Step19. 図書管理システム納品
国立図書館にシステムの納品の日。
天気は晴れ、絶好の日和だ。
魔法陣が刻まれた魔導石とマニュアル、納品書、請求書を見直してっと。
内容、ヨシ!
日付けもあってる。ヨシ!
サインも入ってる。ヨシ!
前の2人が合格にしてるんだから、絶対ヨシ!
確認は、3度目だ。
ミスは許されない。
……こともないが、失敗したくはない。
今回は受託開発なので関係ないが、外部に発注するときは、ジャイアント法と呼ばれる、小さな会社を守る法律があるので、注意してねって言われた。
巨人が小さな者を潰さないようにという意味らしい。
Magic Soft社は、そこそこ大きいのだ。
「そろそろ、図書館に行きますよ」
「はい!」
「おう!」
行くのは、ポールさんとジン先輩と自分だ。
* * * * *
図書館に定刻通りにただいま到着!
約束の時間の10分前だ。
身だしなみを整えておく。
訪問は、早すぎても遅すぎてもダメだ。
5分前がベスト。
時間になった。
――これより我ら修羅に入る!!
* * * * *
「14時にセリア様とお約束している、Magic Softのポールと申します」
「はい、お待ちしておりました。お掛けになってお待ちください」
……ちょっと緊張してきた。
「おー、ポールさん、お待ちしておりました」
「いつもお世話になっております」
「こちら、新しく入りましたサワタリです」
「よろしくお願いします」
「わたくしは、セリアです。ここの館長をやっています。以後、お見知り置きを」
あとで知ったのだが、セリアさんはドライアド族らしい。
見た目じゃ判別出来ないよ。
「さっそくですが、システムの準備を2人にはしてもらいます」
「分かりました。お願いします」
* * * * *
図書館の魔導演算装置を開けて、拡張スロットに魔導石を挿し込む。
……のを横で見ている。
「こんなもんじゃの」
「あれっ、魔導演算装置を閉じないんですか?」
「動かなかったら面倒だから、確認してからじゃの」
「……なるほど」
起動ボタン、ポチっとな!
――ヴィィィィイ、ヴィィィィイ、ヴィィィィイ!
警報音が鳴り響く、パターン青!?
ジン先輩が、流れる動きで、魔力源を切る。
「何があったんです?」
「分からん、何か間違ったようじゃ。調べてみるわい」
カチャカチャカチャ……
「――魔導石の向きが逆じゃったわ。ガッハッハ」
なんだよそれ、超危ないじゃん。
反対向きに挿さらなくする工夫が、こちらではないようだ。
フロッピーのケーブルを、逆に挿した思い出が懐かしい。
「直したので、やるぞー」
改めて起動ボタン、ポチっとな!
……よし、動いた。
「なんだか、緊張してきますね」
「そうじゃな。俺もこの瞬間は、何度やっても慣れないわい」
さー、次は図書管理システムの動作確認だ!
>elf bms
Book management systemでは長いので、起動名はbmsにしてある。
――こいつ……動く……かないぞ?
言いたかったセリフを封じられてくやしい。
会社では、動いてたんですけどねー。
というやつだ。
遭遇したくはないが、開発あるあるだ。
いや、一度で動こうものなら、それは奇跡と言ってもいい。
違う環境に持ち込んだ時は、動かないのが標準だ。
もし動いてしまったなら、意地でも納得のいくバグを出そうとするだろう!
