Step17. トカゲのしっぽ
待ちに待った、ムウさんと自分の歓迎会。
ポールさんと合流して、会社のみんなと"トカゲのしっぽ"というお店に向かう。
ジン先輩が、予約を取ってくれたお店で楽しみだ。
一体何が食べれるのだろうか。我慢できなくなったので聞いてみる。
「ジン先輩、"トカゲのしっぽ"って何のお店ですか?こちらに出てきたのは最近なので、街のことは殆ど知らなくて……」
誰もが知るような有名なお店なのだろうか。
「なんだ、お主、行ったことが無いのか。ドラゴン焼肉の食べ放題のお店じゃよ」
「――ド、ドラゴン!? あの伝説のドラゴンが食べれるんですか?――しかも食べ放題で!?」
――衝撃のファーストブリット
独自に仕入れた情報によると、ドラゴン肉は最高級品で、非常に美味だと見た。
さらに、ステータス上昇の効果があるという情報もあり、期待しかない。
希少性の高さから、ヤバいくらい高価というのが通説で、手が出せるものなのだろうか。
「何の伝説かは知らんが、でっかくて、鱗があって、羽根の生えたやつじゃわい」
知っているドラゴンの形状と一致する。――間違いなくドラゴンだ!
「お、お、お、お、お金は、だ、だ、大丈夫、な、なんですか? お、お高、いいいんでしょう?」
期待と不安が入り乱れて、呂律が回らない。
「何をうろたえとるんじゃ。お主の分は、奢りだから心配せんでええぞ。それに安いとまでは言わんが、1人5,000ガルス程度じゃわい」
こちらの物価は分からないが、月給が20万ガルスなので、何となく5,000円くらい……なのかな。
つーか、これって、地球でちょっといい焼き肉屋さんと一緒やん!
えっ、ドラゴンって、そんなもんなん!?
「――ドラゴンって、そんなに安いんですか?」
思わず口に出ていた。
「ああ、天然物は確かに高いんじゃが、特別なブランドもない養殖物なら、こんなもんじゃろうて」
――撃滅のセカンドブリット
あかん、養殖ってなんや、頭がついていかへん。
よくよく考えてみたら、あれだけ身体が大きれば、取れる肉の量も多い。養殖さえ出来れば、安価で出回るのも不思議な話ではない……か。
でも、ドラゴンって強くなかっただろうか。
冒険者が生涯をかけて挑む、憧れ、行きつく先、強敵、死と隣り合わせ、そんな単語が思い浮かぶ。
どこぞの魔導王なら、心臓を一撃で握り潰すのだろうけども。
――くっ、これ以上足を突っ込むのは、危険だと脳内が警報を鳴らしている。
しかし、好奇心の波がそれを上回る。
「ドラゴンって、強くないですか? 養殖とは言え、倒すのは、危険ですよ……ね?」
「何言っとるんじゃ、ドラゴンスレイブの魔法を使えば、子どもだって絞めれるぞ」
――抹殺のラストブリット
もうやめて! とっくにライフはゼロよ! もう勝負はついたのよ!
それにドラゴンスレイブって何だよ。黄昏よりも昏きも……いや、なんでもない。
……やっぱり聞くんじゃなかった。
うん、この話は止めようか。精神衛生上よくない。
そうこうしてるうちに、お店に着いた。
入り口の前には、看板が立て掛けてあった。
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炭火焼肉
トカゲのしっぽ
当店では、ドラゴンの一頭買いを行なっております。
厳選されたお肉をお楽しみください。
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これは本格的なお店だな……
ドラゴン肉を楽しむことに集中しよう。
お店の中は落ち着いた感じで、いい雰囲気だ。
個室に案内された。
まずはドリンクを注文する。
トリアエズナマと言いたくなるのは、ご愛敬。
いや、あれは逆に異世界感はないな。舞台も京都だった記憶があるので、急に親近感が沸いた。(地球では京都在住)
ソフトドリンクは、麦茶に、アイスティー、オレンジュースだ。
お酒は、特にビールが豊富で、ラガーにエールが数種類ずつあった。他には焼酎とワインがあった。
黒ビールが好きなので、ネギススタウトというのに決めた。
ジン先輩は麦茶、ムウさんはオレンジュース、フリートさんは赤ワイン、ポールさんは焼酎のようだ。
みんな好きなものを頼んでいて、安心できる。一杯目はビールという文化はないようだ。
――飲み物が全員分行き渡った。
ポールさんが乾杯の挨拶を行っていたが、肉のことが気になって、耳に入らなかった。
みんなが起立したところで、意識を取り戻した。自分も慌てて立つ。
「乾杯!」
片手で、グラスを頭の上まで持ち上げた。
「「「「「乾杯!」」」」」
みんながそれに続く。
そして、ドリンクを一気に飲み干して、グラスを地面に投げつけて叩き割った。
……というのは冗談だ。こんなヤバい飲み方をするのは、銀河の帝国軍くらいだろう。
グラスを持った腕を軽く上げて、乾杯と言って終わりだ。自分もそれに倣う。
さてさて、お肉が運ばれてきた。待ってました!
