Step18. ムウの一日
――わたしはムウ。
狭く暗い場所を抜け出した種子の様に
――世界は光に満ち溢れていたことを知ったの。
新しい職場で、サワタリに出会って、プログラミングを識って、毎日が楽しいわ。
……っ、朝日が眩しいっ。
夜に強いという能力を手にした代償に、朝が弱くなる能力を付与されてしまったの。
朝起きれないのは、そう、決して、わたしの責任ではないわ。
魔法で着替えを済ませてっ。
……羽根がはみ出ていないね。よしっ!
――朝礼セーフ。
住み込み制度でなければ、危なかったわ……
早く研修を終わらせて、フレックスタイムを使いたいところね。
朝礼では、連絡事項の共有と、今日の作業予定を報告よ。
ゴブリンでもわかるE言語プログラミングは、早々に読破したの。本を持って帰って、読んでいたから早く終わったのだけれど。
面白くて、つい夢中になったわたしは、変わり者かしら?
今はオブジェクト指向と、デザインパターンというのを学んでいるわ。書籍はサワタリの私物なので、大切に読んでいるのよ。
読書が好きで、多くの書物に触れているつもりだけれど。サワタリに借りたものは、聞いたこともない出版社だったわ。
まだまだ、知らないこともあるのね。
学ぶことも楽しいのだけれど。
――本当は、早く仕事の役に立ちたいわ。
サワタリに、その想いを伝えてみると、焦ることはないから、基礎をしっかりやろうと、言われたの。
でも、わたしの気持ちも汲み取ってくれたわ。
今の学習が終わったら、仕事で実践しようと言ってくれたので、がんばる。
オブジェクト指向というのは、難しいわ。
プログラミングの概念だけども、いまひとつ掴みどころがないの。
概念であるが故に、明確な不正解はあっても、正解はないのかも知れない。
わたしが理解した内容を言葉にすると、プログラムを生物として考えるのがしっくり来たわ。
生物には、生まれてから死ぬまでの一生があり、種によってに出来ることが違う。
種と動作を定義するのが、オブジェクト指向だと思うの。
例えば、人という種であれば、食べる、歩く、話すなどだわ。
今まで、何となく書いてきたプログラムと変わりはないのだけれど。
概念を知ったあとだと、違うものに見えてきたわ。
class 人
{
void 食べる();
void 歩く();
void 話す();
}
……これだけと言われれば、これだけの話なのだけれど。
あとはオブジェクト指向を支える機能を、改めて理解したわ。
その中の1つに、継承と呼ばれるものがある。言葉ばかりややこしいのだけれど、生物に例えると進化だわ。ポケ〇ンと何ら変わりはない。
――ただそれだけ、あれ、そんなに難しくない?
進化は動作が増えるだけだわ。
厳密に言えば、進化前の動作の改変もできるのだけれど。
コードに書き起こすとこう。
class 空を飛べる人 : 人
{
void 空を飛ぶ();
}
こんなに簡単でいいのかと不安になったので、サワタリに確認を取ってみたら、理解度が非常に高いですね、と言われたので、安心したわ。
……意外とチョロい。
オブジェクト指向が、そこそこ理解できたと自信を持ったので、デザインパターンというのを見てみたわ。
これはオブジェクト指向でよく使うパターン、つまり、テンプレをまとめたもの。
……という理解までは、良かったのだけれど。
抽象度が高すぎて、何に使えるものかさっぱり分からなかったわ。
頭がパンクしたので、サワタリに泣きついたら、笑われた。
経験しないと、使い道は分からないので、今はそういう考え方があることだけ、覚えて置いて欲しいとのこと。
最初から、そう言っておいて欲しいものだわ。
「ムウ、ランチ行っくよ〜♪」
――あら、ジェシカが来たわ。時間が経つのが早い。
ジェシカは、幼馴染で、ここのお仕事を紹介してくれたの。
人が足りてないから、誘われたような気もするけど……今は感謝しているわ。
――今日のランチは、野菜にした。
ジェシカは、いつも肉。そしてよく食べるわ。
……太らなくて、うらやましい。
午後から何をするって?
――理解できるまで、朝の反復学習よ。
地味じゃないのかって?
――地味だわ。だけど、とても素敵に感じているの。
なぜですかって?
新しいことを覚えるのに、時間が掛かっても、一歩ずつ、確実に前に進めるからよ。
特別な才能は、要らない。わたしにも出来る。こんな素晴らしいことは他にないわ。
中でも驚いたのは、わからないことでも繰り返しているうちに、急にわかる瞬間があったの。
何が起きたのか、上手く説明は出来ないのだけれど、成長を感じて満たされたわ。
一人前になるには、三年掛かると言われたけれど。それは、知らないことがまだまだあって、楽しい時間で溢れていると思うの。
――少し、疲れたわ。ティータイムにしようかしら。
決められた休み時間以外に、休憩できる仕事なんて、聞いたことがないのだけれど。
ときどき、リフレッシュするのも、大切だと教わったのよ。
最初は戸惑ったのだけども、みんな休憩していたので、安心したわ。
んーっ、サワタリに貰った紅茶にしよう。
カップにお湯に入れるだけで飲めて、とても美味しいの。
――ふーっ、安らぐわ。
この後は、サワタリが来て、雑談をしていったわ。
……といっても、オブジェクト指向とデザインパターンの話題だったのだけれども。
きっと様子を見にきてくれたのね。
デザインパターンを使って、何かプログラミングしてみたらと言われたので、試しに作ってみるわ。
構造が簡単なので、シングルトンパターンを実装してみたらと言われたのだけれど。
パターンとしては、あまりお勧めできないらしい。
――残念だけれど、わたしのレベルでは、良し悪しの判断はつかないので、深くは考えないわ。
カタカタ……タン
カタカタカタ……タン
カタカタカタカタ……タン
――出来たわ!
ソースコードを見て貰ったら、上手くシングルトーンパターンができていると褒められたのよ。
作ってみると、クラス図の理解が深まったわ。
やっぱり、本を眺めているだけでは、不十分ね。
ーーあら、業務時間が終わりそうだわ。
今日一日の進捗を報告して終りね。
研修中は、残業するなと言われているの。
もう少し、やりたかった気持ちもあるのだけれど。
いいわ、図書館で、本を借り換えて読書するわ。
今日は、夜更かししないように、しなくっちゃね。
違うのよ、あくまで、美容のためなんだからね。




