会談?
「むむ! これも美味しい! 凄く美味しい!」
餓死寸前だったのか、ディツェンが一人で喜びの声を上げながらガツガツと料理を口に運んでいく。
その様子を呆れながら見つつ、俺はアイファ達に目を移した。
ディツェンの高いテンションにさぞかし引いていることだろうと思ったのだが、二人は無言で料理を食べ続けていた。揃って下を向いていたが、視線に気が付いて顔を上げる。
「……美味い料理だった」
「……まぁまぁですね」
澄まし顔で感想を述べる二人に苦笑し、頷く。
「お口に合ったようで何より……それでは、詳しいお話をしましょうか」
そう言って姿勢を正すと、ヴィオレットの目が細められた。
「……帝国の思惑と、戦争について、ですね」
こちらを睨み据えながらそう口にしたヴィオレットに、情けないことに気圧されそうになりながら無理やり笑みを浮かべてみる。
「そう、ですね……出来ることなら皆が幸せになれるように戦争回避についてご意見を聞かせて欲しいものですが」
曖昧に笑いながら答えると、アイファが口を開いた。
「不可能だ」
きっぱりと俺の意見は切って捨てられ、ヴィオレットもそれに頷く。
「陛下は平和なんて退屈なもの、一欠片の興味も持ちませんねぇ。そんな腑抜けた提案が出来るのも、こんな空の上に居るからなのでしょうけど……今この瞬間は、その帝国の将軍が目の前にいることをお忘れなきように」
そう呟き、ヴィオレットは薄く笑みを貼り付けた。
牽制だろう。分かってはいるのだが、現役の軍人というだけに周囲の空気が重くなったような圧力を感じる。
「あ、ははは……いや、困りましたね。あまり争うのは好きじゃないので、そこを何とか……例えば、お二人が皇帝に直接言ったらもしかしたら……」
「あら? 私は戦争反対とは言っておりませんが……こんなゴーレム数体並べた程度で、帝国の将軍を脅せるとでも?」
と、ヴィオレットの髪が不自然に揺れ始めた。ユーリでは無いが、自分でもヴィオレットの周囲に魔力が溢れ出したのが察せられた。
身の危険をビシバシ感じた瞬間、辺りが急に暗くなった。
瞬きする間もなく、ロボット達が俺の前に手を出して壁を作っていたようだ。目の前に現れた四本の大きな腕にホッと息を吐き、背もたれに体重をかける。
「なっ」
「ひぇっ」
ヴィオレットの息を呑む声とディツェンの悲鳴が聞こえ、ロボット達に声をかけた。
「もう大丈夫」
そう告げると、ロボット達は左右に分かれて所定の位置に戻る。
開けた視界の中で、アイファとヴィオレットが席から立ち上がってこちらを見ていた。ちなみにディツェンは何故か床に這いつくばっている。
「いや、申し訳ありません。皆心配性なもので……」
思わずそんな言い訳をしてしまったが、それにアイファがピクリと反応を示す。
「……なるほど。魔術師としてだけでは無い、ということか」
「はい?」
意味の分からない言葉に頭を捻ると、アイファは目だけを動かして周囲を確認した。
「……この広間にも隠れているのだろう? このゴーレムの数からして十人前後か。よく我々に気配を察知されずに隠れられるものだな」
「あ、いや、別に誰も……」
アイファが勘違いしてることに気が付いたので否定しようとしたのだが、ヴィオレットが片手を上げて鼻を鳴らし、俺の発言を遮った。
「分かっていますよ。一人だけ、上手く気配を隠せていない人がいますからねぇ……ほら、そこに」
そう言い、ヴィオレットは一つの柱を指差す。エイラが隠れている場所である。エイラが二人の警戒する魔術師というわけでは無いのだが、このままでは二人も納得しないだろう。
やはり二階の自室で待機してもらっておけば良かったか。
後悔しつつ、俺は後ろを振り返った。
「……出てきてくれるかな、エイラ」
声をかけると、柱の影からA1を連れたエイラが歩み出てきた。その表情は緊張感で強張っており、指先は僅かに震えている。
アイファとヴィオレットはエイラの登場に僅かに困惑しているようだ。
「ごめんね。悪いけど、二階に戻っておいてくれるかな」
そう告げると、エイラは小さく首を左右に振って口を開いた。
「……もし、お許しいただけるのなら、私も同席させてください」
エイラは震える声でそう口にすると、こちらへ歩いてきた。近付いてくるエイラを見据え、ヴィオレットが目を開く。
「……もしかして、レティーツィア王女? アツール王国のレティーツィア・エイラ・アツール王女様でしょうか」
ヴィオレットが低い声でそう言うと、エイラはびくりと肩を震わせた。
その反応を見て、ヴィオレットの目が更に鋭くなる。
「アツール王国が帝国に攻め込まれない為に吐いた大嘘かと思っていましたが、まさか本当に空の上にいるとは……」
言いたい事を飲み込んだような、含みのある言い方だった。その気配を敏感に感じ取ったのか、エイラは俺の横に立ってもアイファとヴィオレットを正面から見ようとはしていない。
俺は二人を眺めてから咳払いをし、注目を集める。
「……なんにしろ、これでこの広間に魔術師は隠れていないと理解していただけましたね?」
そう確認すると、ヴィオレットは顔を上げて胸を反らした。
「天空の国がアツール王国の味方についた理由も、ですね」
嫌みを言うヴィオレットに対し、アイファは眉根を寄せて唸る。
「……では、このゴーレム達はいったい何処から操っているというのか。その三人は魔術師のようだが、このゴーレム一体を操るのも難しいだろう」
ユーリ、ディツェン、メーアの三人を観察するように睨むアイファに、俺は愛想笑いをしつつ顎を引いた。
「ああ、いや、全部俺の部下みたいなものでして……」
曖昧に濁したつもりでそう言ったのだが、アイファ達はギョッと目を剥いてこちらを振り返った。
「……一人で、だと?」
「じゅ、十体以上のゴーレムを……!? そんな馬鹿な!」
激しく狼狽する二人に、それまで沈黙していたユーリがティーカップをテーブルに置き、口を開いた。
「本当ですよ? 様々な場所を見学させていただきましたが、結局タイキ様以外の魔術師にはお会いすることが出来ませんでした。何かしらの技術が関係しているとは思いますが、タイキ様がお一人で全てのゴーレムを管理していることは間違いないと思います」
ユーリの説明にアイファ達は絶句し、ディツェンは弾けるような笑顔を見せ、口を開く。
「そ、そ、そんなまさか、全てのゴーレムを!? これは確実に従来の術式では無い革新的な技術が、一つ一つのゴーレムに組み込まれている! 知りたい! 是非知りたい! それが何なのかを!!」
心の声を絶叫しているディツェンに、ユーリは困ったように笑った。
「あらあら……ディツェン様の病気がまた……」
呑気な二人の会話を横に、アイファは鋭い視線で俺を睨む。
「……タイキ殿。不躾ながら頼みがある」
そう切り出したアイファに場が静まる。
「頼み、ですか」
言葉を繰り返すと、アイファは浅く頷いた。そして、口を開く。
「私と、魔術で勝負してもらいたい」
そんなアイファの一言に、俺は思わず素の声を出してしまった。
「え、何で?」




