれで終わりになります。


話の中に、アニメ・ゲーム・漫画やその他のネタを盛り込むことが割とあります。

分かった方は、感想に元ネタの作品名を書いていただけると嬉しいです!


ネタをネタと理解されているのか、私も気になってます。

感想は、ログインしなくても誰でも書けるようにしましたので、お気軽に~

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