Step26. 魔導コンロの改良
――朝6時、会社には自分1人。
照明は一部しか点けておらず、フロアは薄暗い。
早くアイデアを試したい。自覚できるほど興奮している。
失敗したら恥ずかしいので、完成するまで誰にもナイショ。
カタカタ……タンタン
カタ……タン
カタカタカタカタ……タン
ここを、あーして、うーん。
焦ってる訳じゃないけど、上手く動かない時は動かないな。
おっ?
あー、落ちた。
でも、前に進んでる。
カタタン、カタタン、カータンタン
カタタターターン、タッタッタターン
* * * * *
出来た!!
異常系の対応は、まだまだ不十分だけど、プロトタイプとしては十分だろう。
気がつけば、フロアは明るくなっており、人も賑わっていた。
……うっ、ヤバい。
ここに来て、不治の病が再発か。
身体が勝手に動き出す。
もはや、理性では止まらない。
ついカッとなってやった、今は反省している。
何を隠そう、ジェシカとムウさんを呼びつけた。
「サワタリ〜、今度は何よ?」
「ふっ、見てくれ!」
タラララッタラー♪
「まどうこんろ〜ぉ」
右手で、コンロを頭の上まで持ち上げる。
「……で? 何? この前見たわ」
ジェシカは去ろうとした。
「ちょ、ちょ、ちょ、待って、待って、触ってってくださいよぉ」
「仕方ないわね。ちょっとだけよ。ムウ、一緒に見よっ♪」
「――うん。見る」
カチッ、ボッ。
カチャカチャ。
ジェシカがコンロを触っている。
さぁどうだ。
「どう言うこと? ……何も変わってないじゃない」
「えっ、もう一度言って貰える?」
「だ〜か〜ら〜、何も変わってないじゃない!」
「……ありがとう! 最高の褒め言葉だ」
「な、何を言っているのか分からないわ。あなたが変わっているわね。いや、いまさらか」
プログラムをかなり改造したのだ。
何も変わってない、という事は性能が変わっていない、というか変化を認知できないと言うことだ。
これほど嬉しい言葉はない。
「――火力、増えた」
流石はムウ様、そこにお気づきとはお目が高い。
段階は、カチッと音を立てて切り替わる方式ではないので、よく見ていないと分からないはずだ。
「流石ムウさん! 火力の段階が、7から11に増えました」
「何よう……素人には分かんないわよ。ムウ、あんたもエンジニアに侵されて来たんじゃな〜い?」
「――ありがとう、嬉しい」
「褒めてないわよっ!」
「これ、前のやつよりコストを大幅に削減出来たんですよ。知恵と工夫とひらめきの結果です」
「へー、すごいすごい。もういい?」
ジェシカは、露骨に興味無さそうだ。
「――サワタリ、すごい……」
ムウさんからは、尊敬の眼差し。
求めていたのはこれだ! 感無量!
「2人とも、ありがとうございました。満足っす」
「はいはーい。今度はもっと面白いもの見せてよね♪」
「……ぜ、善処します」
かろうじて、返事が出来た。
あれ? 十分面白いはずなんけどな?
「――今度、改善、仕組み、教えて」
「もちろん、よろこんで!」
これだぁぁぁぁあああ!
理解者が居るって素晴らしい。
でも、ジェシカにも何とか伝えたい。
意地でしかないが、そこはこだわろう。
* * * * *
やってまいりました。
こちらが本番のミーティング。
心なしか、雰囲気がどんよりしてる。
どんよりを使って言葉を作りなさい。
うどんより、蕎麦が好きだ。
懐かしいネタが、頭をよぎった。
変えよう、この空気を! 目明し編だ!
