Step21. 解析結果
――魔導コンロの解析を始めて、一週間が経過した。
色々と分かった事がある。
まず、点火時の魔力消費が1番大きい。
これだけで、燃料の20%を持っていかれた。
5回点火したら終わりだ。
次に、火力を調整した時の消費が大きい。
最初の調整に少しイジるだけでも、10%程度かかる。
最後は、燃焼時の消費が大きい。
つまり、全部キツイ。
この手のやつは、経験上、小手先だけでやるのは、不可能だ。
抜本的な改革、つまり仕様変更が必要になる。
仕様変更という言葉に、ネガティブな感情を抱くことがあるが、それはあくまで、顧客から突然の仕様変更を言い渡された時だけですからねっ! 目的を達成するための、ポジティブな仕様変更も沢山あるよっ。
――ただ。
ソースコードめっちゃ綺麗に作ってあるんだよなぁ。
ザ・職人って感じで、妥協のない作りになってる。
……ぶっちゃけ、めちゃくちゃ言い難い。
とりあえず、現状報告と今の仕様になった理由を聞いてみるか。
ヒーモスさんの所にGo!
* * * * *
「<省略>……ということが分かりました」
「調査ありがとう。燃費が悪い部分は分かった。アイツらは無駄なんか無いって言っとったから、客観的な評価は助かる」
(スペックが目標にあってないだけで、無駄はないんですけどね)
「現在の仕様を維持したまま、状況を改善するのは、極めて難しいと考えます。差し支えなければ、現在の仕様になった経緯を知りたいです。要求仕様書があれば、見せていただきたいのですが、いかがでしょう」
言ってはみたものの、要求仕様書は無いんだろうなぁ。
「残念ながら、要求仕様書はない」
やっぱり、想定通り! 驚かないぞ。
「だがそれがいい!!」
「良かないわ!」
「……心配するな、ワシの頭に残っておる!」
いやいや、こめかみを指差しながら、ドヤ顔で言うシーンじゃないですから、ここ!
「家庭用の魔導コンロを、携帯用に小型にして作ってくれと、優秀な現場の人間に伝えたら、最高の仕様で作り上げてくれよったわ!」
「……つまり、現場で生まれた仕様ということですか?」
「その通りじゃ! 仕様は好きにしていいと言ったら、張り切って作ってくれたわい」
あたりまえだぁぁぁぁぁあ! 犯人はお前か!
そんなん言われたら、喜んで作るでしょ。
……採算度外視で。
…………自分もやりたい。
「目標達成のため、仕様変更を具申します!」
「えー……そんなんしたら、ワシの面目丸つぶれじゃん」
「笑わせないでくれよヒーモス。汚れなど成果で洗い流せる。そんな余分なプライドはな、そこいらの狗にでも食わせてしまえ」
※狗=いぬです。
こいつも、呼び捨てでいいわ。
「くっ、仕方あるまい。その話、詳しく聞かせて貰おうか」
「はい、第一に点火のコストが高いので、代替手段を検討すべきです。具体的な手段については、見識がないため、現場の意見を聞いてみたいです」
ふと思った。カセットコンロはどうしてるんだろうなぁ……。
帰ったらググってみよう。
普通は調べないと、分かりませんからね!
肥料の栄養素とか、抗生物質の作り方とかも!
「第二に、火力の調整が無段階になっているため、かなり効率が悪くなっています。多段階方式にしてしまって、効率化・最適化を図るのがよいかと」
無段階の方が機能は優れてるんですけどね……
「最後に、炎の出力が常に均一になっているのは良いのですが、常に魔力を消費しています。短い時間でONとOFFを繰り返すことで、魔力を節約した上で、近似効果が得られるのではないかと考えます」
炎の制御は、誤魔化しのテクニックだけど、効果あるはず。
「問題を的確に捉えておる。提案内容はもっともな話じゃ。マネージャーに判断を仰がなくてはならぬが、先に現場の意見を聞いてみようではないか」
「分かりました、行きましょう」
「それで相談なんじゃが、……このアイデア、ワシが出したことにしていい? ほら、いきなり部外者が出てきて提案したら、摩擦を生むじゃろ?」
「……好きにしてください」
どうしようもない奴だ。
だが、ここまでハッキリ言うやつは、嫌いじゃぁない。逆に清々しい。
自分は実利を取る!