最初は、牛タンならぬ、ドラタンが来た。牛タンよりも、薄切りだ。
こちらでも塩コショウで食べるようだ。
「うまいっ」
脂が少なくさっぱりしていて、牛タンよりも、遥かに噛み応えがあった。
厚くすると噛みきれ無さそうなので、これが丁度良い。
そして、ビールを流し込む。くぅーっ、合うーーー!
食に勢いがついたので、ロース、カルビ、ホルモンを少量ずつ頼んで、味わう。
「――んーっ、美味しいっ!」
ドラゴンの肉は全体的に脂が少なくて、食べやすい。
うま味がギュッと詰まっているので、淡泊でもなく、飽きない。
ただ、タレはステーキソースに近いので、醤油ベースの焼肉のタレが恋しくなる。
パリパリというメニューが気になったが、食べ放題ではないので、ジン先輩に確認を取った。
2つ返事でOKが出たので、頼んでみる。
子ドラゴンの鱗付き肉だ。
大人の鱗は硬くて食べれないが、子は柔らかくて、焼くとパリパリした触感で食べれるらしい。
――来た来た。
自分で焼くのかと思っていたら違った。調理されて出てきた。
これは納得だ。ドラゴンも鱗付きで焼くのは、難しいということだろう。
慣れない人がやると、鱗が逆立ってしまって、美味しくない。
関西では、赤甘鯛を鱗を付けたまま焼いて食べる。これと同じだろう。
――うんちくは程々にして。
「いただきます。……おおっ、これは凄い」
鱗はパリッパリで、身はふっくら柔らかい。
ほのかな甘みと香りがあって、臭みは全くない。
「ここはテールスープが、おすすめじゃぞ」
ジン先輩が、そっと教えてくれた。早速注文しよう。
これは食べ放題メニューに含まれており、名物と書かれていた。
頼まないとあかんやつや。
――だが、不安が少しあった。
牛のテールスープは、癖があり自分の好みではないのだ。
ドラゴンも似たようなものだったら嫌だな。
そう思っていた時期がありました。はい、つい先程の食べる前まです。
なぜ、牛と比較していたのか、今でも分からない。
スープはゼラチン質たっぷりで、深みがあって、やさしい味だった。
テール肉にかぶりつくと、いい味が溢れ出てくる。
「ラストオーダーの時間でーす」
おおぅ。もうそんな時間か。飲み物と1人1品までの、デザートを注文する。
シャーベットとかもあったけど、ドラゴンの卵を使ったプリンに惹かれた。
くちどけは、なめらかで、味は信じられないほど濃厚だった。
甘さ控えめなのも、実に好みだ。ここに来たらまた食べよう。
「サワタリ、二次会どうじゃ?行くか?どっちでもいいぞ」
「はい、参加させていただきます。食べるのに夢中だったので、次は会話メインにしたいと思います」
「ムウはどうするのじゃ?」
「……私、帰る」
「了解じゃ!」
断りにくさはあるが、飲み会を強制しないこの気遣いはとても嬉しい。
「会場の時間が迫ってきたので、一旦締めるぞ。時間のある奴は、二次会を開催するので外で待っててくれ。サワタリも来るぞ」
流石、幹事しっかりしている。あたかも素面のような対応。
……そうだ飲めないんだった。
二次会は、キャッシュオンのバーだった。
リーズナブルな価格ながら、とても美味しかった。
そこでは図書管理システムの話題や、開発の在り方、趣味や異性のことで盛り上がった。
終電を気にする必要がなかったので、4軒目まで飲み歩いた。
最後の方はよく覚えてないが、久々の楽しい飲み会だった。