……ハァハァ、ここまで言えば満足だ。
「おい、携帯式・魔導演算装置を取ってくれ」
そうだ。
ここに来て、やる事は一つ、現場デバッグだ。
実行して、何も起きないというのは、貴重な情報で、この現象が発生する要因は、ある程度絞られる。
ここは勘と経験がものを言う領域だ。
* * * * *
結論から言えば、図書館側の魔導演算装置の基本システムが古かった。
自分らの開発環境が、最新なので、気づきにくやつ。
バージョンアップするのも解決策なんだけど。
図書館の全ての装置は、バージョンが統一されているだろうし、他の魔法陣が動かなくなったら、怒られるだろうなぁ……
ジン先輩と協議の結果、古いシステムで動くように改造する事になった。
「俺はポールに、時間を稼いでもらってくるので任せてもいいか?」
「はい、わかりましたお願いします。でもセリアさんが居るのに報告するのはまずくないですか?」
「隠語があるのんで大丈夫じゃ。忘れ物を取りに来たといえば、伝わるわい」
「――それは助かります。ここは任せてください」
「おう、それじゃ行ってくる」
それではやりますか。
細工は流流仕上げを御覧じろっと。
――基本システムの差分を調査
チッ、数が多すぎる。
――図書管理システムで使用しているモジュールを解析
対象は10、20、30、38、完了。
代替可能な機能の調査および置換を実行。
固有の機能は、手動で実装、――完了
魔法陣の再構築開始……30%、50%、70%、80%
――魔力低下、機能停止
まだまだぁ! 内部魔源から、外部魔源に切り替え。
再起動――完了
構築シーケンスの再開、90%、100%完了!
「……タリ、……ワタリ、サワタリ」
「――っ、なんでしょう」
「やっと帰ってきよったか」
「……すいません」
「出来たなら、魔導石に書き込んでくれ」
「はい」
* * * * *
「よし、いくぞ?」
「お願いします」
動け、動け、動いてよ!
今動かなきゃ、今やらなきゃ、面目が立たないんだ!もうそんなの嫌なんだよ!
だから、動いてよ!
>elf bms
――ドックン。
魔法陣の鼓動が聞こえる。
暴走は勘弁してくださいね。
「うーーーーごーーーいーーーーたーーーーー!」
この瞬間は感極まる。
いや、喜ぶのはまだ早い。起動しただけだ。
テストコードは動かしたが、新規の部分は作ってない。
マニュアルの通りに1つずつ動作を確認していく。
ここからは早かった、いくつか修正はあったものの順調に終わった。
セリアさんとポールさんを呼んで、見て貰う。
反応は悪くない。いい感じだ。
一通りのデモンストレーションが終わったので、現場の人間にレクチャーする。
マニュアルを片手に使い方を1つずつ説明した。
時折、質問や改善要望を受けたりもした。
ここまできたら消化試合なので、一息つける。
* * * * *
納品も無事終わりそうだ。
ポールさんが、納品書と請求書を渡している。
「シリアさん、そして職員の皆様ありがとうございました」
「こちらも助かりました。納期より早めにいただいて感謝しております。流石ですわね」
「恐縮です」
ついこの前まで、間に合いそうに無かったなんて言えない……
「では、失礼させていただきます」
「2人とも帰りますよ」
「「はい」」
* * * * *
「ジンさん、サワタリさん、トラブル対応ありがとうございました。非常に助かりました」
「おうっ!」
「はいっ!」
「次からはちゃんと、相手のシステム要件を確認せんとダメじゃの」
「ですね」
「今日はもう直帰で大丈夫です。お2人ともこれから、お時間いかがでしょう、飲みに行きませんか? 今日は私が奢りますよ」
自分は会社に住んでるんで、直帰でも一緒なんだけどね。
「奢りならいくぞ。飲みはせんがの。ガッハッハ」
「私もお供させていただきます」
「今日の出来事を詳しく教えてくださいね」
「もちろんじゃ! サワタリが大活躍だったんじゃよ」
あとは2週間の検収期間に、何もなければ、一先ず終わり。
問い合わせが0件というのは、あまりないんだけどね……
とは言え、喜ぶタイミングはここだ!
やったどーーーー! 終わったどーーーーーーー!
商品やサービスの完成したことを、リリースというが、日本語にすると解放だ。
開発が終わって、プログラマが解放される意味に違いない。
リリース・リコレクション!
――思い出がよみがえる。
あとは飲み会を楽しむだけだ。
どこがいいか聞かれたので、クラフトビールのお店をリクエストして行った。
仕事終わりのお酒って、本当に美味しいですね。




