Step22. 仕様の決め方
魔導コンロの仕様は、マネージャーのバラルさんと相談した。その結果、新しい方法の検証をして欲しいと、指示を受けた。
そして、効果のあるものは、搭載に向けて動いて欲しいとも言われた。
商品戦略上、目標基準のコストを実現しなければならない。
困難な課題だが、君たちならきっと乗り越えられると激励のお言葉をいただいた。
マネジメントの一環だろうけども、期待されると嬉しい。
もちろん、プレッシャーも感じるんだけどね。
* * * * *
話は変わるが、地球のカセットコンロの仕組みを、インターネットで調べてみた。
カセットコンロは、圧電素子を利用して点火しているらしい。
圧力素子は、衝撃を与えると放電する性質があって、その力を使って発火する。
仕組みが簡単で、割とどんな環境でも使えて、回数も無制限、そして安価という完璧なものだった。
簡単ってあったけど、誰基準やねん!
ストーンワールドに行ったスーパー高校生ならできるかも知れないが、自分には無理だ。
圧力素子は使えないが、アイデアは美味しく頂こう。
温度を上げて発火させるよりも、電気の力を使う方が効率的かも知れないしね。
* * * * *
さてさて、イアさん、ルテガさん、マシューさんのドワーフ3人衆の所に相談に行こう。
まずは状況の確認からだ。
「イアさん、点火に別モジュールを使う件はいかがですか?」
「丁度いいのがあるにはあったんだが、今から部材を集めるのは厳しそうじゃ」
「それは仕方ないですね……ありがとうございました」
「ルテガさんは、他の属性の検証いかがですか?」
「発火現象を起こせそうな属性は、雷だったんじゃが、感電の危険があって、使えんかったわい」
「火と風属性を合わせて、どうにか出来んか思案しとったが、成果はあがっとらんな」
ん? 電流と電圧の両方を上げると確かに危険だけど、電圧だけ上げれば危険性もないはず。
「雷属性なんですが、1つ気になることがあって、電流をあげたら、確かに危険なんですが、電圧だけ上げてみてはどうでしょう、それで十分放電するはずなんですが」
「……!? どういうことじゃ、詳しく教えてくれ!」
「雷の強さは、川に例えることができます。水の量と速さです。水の量と速さの両方を上げると危険なのですが、水の量を減らして、速度だけ上げると、人体には影響のない形で放電ができます。冬場にセーターで、バチっとくるやつありますよね。あれと同じ原理です」
「――っ、なんと! そんなことが。いや、でも理屈にあっとる……ちょっと時間をくれ」
「はい、わかりました。お願いします」
「マシューさんの自身の魔力を使う案はいかがでしたか?」
「試したら上手くいったんじゃが、弱点が1つだけあっての。当たり前のことなんだが、……魔法が使えないとダメなんだ。魔法が使えない者に対応しておくほうが良いだろうと思って、検討を止めた」
「……なるほど、分かります」
少し前の、自分とか自分とか自分ですね。
「では、次の話題にいきます。無段階から多段化の対応は、どうでしたか?」
「「「ふっふっふ」」」
不敵な笑みが……
「大成功じゃ!! テーブルを作って切り替える方式にしたら、火力調整のコストがほぼ0になったわい。さらに燃焼時の計算が、大幅に削減できての。燃費が半分くらいで済むようになったわい。3人で知恵を出し合って作った集大成じゃ! 元の処理が完璧だったから、テーブル化もすぐじゃった」
「おお! それは素晴らしいですね。流石です!」
やっぱりこのメンバーは優秀だ。
「ではでは、燃焼時の改善についてはどうでしょう!?」
「「「よくぞ聞いてくれた!」」」
「100ミリ秒の間に目的の火力で燃焼、最小の火力で燃焼を交互に繰り返してみた。そうしたら、燃費がほぼ半分になったわい!」
1:1の割合で動かして止めたらそうだよな。理論値的にはそうなる。
ちなみに完全に止めてもいいんじゃないかと思ったが、止めると点火のコストが掛かるからダメだったと自己解決。
「おお、こちらも素晴らしい内容ですね!」
「ん? もしかして、燃焼だけで言えば、目標の最大火力で60分達成したんじゃないですか!?」
