Step23. 鍋パーティー
休みの日、会社の大会議を借りて、魔導コンロを使ったパーティー&インタビュー会を開くことになった。
招待客は、社員とその家族だ。
バラルさんのチームに加えて、うちのチームとジェシカも来る。
総勢50名の大規模なパーティーだ。
インタビューを行うので、もちろんお酒は無しだ。
バラルさんの計らいで、費用は会社持ちになった。
会計上は、研究開発費として申請してある。
交際費にすると税金が高いのは、どこの世界も同じようだ。
* * * * *
パーティーの準備は、自分がメインで動いている。
人手が足りないのもあるが、食べ物にはそれなりのこだわりがあるので、買って出た。
ふ、ふ、ふ。
今回は、地球の食材を使った料理を出す。
折角なので、こちらに無いものを振る舞いたいではないか。
それにコンロを使った鍋料理は、日本の十八番だ。
メニューは独断と偏見で、すき焼き、しゃぶしゃぶ、海鮮鍋それにキノコと野菜の鍋だ。
牛肉は奮発して、三条通りにある嶋三亭本店で買った。間違いなく美味しい。
自分は、この店以上の肉には、出会ったことがない。
店で食べるとめっちゃ高いけど、持ち帰りで肉だけ買うと安く買える。
といっても100gで1,000円くらいするんだけどね……
豚肉は、北海道産のホエイ豚だ。
こちらは、牛肉に比べて安くて安心。
魚介類とキノコは、スーパーで適当にチョイス。
海老、帆立、鱈、しめじ、エリンギ、えのき、シイタケ、舞茸にしといた。
野菜は、どうせなら京野菜をふんだんに使いたかったが、種類を詳しく知らない&入手経路もよく分からないので、九条ネギだけにしておいた。それ以外は普通の野菜だ。
いや、これ、スーパーにも並んでないし、京都に住んでいても詳しくならないからね。
タレは定番のごまだれとポン酢で、スープはアゴ出汁だ。
スープは、個人的な好みでしかないが、美味しい。
子どもも来るんで、辛いものは意図的に避けた。
そして、米を炊く準備を済ませた。
ここに来てパンは味気ないだろう。
ふーっ。これで準備万端かな。
下ごしらえを済ませた食材は、魔導冷却機に入れた。
「ジン先輩、ムウさん、お手伝いありがとうございました」
2人の手際は良かった。
料理は得意ではないと言っていたが、全く感じられなかった。
「美味いもんを食わせてもらえるんじゃ。これくらいどうってことないぞ」
「――大丈夫、切っただけ、わたし、楽しみ」
「ジェシカもお待たせー。食器と調理方法を書いた紙を、並べるの手伝ってくれない?」
「よーやく、私の出番がきたね。待ちくたびれたよー♪」
元気な返事が返ってきた。
出来る仕事を振ったのが、嬉しいのだろう。
ジェシカは、料理が苦手だった。
……というより外食ばかりで、料理の経験がほとんど無かった。
野菜を洗って紅葉おろし用の大根をおろすところまでは、手伝ってもらったのだが、包丁捌きは危なっかしかったので、待って貰っていた。
紅葉おろしは、鷹の爪ではなく一味唐辛子で代用した。こちらの方がお手軽だ。
食器と紙を並び終えて、出来る準備は完了だ!
みんなが来るのを待つだけだね。
ちなみに1テーブルにつき、スペック違いの魔導コンロを6台用意してある。使い比べて、良いのものを選んでもらうつもりだ。
スペックは次の通り。
火力の最小値と最大値は、どれも同じだ。
1. 火力3段階 インターバル100ミリ秒
2. 火力3段階 インターバル50ミリ秒
3. 火力5段階 インターバル100ミリ秒
4. 火力5段階 インターバル50ミリ秒
5. 火力7段階 インターバル100ミリ秒
6. 火力7段階 インターバル50ミリ秒
* * * * *
「みなさんお待ちかね! 今宵お集まり頂いたのは、魔導コンロの使い勝手について、モニターしていただく為にお集まりいただきました。謝礼は出せませんが、私の故郷自慢の食材と料理をご用意させていただきました」
「えー、作り方については、お手元の紙をご覧ください。私が各テーブルを周りますので、ご不明点がございましたら、お尋ねください」
「それでは、心行くまでお楽しみください。鍋料理にぃぃぃいいレディ・ゴー!」
始まった!