それに、ヒーモスが言ってることも、あながち間違ってはいない。
「よし! 行くぞ!」
* * * * *
「おーい、みんな集まってくれー」
うぉ、ここのチーム全員ドワーフかよ。
拘りのある面子が集まった感じだな、これは。
「……ヒーモスの旦那、これ以上コードの無駄をなくすのは厳しいぜ。何とかコストを上げて貰えるよう言ってくれまいか?」
先に集まったメンバーが、ヒーモスと雑談を交わしている。
「よし、全員集まったの。まずは、コイツの紹介じゃ。魔導コンロの改善のために調査協力してもらっとるサワタリじゃ」
「よろしくお願いします」
「調査報告を受けて、さらなる改善の可能性を見出した! まずは調査結果の説明を頼む」
言い回しが上手いな。
いい所は、素直に取り入れたい。
「はい、ご説明させていただきます。<省略>……でした。では、続きをヒーモスさんお願いします」
「うむ。点火部分の魔力消費が大きいことに着目して、何か別の方法がないか、聞いてみたい。意見はないか?」
みんな黙り込んでいるが、表情は暗くないぞ。
むしろ、楽しそう。
――しばらくして。
「……はい! 点火だけ、外部モジュールを取り入れる案が考えられるぞ!」
「火属性に拘ってたが、別の属性で検討してみるのもありじゃ!」
「いやいや、点火の時だけ、自分の魔力を使うアイデアもあるぞ!」
めっちゃ盛り上がってる。
きっかけさえ有れば、前に進むいいチームやん。
「みんな、ありがとう! それぞれ素晴らしいアイデアじゃ。今日一日使っていいから、検証してみてくれ」
「「「わかった!!」」」
――ガタン!
「ちょちょっと待て、まだ行くな。話が終わっとらん」
「火力調整時の魔力もそこそこ掛かっとる。今は無段階じゃが、多段化にしたら、効率をあげれないじゃろうか?」
「……た、……しかに。その手があったか!」
「無段階が、当たり前で気づかなかったわい」
「段階が決まっておるなら、複雑な計算を事前にしておけるぞ!」
「「「試してくる!!」」」
――ガタンッ!
「だから、ちょっと待て、話はもう少しで終わるから慌てるんじゃない」
……ヒーモスも大変だな。
少しだけ同情するわ。
「今は放熱しっぱなしじゃが、短い時間で火の強さを切り替えることで、効果はあまり変えずに燃料を節約できないじゃろうか?」
「おお、それはすぐに試せて良さそうな案じゃの!」
「今は全力で動かしとるから、インターバルはあってもいいかも知れん!」
「注意は必要だが、試してみる価値はありそうじゃ!」
「「「もう行ってもいいか?」」」
「はあー、いいぞ、話は終わりだ」
みんなが去ろうとした時に、全員がこちらを向いた。
「「「サワタリ、ありがとう! 煮詰まっていたんで、助かったぞ!」」」
軽く頭を下げてくれた。
「あ、はい、どういたしまして、でもどうして私に?」
「「「ヒーモスに、こんなアイデア出せる訳ないじゃろう」」」
あ、やっぱり? 見透かされてますねこれは……
「お前ら! 覚えておれよっ!」
みんな逃げ出していった。
でも、ヒーモスも怒ってはなさそうだ。
「おいっ、サワタリ、次はマネージャーのところに説明と相談に行くぞ。付いてこい」
「はい!」
「嬉しそうだな?」
「いやぁ、素敵なチームだなって思ったら、つい笑みがこぼれました」
「……そうか、そうだよな。……ありがとう」
ヒーモスも、満更ではなさそうだ。




