Step20. 社内ニートは続かない
ヒャッハー。
図書館案件が終わったー!
しばらくは、社内ニートとして、自由なことが出来る。
新しい事を覚えてもよし、汎用的に使えるライブラリを作るもよし。はたまたツールを作ってもよしだ。
夢が広がる数少ない瞬間、癒しタイム。
この時間を得るために、働いているといっても過言ではない。
* * * * *
「サワタリさん、ちょっといいですか?」
あー、あー、聞こえなーい。
「実はですね。別のプロジェクトから、応援を求められていまして、行っていただけないでしょうか。絶賛炎上中なので、困っています」
……返事してないのに、強制的に始まった。
負けイベントでは、なかろうか。
――仕方ない、社会人として腹を括るか。
「分かりました。私にもコードネームを頂きたいのです。さしずめ、火消しの風ウインド、とでも名乗らせていただきましょうか」
「では、ウインドさんお願いしますね」
……くっ、渾身のボケを流された。
人に夢と書いて、儚い。
社内ニート生活は終わりを告げた。
* * * * *
開発リーダーのヒーモスさんの所に向かう。
あっ、あの人だな。
これは分かるドワーフ族だ。
「ポールさんの命を受け、参上しました。サワタリです」
「ウインド、じゃなかったか?」
「サワタリです」
「ウイ……」
「サワタリです」
「サワタリ、よろしく頼むぞ」
――勝った。
黒歴史を残すわけには行かない。
「ワシらのチームは、魔道具を作っとる」
「魔道具って、何ですか?」
「魔導演算装置を使わず、単独で機能するものだ。多くの場合、自然現象に干渉するぞ」
自然現象に干渉するということは、自分の思ってる魔法に近いものになるな。
オラわくわくすっぞ。
「ちなみに、一般市民向けに作っとる」
BtoCのビジネスモデルか。
「えーっと、それじゃ、製造原価をかなり意識しなきゃいけませんね」
「っ!? ――貴様は何者だ?」
「……通りすがりのサワタリだ。覚えておけ、変身!!」
「まさに、その原価を落とすのに苦労しとる。力を貸してくれないか」
――くっ、これほど自己開示をしているのに、返しがない。
「それで、何作ってるんですか?」
「誰にも言うなよ? ……携帯用の小型魔導コンロを作っておる。完成すれば画期的だ!」
言う相手もおらへんけどな。
「コストは、どこに掛かってるんです?」
「――小型の魔導コンロだぞ!? もっと食いついてくれてよぉぉぉぉおん!」
あー、自慢したかったのか。食いついてやれずにスマン。
これはお互い様だな、仕方あるまい。
「すいません、あまり詳しくなくて。それで、どうなんでしょう?」
やれやれという顔をされた。
そして、大きなため息の後に口が開いた。
「第一に本体が高い、今のままつくると1万ガルスになってしまう。本体の利益は、あまり無くてもいいのだが、上の方針で赤字販売は許してもらえない。流通を考えると、2,500ガルス程度に抑える必要がある」
「コストの原因は、分かっているんですか?」
「魔法陣が巨大で、それを格納するための魔導石が高い。巨大になった理由は、プログラムが複雑で、肥大化したからだ」
「そうなんですね、他には?」
「第二に燃料用の魔導石が高い。というか燃費が悪い。最大火力で、15分しか持たん。原価50ガルスのものを使う予定なんだが、1時間は持たせたい」
「状況は把握しました、これはいつまでに完成させる必要があります?」
「……1ヵ月だな」
納期は聞いてみたが、規模が分からないので、何とも言えない。
どちらにしても、時間を掛ければ解決する問題ではないな。
「それで、私は何をしたら?」
「現状の問題を分析して欲しい。チームのメンバーは、客観的に見るのが難しくなっておるのでな」
「分かりました。微力ながらやってみます」
ここまで来たら、中のメンバーには見えなくなってるだろうな。
* * * * *
さてさて、ソースコードを拝見っと。
あー、D言語やん。
まあ、そんなに困ることはないけど。
速度と効率重視なら、そうなるか。
魔法陣の構築してっと。
いつもならここで実行だけど、今回は違う。
専用の装置を使って、開発用の魔導石に書き込む。
書き込み中は、絶対に触ってはいけない、失敗したら悲惨だからな。
それを魔導コンロに接続して、……点火っ!!
――燃えている。
すべては燃えている。熾燃として燃えさかっている。
これがこの世界の魔法か、綺麗だな。
地球のコンロの様に、ガスが吹き出る音もないし、静かだ。
あとは、デバッグ環境の動作確認をしておくか。
まずは、開発用の魔導石を外しまして、デバッグ用の装置に切り替える。
魔導演算装置と装置を、専用のケーブルで接続したら完成!
デバッグ実行、開始!
よし!動いた。あとは設定すれば、プロファイル解析ができるな。
――あれ? 順調すぎない? やだ、怖い。
えーと、目標達成するには、ここからソースコードを1/4にして、処理の効率を4倍にすればいけるな。
……さすがに無理じゃね?
本当の意味での、魔法使いが要るかも。
「――くっくっくっく、ここは俺の出番のようだな」
「誰だ!?」
「俺はお前の暗黒面、今こそ解き放て!」
「……い、やだ」
「暗黒面のパワーはすばらしいぞ」
「……そ、れで、もだっ!! ……ハァ、ハァ」
あっぶねー、危うく堕ちかけた。
説明しよう!
プログラマが暗黒面に堕ちると黒魔術が使えるようになる。
黒魔術とは、局所最適化が行われ、非常に優れたパフォーマンスを発揮するプログラムのことを指す。
ただし、可読性が著しく低い、もしくは解読が不可能なものになる。
超短期的には、素晴らしい成果が上がるが、プログラムが崩壊するため、メンテナンスが作った本人ですら出来なくなる。
バグが出て、同僚に見つかろうものなら、人間関係が崩壊する可能性まである。
非常に危険な行為だ。
ふぅ、ダメだ。頭が回らないので、今日は出直そう。
動作確認が出来たので、十分よしとしよう。




