Step16. 親分、てぇへんだ、てぇへんだ
――会社に来て、2週間が経った。
現在、場所は会議室。
開発メンバー全員が集まっている。
――場は静寂に包まれており、神妙な面持ちで、ミーティングの始まりを待っている。
「……みなさん、集まりましたね。時間になりましたので、定例の進捗ミーティングを始めます」
親分はメンバーが居るのを確認した後に、開戦の口火を切った。
「では、ジンさんから、進捗報告をお願いします」
両肘を机について、手の甲をあごに当てて、少しうつむいている。グロウオレンジのメガネを掛けようものなら、どこぞの司令だ。(顔は似てないけど)
「……全部、終わったぞ」
平静な表情を急変させて、ニヤリとして言った。
「――なっ!? ……作業が2週間も遅れていたのですよ!?」
「信じ難いのは、俺も同じじゃ。だが間に合ったんじゃ、終わったんじゃ、イャッホウ!」
歌って踊り出しかねない喜びようだ。
そりゃ、遅れている仕事を片付けたら気持ちいいよね。
「ご尽力いただいて、本当にありがとうございます。しかし、なぜ急に作業が捗ったのでしょうか?」
狐につままれた顔で、問いかけてきた。
しかし、その表情は親分だけだった……
――しまったぁぁぁぁあ!
ここに来て気づいてしまった。
開発の運用を色々と変えたにも関わらず、親分に報連相を全くしていなかった。
「ポールさん、てぇへんだ、てぇへんだ」
慌てて声を出す。
「申し訳ありません。私が、開発の新しい運用を、ポールさんと相談なしに始めてしまいました」
結合ツールやペアプロ・モブプロおよびテストコードについて、説明と報告をした。
「ペアプロすると、設計と実装にバグが殆ど発生しなかったのじゃ。手戻り工数は、ほぼゼロだったと思うぞ。こんな体験初めてじゃ」
「テストコードも優れていました。バグ修正した時の影響範囲が、直ぐにわかったので、確認工数が、非常に少なく済みました」
「――それで、ふむ。この驚くべき成果を……」
「サワタリさん、どれも称賛に値する行動です。結果として、納期にも間に合いました。ありがとうございました。私が見込んだ通りです。これからもお願いしますね」
「ーーでも次からは、私にも教えてくださいね」
親分は、みんなの前で褒めてくれた。
そして声を荒げるでもなく、優しく説いてくれた。
良い上司に恵まれたと思う。
「ポール、報告しなかったのは、俺たちも同じじゃ。叱るなら、俺たちにも言ってくれないとダメじゃぞ」
「その通りです。我々にも責任があります」
「――っ! 確かにそうですね、みなさんも次からは、教えてくださいね。この様子だと、知らなかったのは私だけで、寂しいじゃないですか」
みんな穏やかな表情で、笑みが溢れている。良い仲間に恵まれた。
職場は、仕事内容や給料、休日なんかよりも人が大事だと、改めて実感した。
日々の1/3は職場で過ごすのだ。楽しく、気持ちよく働ける場所にいる事が重要だ。
「はい、では進捗報告を再開します。次はフリートさんお願いします」
――おっとミーティング中なのを忘れていた。
気持ちを切り替えよう。
「私も、全ての工程を終えました」
みんなペアプロやモブプロで、結合テストや動作確認を終えていて、進捗は把握している。
図書管理システムは完成しており、このミーティングは完成報告会なのだ。
「了解しました。逆に作業が残っている方は、挙手をお願いします」
さすが、ポールさん。
状況を察したようで、質問内容を変えてきた。
――シーン……
「……誰も居ないようですね。では何か問題を抱えていたり、共有・相談したい事項はありますか?」
ミーティングは始まって10分しか経っていないが、締め始めた。
議題がなくなれば、ミーティングを終了するは一流の仕事だ。
予定に入れたからといって、時間を使い切らなくていいのだ。
「はい! 問題があります!」
フリートさんが、挙手して発言をした。
一体なんだろうか。システムは出来上がっており、事前に共有している内容はない。
はっきり言って、思い当たる節が無い。
「フリートさん、どうぞ」
手で指して、続きの言葉を求める。
「図書管理システムは完成しました。あとは納品して、受け入れを残すのみです。……つまり、仕事を消化してしまって、やることがありません!忙殺されて、延期になっていたサワタリさんと、ムウさんの歓迎会を開催を提案いたします!」
「「「おお~~~!!」」」
「それはいいですね。開催しましょう。異議のある方は挙手をお願いします」
「はいっ!ありませんね!」
――間を空けず、言葉を続けた。これは聞く気ないやつ。
「では、幹事はジンさんお願いします」
「承知じゃ。だがもう店は予約してある。"トカゲのしっぽ"じゃ、今日の仕事が終わり次第に開催じゃぁ~」
今日の予定を聞かれてたのは、この為だったのか。
「えっ、そんなに急に?みなさんの都合は問題ありませんか?」
「既に全員の参加は、確認済みじゃ」
――こいつら、謀ったな。
後ろで悪い笑みを浮かべている。
歓迎会の開催を知らなかったのは、自分とムウさんとポールさんだったようだ。
それとなく、感じていたけどね。
歓迎会を開いてもらえるのは、やっぱり嬉しい。楽しみだ。
――くいっ、くいっ
シャツの裾を引っ張られている。その先を見るとムウさんが居た。
「サワタリ、歓迎会、どういうこと?」
「私も入って2週間しか経ってないんですよ」
――ムウさんは言葉を失って、それ以上なにも言わなかった。
こうして、進捗ミーティングは幕を閉じた。
みんな自席に戻ったが、やるべき仕事は終えており、達成感に溢れていた。
浮ついていて、何も手につかない。
休憩時間が増え、雑談に花が咲くのは――必然!
あちらこちらで、思い思いの話が繰り広げられる。
となると、他の部署から怒られるのも――必然!
平たく言うとジェシカにお叱りを受けた。
お前ら、フレックスタイム使って帰れって言われた。
――ぐぬぬ、正論すぎて何も返せない。
居ても迷惑にしかならないので、みんなで相談して外で時間を潰すことにした。
――ただし、ポールさんを除いて……
他のプロジェクトの調整があって、後からいくとのこと。
管理職の方は大変ですね。