「その通りじゃ! 上手くいったんじゃ」
「やったぁぁぁぁぁあああああ! もうゴールしてもいいよね?」
ところが、ぎっちょん。
「ゴールはまだじゃ。ワシらも喜んだんじゃが、課題があっての。適切な仕様が決められないんじゃ」
「多段階方式にして、段階はいくらでも増やせるんじゃが、何段階にしたらいいのか分からん。増やせばテーブルが増えるんで、コストが上がる。この見極めができないんじゃ」
「燃焼にしてもそうじゃ、ワシたちは違いが分からんから、あれでいいんじゃが、使う人から見たら使用感が変わるはずじゃ。あの設定で本当にいいんだろうかという不安が拭い切れぬ」
確かにそうだ。適当に決める訳にはいかない。
ユーザー満足度を、最大化する必要があるのだ。
コストは低ければ低いほど、価格を安くできるので、企業にとっても、ユーザーにとってもWin-Winなので良いのだが、機能や品質は違う。
余程の金持ちか特殊な需要を除けば、ユーザーは高機能・高品質で価格が安いものを求める。
機能や品質に対して、価格が高ければ見向きもされないだろう。
なんというか、お得感が大切なのだ。
求められる部分に着目して、その他にコストを掛けてはいけないのだ。
考えてみて欲しい、100段階のギアチェンジが可能な自転車があって、100万円と言われても欲しいだろうか?
5段階で3万円の自転車の方が、需要があると思う。
そこまで極端な話はあまりないが、コストとユーザー満足度の釣り合いが取れた部分を狙うのが良い。
――ただ、この問題には必勝法がある!
ユーザーに聞いてみることだ。
コンシューマ品を開発しているなら、必ず行うものだ。
ヒーモスに相談して、ユーザーインタビューを手配して貰おう。
* * * * *
「ヒーモス、人を集めてくれないか」
肘を机につけて近寄る。
「一体どうしたんじゃ?」
「魔導コンロをよりよい仕様にするため、ユーザーインタビューを開催してもらいたい」
「初めて耳にするな。それは、なんだ?」
「ユーザーのリサーチだ。コンシューマ向けの商品開発には、欠かせないだろう?」
「商品とは、メーカーが一方的に開発して、届けるものじゃろう?」
「おっふ」
「ユーザーの意見を取り入れずに作ってしまったら、見当違いの商品になりますよ」
「…………それは、……たし、かに、……そうかも、知れん」
ん? えらく歯切れが悪いな。
「……そう、あれはワシが現場で商品開発をしとった頃の話じゃ。この商品は間違いなく売れる。そう思って作ってたもんがある。関わった人間もそうじゃ、みんな根拠のない自信で満ち溢れとった」
「だが、結果は散々じゃった。ユーザーに全く響かんかったんじゃ。発売日に店頭に行って様子を見とった。誰も手に取らん……耐えかねてつい、聞いたんじゃ。この"お腹掻き機"はいかがですかと」
「そうしたら、こう返って来た。自分で掻けるんでいいですとな。正に盲点じゃった。そんなことをふと思い出したんじゃ」
流石に要らなすぎるなそれは……この会社大丈夫か? 不安になるわ。
だが、敢えてつっこまない。乗るしかない、このビッグウェーブに。
「体験していただいたようにユーザーの意見は、とても重要なんです。ユーザーインタビューを開催して、意見を取り入れたいのですが、いかがでしょう?」
「……分かった。サワタリがそこまでいうなら、マネージャーのバラルさんとこに相談に行こうか、決裁も必要になる」
ヒーモス、ちょろインで好きよ。
* * * * *
バラルさんと相談の結果、ユーザーインタビューの開催は出来なかった。
前例がないこと、費用のこと、そして今回の商品の機密性の高さからだった。
ただ内容には関心を持ってもらったので、次回に向けて準備して臨もうとなった。
――が、食い下がった。
結論を言えば、休みの日にチームメンバーの家族を招いて、食事会を開くことになった。
これがギリギリ許された内容だった。
魔導コンロを使った食事会で、意見を聞くのは自由ということだ。
もちろん、バラルさんも来てくれるとのことで、楽しみだ。