「皆様、新たなアイデアや、ご意見はございますでしょうか? 私はあります。しかし、私が話を始めてしまうと、長引きますので、先におうかいしたいです」
「「「「……」」」」
みんな顔を見合わせている。
「特になさそうなので、話を始めさせていただきますね。まずはこちらをご覧ください」
テーッテレー♪ テレレレッーーー♪ パッポ♪
「魔導焜炉」
あれ? ウケないな。仕方あるまい、地球のネタだ。
「まずは、こちら火力の調整を11段階に増やしました」
ツマミを捻って実演する。
「お客様のニーズにお応えして、火力の仕様を変更しました」
「これは凄いですね、でもお高いんでしょう?」
「いえいえ、ここまで付けて製造原価が2,300ガルスになります」
「ええ!? そんなに安くて大丈夫なんですか?」
「はい、決して損はさせません! こんなチャンス、滅多にありませんよ。さぁ今すぐお電話を」
ヒーモスと、ルテガさんに仕込んでおいたネタが上手く機能した。
個人的には、これだけでも十分満足だ。
「サワタリ、それが事実なら凄いことじゃ。説明してもらえるか?」
ここからは台本にないが、ヒーモスがいい感じに振ってくれた。
「合点承知の助! まずはですね。大胆に火力のテーブルを弱と強の2つにしました。これで、5KB×2テーブル+固定の5KB=15KBになるので、一番小さな魔導石に収まるという寸法です。ルテガさんが、2KB削ってくださったことが非常に大きいです。それがなければ実現しませんでした」
「11段階の火力はどうやって実現したんじゃ?」
「はい! そこはインターバルを工夫しました。ユーザーインタビューでもインターバルの差は誰も気が付かなかったので、変えても大きな影響がないのではと、判断した結果です。言葉にすると分かりにくいので、紙を用意しました。こちらをご覧ください」
1段階目の設定 = 弱50ミリ秒、強0ミリ秒
2段階目の設定 = 弱45ミリ秒、強5ミリ秒
3段階目の設定 = 弱40ミリ秒、強10ミリ秒
4段階目の設定 = 弱35ミリ秒、強15ミリ秒
5段階目の設定 = 弱30ミリ秒、強20ミリ秒
6段階目の設定 = 弱25ミリ秒、強25ミリ秒
7段階目の設定 = 弱20ミリ秒、強30ミリ秒
8段階目の設定 = 弱15ミリ秒、強35ミリ秒
9段階目の設定 = 弱10ミリ秒、強40ミリ秒
10段階目の設定 = 弱5ミリ秒、強45ミリ秒
11段階目の設定 = 弱0ミリ秒、強50ミリ秒
それぞれの設定の後に弱50ミリ秒を追加して、合計100ミリ秒を繰り返す形です。
「……これなら、確かに、2つのテーブルで11段階を表現できるな。凄いじゃないか! これならユーザーのニーズに応えた上で、機能がさらに強化されとる。会社要求の製造原価2,500ガルスも下回っとる」
「ピンチはチャンスです。それに何かを変える時というのは、無茶ぶりされた時だと私は思っています。出来そうなことをやっても、面白味がないじゃないですか」
「カッカッカ、エンジニア魂に溢れとるな。それにしても物凄い発想じゃ。どれコンロを見せてくれんかの」
「どうぞ、どうぞどうぞ!」
みんなは、コンロを触りだした。
自分は、後ろに下がって少し小休止。
* * * * *
しばらしくすると、ほとぼりが冷めて、ミーティングというか雑談を再開した。
「ユーザーと会社の要望を、両立するとは驚愕したわい」
「本当に凄いな。予想しなかったコンロの出来じゃ」
「サワタリが居なかったらどうなっていたか……感謝じゃ」
「魅せられたぞ。熱い気持ちを取り戻したわい」
みんなが、自分に称賛の声を浴びせてくる。
「ストーーーップ、ストップ、ストップ! みなさん。勘違いしないでください。確かにパズルの最後のピースは、私がはめたかも知れません。ですが、ここまで作り上げたのは、みなさんの力です。一人一人の力がなければ、絶対に達成できなかったことなのです。私は最近来たばかりで、元の処理はほとんど作っていませんし、あそこまで洗練されたコードも書けません。各々の強みを発揮したからこそです! みなさんが凄いんですよ!」
チームで仕事をしている中で、目立つ部分は確かにある。
だけど、みんな重要な仕事をやっているのだ。
責任を持ってやっている限り、誰が凄いとかそんなのは絶対にない。
みんなの理解度が、低いのが悔しかったので、一人一人のいい所を褒めたら、それなりに納得してくれた。
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