イーグルアイで、全体を監視だ。
すき焼きだけ、説明に中火という記載を入れたが、その他は沸騰したらとか、アバウトな表現になっている。
なので、すき焼き組だけ中火で、それ以外は最大火力だ。
すき焼き組が早いな。
牛脂を塗って、割下を入れて肉を焼きだした。
じゅゅゅう。
醤油の焦げる良い香りがしてきた。
嶋三亭では、割下ではなく、醤油と砂糖でやるのだが、そこまで本格的な事はしない。
生卵は、抵抗があるかも知れないので、お好みでと伝えてある。
――が、みんな溶いていた。
「肉は焼きすぎないように、軽く炙る程度にして食べてください。赤身が残っていても大丈夫です。火を入れすぎると硬くなるので、ご注意を」
「このくらいで、どうだい?」
声をかけて来たのは、バラルさんだ。
奥様とお子さんと、ご両親で来ていただいている。
ご両親の容姿が若くて、言われなきゃ分からん。
エルフ年取らない説は、珍しく事前情報通りだ。
「食べる分には大丈夫ですが、お子様向けであればもう少し火を通した方が食べ易いと思います」
「……はい、そのくらいで、いいと思います」
パターン1のコンロだが、すき焼きは問題なさそうだ。
あとは口に合うかどうか。
自分としては、満足してもらえるかもミッションだ。
「……パパ!! これ柔らかくて、おいしいよ!」
「どれどれ、私も頂くことにしよう」
「……こんな肉食べたことありません! 凄く、おいしいです!!」
うん、うん、そうだろう。そうだろう。
自分も最初食べた時、感動したものだ。
この後、バラルさんの家族は一心不乱に貪り食べていた。
気に入って貰えて何よりだけど、コンロの評価も頼みますよ……
しゃぶしゃぶの鍋が沸いたようだ。
見に行こう。
沸騰した後に、火力を弱めたが、中火だと強すぎて、弱火だと弱すぎた。
途中だけど、コンロを切り替えて試して貰う。
とりあえず、パターン3の5段階のコンロにしたが、様子見て、色々試して欲しいと伝えた。
さてさて、お待ちかね。
しゃぶしゃぶタイムだ。
「牛肉は赤身が残っていても大丈夫ですが、豚肉はしっかり火を通してくださいね。あと灰汁が沢山でますので、適宜取り除いてください」
灰汁を取る器具のことを、アクトレイザーと呼んでいたのはうちの地元だけだろうか。
フォークで、しゃぶしゃぶが始まった。
日本じゃ見ない光景で、斬新だ。
……フォークだめだ。
肉が取りにくい、肉が崩れる、しゃぶしゃぶやりにくい、ダメなところのオンパレードだ。
急遽小型のトングに切り替えた。
すき焼き用に用意したものだが、たくさん持って来ておいて良かったー。
うん、うん。
上手く行ってる。
文化の違いは難しいね。
さてさて、お口に合うのか。
あっ、ジン先輩が口から怪光線を出している。
満足して貰えたようだ。
そのうち城に変身するのを期待しておこう。
「――肉、蕩ける、甘い、おいしい」
「わにゃにゃん! やばいよ、やばいよー♪ 何これ、いくらでも食べれる!」
「サワタリさん、この紅葉おろし最高ですね。またレシピを教えてください」
1人だけ食いついてるポイントが、ズレてる気もするが、喜んで貰えたことには違いない。
次は海鮮・キノコと野菜鍋グループを見に行きますか。
……くっ。
こちらも沸騰するまでは良かったが、その後の火加減が微妙だ。
弱めの中火が欲しい。
パターン5の火力7段階に切り替える。
5段階の方ではいまいちだった。
鍋の用途考えると、7段階要るのかなぁ。
悩みどころだ。
調理は上手くいった。
お味の方はどうでしょうか。
「スープが美味しいわ! 野菜がいくらでも食べれて素敵」
「魚介類の旨味が、しっかり出ていて美味しい!」
概ね好評だが、肉グループに比べて反応が弱い。
嶋三亭の牛肉のインパクトが強すぎた。
こっちの食材は、スーパーで買ったものだし仕方ない。
* * * * *
ブイーッ、ブイーッ、ブイーッ。
スマホに設定したタイマーが鳴った。
ご飯が炊けた合図だ。
炊飯器は無いので、土鍋で作った。
意外と簡単に出来るんですよ。
時間も掛からないし、美味しくできるので、おすすめだ。
「皆様方ー、ご飯が炊けましたー! 私の故郷の主食になります。パンの代わりにお召し上がりください」
柔らかく、甘味のあるご飯は、喜んでもらえた。
味が薄いとの声が上がったが、醤油をかけてもらうことで解決(?)した。
日本じゃ絶対やらないけどね……
* * * * *
テーブルを周っていくと、食材の質問やら、料理の感想やら沢山聞けた。
忘れないように、コンロも取り替えて、使い勝手も確認してもらった。
奥様方にレシピを要望されたのと、食材の入手方法など聞かれた。
日本でしか手に入らないものは、適当に代用するように伝えた。
どこの鍋でもシイタケが人気だったが、こちらでは入手できないので、残念がられた。
あと魔導コンロの発売を、凄く楽しみにされていることが伝わって来た。
開発しているメンバーも鼻が高い。家族に自分の仕事が伝わって、涙を流している者もいた。
胸を張って仕事をして、誰かに喜んでもらえるってのはとても幸せなことだと思う。
こういうのを見ると自分も感動する。
あかん、涙腺が……
こうして、パーティーは大成功で幕を閉じ……ちゃダメだ!!
インタビューして、アンケートを取らないと。




