釣竿と中庭
来た道を引き返し、西側の階段を降りて、次は西棟の一階へ向かう。
2階とは違って、西棟廊下の突き当たりには扉があり、その上方に窓が取り付けられている。
「西棟の一階は、西側に使用人さんの部屋が3室あって、東側は北から順番に物置、厨房っていう感じになってるんだ」
厨房の前辺りまで来ると、開放された扉から中の様子が窺えた。
それなりの人数の人達が、忙しなく動き回っている。
うっわ、やっぱ大変そ~。
「あの人達は殆んど、パーティーの為に臨時で雇った人達だね。
...あっ、ほらあそこ。料理を運ぼうとしてるメイドさん。
あの人は、日神美家で元々働いてる人で、名前は星井 光織ちゃん。
今日は泊まりだね。
三つ並んだ使用人室の真ん中が、確か彼女の部屋に割り当てられるんじゃなかったかな」
見ると、髪型は毛先を巻いたハーフアップで、黒ブラウスに白エプロンの、如何にもメイドさんという格好をした可愛らしい女性が料理を運ぼうとしていた。
年は20台前半っていう感じで、多分21歳の私と同じ位。
身長は私よりも低い...かな。
因みに私の身長は164cmだ。
仕事っぷりは真面目な感じだけど、お洒落なバンスクリップをつけてたりとか、結構流行り物には食いつくタイプなのかも...分からんけど。
「もう一人、ずっと日神美家に仕えてきた、リーダー格の執事さん──神守 篤仁さんって人がいるんだけど、その人も今日は泊まりだね。
部屋は...神守さんが来てる時はいつもそうなんだけど、一番北側の使用人室が割り当てられてるよ」
陽介さんが説明している間に、星井さんが料理を持って、隣の部屋へと向かう。
どうやらパーティー会場と繋がっている様だ。
「今、光織ちゃんが通って行った入り口は食堂に繋がってるんだけど、実は今日みたいなパーティーの日は、食堂の隣にある多目的ホールとの仕切りが無くなって、大きな会場になるんだよ!」
またもや陽介さんが自慢気にしている。
っていうか...玄関に入った時に、両開きの扉が左右に二つあったのは、元々別々の部屋だったからっていうのもあるのか。上手く出来てるな~。
「それじゃ、お次は隣の物置に行ってみよう!」
陽介さんが楽しそうに仕切る。
廊下を北へ向かい、物置の前に着く。
陽介さんが扉を開けると、農薬などの園芸用品や工具類、釣竿等が所狭しと並んでいた。
奥には扉も見える。
「あの扉は、中庭に続く扉だよ」
私の視線に気付いたのか、陽介さんが説明してくれた。
「釣竿とかありますけど、釣りが出来る場所でもあるんですか?」
優奈ちゃんが珍しく質問する。
「ああ、うん!そうだよ!
近くに湖があってね。
結構色んな魚が釣れるんだって、叔父さん言ってたな。
優奈ちゃんは釣りとか好きなの?」
「う~ん...そうでもないかなあ。
お魚さんが釣れるまで待ってると、眠くなっちゃうんです私...」
それなのに釣竿の事が気になるっていうのも面白いけど、まあ、こんな立派な洋館にあったら気になるかな。
「ははは!実は僕もなんだよ~。
ああいうのは、昔から苦手でね」
うん、そそっかしい所あるしね。
「...よし、じゃあ次は、あそこの扉から中庭に出て、東棟の方へ向かおう!」
陽介さんが中庭への扉を開けると、目の前に色とりどりの花や植物が広がった。
うっわあ...すっごい綺麗!
2階の窓から見下ろした時も凄いなって思ってたけど、近くで見るとエモさが増してる感じがする。
あと、屋敷正面からは見えなかったけど、北側も、数百m先は崖になってるみたい。
「...もしかしたらトリカブトとかヤバめな植物もあるかな...なんて思った?」
「...へっ?」
突然おかしな話題を振られたせいで、私はちょっと驚き、思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
「あはは!ごめんごめん!
軽いジョークのつもりだったんだけどね。
ほら、良くあるでしょ。
こういう所に毒性のある植物が植えてあって、遺産とか欲しさに毒殺...みたいなの」
それは流石にドラマとかの見過ぎでは......
...と言っても、そういうドラマは殆んど観た事ないから、ただのイメージなんだけど。
「そ...そういうもの...なんですか...?
...それにしても、ここって別荘なんですよね。
それでこんなに整った中庭って凄くないですか?
育てるのが面倒な植物とか、ちらほら見かけますし...
どなたか常駐していらっしゃるとか?」
なんとなく気になった。
「でしょ~?
でもね、叔父さん家の使用人さんや庭師さんが、定期的に屋敷や中庭の手入れをしてるだけで、ここに常駐してる人とかは居ないんだ。
今回みたいに愛娘である麗華ちゃんのパーティーとかだと、叔父さんも余計に力を入れさせるんじゃないかな」
うん、確かにそんな感じがする......
「はぁ...それは、使用人さん達も大変でしたね...」
私は心底そう思った。
「ははは、うん...確かに、ね」
陽介さんは若干苦笑しながら言った。




