危険回避
...そういえば、さっきピカッと光っていた気もする。
「やっぱり雨、だいぶ強くなって来てますね...」
不安が高まって来ていたからなのか、私は思わず口に出していた。
「うん...ほんとにね...
もしかしたら、パーティーも......」
陽介さんがそう言うや否や
「皆様、宴も酣ではございますが、予報によると、これから更に雨脚が強まるとのこと。
当家では万全の対策を施しておりますが、皆様の安全と生活を考え、万が一を想定し、誠に遺憾ではございますが、これで娘の誕生日会をお開きとさせていただきたいと思います!
本日はご参加いただき、ありがとうございました!
道中、くれぐれもお気をつけ下さいませ」
と、忠徳さんが登壇し、緊急の報告をした。
少し会場がどよめく。
ああ、やっぱりこうなったか...
なんとなくなんだけど、週間予報で今日の大雨予報を見た時から、こうなる予感がどこかにあった。
麗華の日頃の行いのせいだろうな、うん。
...まあでも、それだと私も悪かったって事になっちゃうか?
そんなどうでも良い事を考えながら、周りの様子を窺うと、居残り組以外は皆帰り支度をしていた。
麗華はというと......
あー、あれはだいぶ怒ってるわ。
でも流石に、それを出来るだけ表面には出さない様にしている辺り、忠徳さんの手前、恥を晒す様な真似はしないよう心得てはいる...という事か。
パーティーの臨時スタッフの人達が、会場の片付け組と、参加者の誘導組に分かれ、テキパキと捌いていく。
私達は、誰の邪魔にもならないよう、部屋の隅で固まって待機する。
一時間もしない内に、会場はほぼ綺麗に片付き、参加者も全員、帰宅の途についた。
「あ~あ、一人くらい誰かにサイン貰っておけば良かったかな~」
優奈ちゃんが残念そうに言う。
「はぁ~、ほんとですよ~。
業務が忙しく無かったら、私だって......あっ!」
近くに来ていたメイドさん──星井さんが、思わず本音を溢してしまったのか、慌てて取り繕おうとする。
「良いじゃん、光織ちゃん。今更だよ」
陽介さんが笑いながら言う。
「ダメですって~。
こんな所、神守さんに見つかったら何言われるか分かったもんじゃないんですから~」
星井さんが、若干キョドる。
やっぱり、面白い人だったなー。
「初めまして。今日こちらでお世話になります、月宮華菜といいます」
忘れない内に、早速挨拶した。
「私、姫宮優奈で~す!
よろしくお願いしまーす!」
優奈ちゃんも挨拶する。
そういえば、麗華と女子校時代からの付き合いみたいだけど、優奈ちゃんって麗華の家に行った事とか無かったのかな?
...まあ、無くても不思議じゃないか。
「あっ、ご丁寧にありがとうございます。
私、星井光織と申します。
本日は皆様の身の回りのお世話をさせていただきます。
こちら、お部屋のカードキーになります」
お仕事モードに入った星井さんが、カードキーを手渡してくれた。
「万が一紛失したという様な事がありましたら、再度発行致しますので、いつでもお申し付け下さい。
私の部屋は3室並んだ使用人室の真ん中の部屋で...あっ、使用人室と申しますのは...」
「それなら、さっき僕が案内したから大丈夫!」
星井さんが説明しかけた時に、陽介さんが先手を打った。
「あっ、そうでしたか...」
どこかに出掛けるとかでも無い限り、先ず有り得ないだろうけど、頭の片隅にでも記憶しておこう。
「それと、食事を召し上がられたばかりで、食欲が無いかもしれませんが、本日は19時が夕食の時間となっておりますので、時間になりましたら、食堂の方へお集まり下さい」
会場にあった高そうな壁時計で時間を確認する。
現在は16:45だった。
「はい、分かりました」
「はーい!」
私と優奈ちゃんが、ほぼ同時に返事をする。
確かにちょっとお腹一杯だけど、かなり早くパーティーが終わっちゃった事もあって、少し物足りない感じもあったから、結構嬉しい。
「何かご不明な点はございますか?」
私は特に無いけど...
「あっ、遊戯室って何時まで開いてるんですか?」
優奈ちゃんが聞いた。
「消灯時間などはございませんので、24時間いつでも利用していただいて構いません。
...ただ、夜遅くに西棟の方へは、あまり行かないよう、お願いします」
まあ、それはそうだろうな。
セキュリティに関わる部屋とかもあるっぽいし。
「はーい、分かりましたー!」
優奈ちゃんが元気良く手を挙げる。
「他に何もございませんでしたら、夕食までの間、ゆっくりお過ごし下さい。それでは失礼します」
仕事モードのまま、星井さんが立ち去ろうとした時
「光織ちゃん、実は僕、さっきあの有名人のサインもらっておいたんだよね~!」
と、陽介さんが自慢気に話し始めた。
ちょっと姿が見えないと思ってたら、サイン貰いに行ってたんだ。
「えっ、ほんとですか!?誰の誰の!?
...あっ、やっば...神守さんがこっち見てる...」
星井さんの視線の先を見ると、確かに執事の神守さんが鋭い目付きで遠くからこちらを見つめていた。
「あとで、見せて下さいね!?」
ヒソヒソ声でそう言った後、星井さんは厨房の方へと去っていった。
「君達はこれからどうするの?」
陽介さんが聞いてきた。
「そうですね...
私ちょっと疲れちゃったので、夕食までの間、部屋で仮眠をとらせてもらおうかなって思ってます」
と、私は答えた。
「そっかー、うん、それが良いよ!
優奈ちゃんは?」
「うーん、まだ全然眠くないんですけど、特に何もやること無いからな~、チラッ」
あっ...
あの視線は......
「よーし分かった!
男には、負けると分かっていても、戦わなければいけない時がある......
君は...そう言いたいんだね?」
何か始まったぞ...
「ふふふ。それでどうします~?」
「愚問だね...僕も男だ!覚悟を決めたよ!!」
死地に赴く様な勢いだけど、チェスの話だよね??
「じゃあ、行きましょうか~?」
優奈ちゃんが不敵な笑みを浮かべる。
「のっ...望む所だ!!」
そのまま二人は東棟の方へ向かった。
...行っちゃった......
嵐が過ぎ去った様な心持ちだが、実際の嵐はさっきよりも酷くなっている。
ふわぁ~あ。
私は自分の部屋へ向かった。




