言えない秘密
西棟に着いた。
廊下の雰囲気は東棟と同じなのだが、扉の間隔は、こちらの方が離れている。
また、やはり突き当たりには窓がついていた。
屋敷内はどこも、外壁と同じ色の壁と、廊下に敷き詰められた赤い絨毯の華やかな感じが、目に眩しいと同時に、何処かノスタルジックな雰囲気も醸し出しているなと思う。
西棟二階には予備のトイレや予備室、麗華や、彼女のお父さんの部屋と書斎があるみたいだ。
まあ、案内と言っても、予備室は鍵が掛かってるみたいだったし、他人の部屋を勝手に覗く訳にもいかないだろう。
それにトイレは部屋にもある訳だから、わざわざ確認するまでもない。
「おお、そうだ!まだ麗華ちゃんに到着したって報告してなかったね!
今は自室に居るだろうし、ちょっと呼んでみよっか」
えぇ~、別に良いよ......
......なんて、言ってる訳にもいかないか......
麗華達の別荘なんだし。
「おーい、麗華ちゃーん!
友達連れて来たよ~!」
結構な大声を出しながら、陽介さんは扉をドンドンと叩く。
扉の上を見ると2~3cm隙間が空いており、部屋の中の明かりが、うっすらと漏れている。
また、パーティー会場以外はどの部屋もそうだが、扉の高さは3m...まではいかないけど、多分2m60cmか70cm位はあるんじゃないだろうか?
凄く高く感じる。
そんなに騒いだら流石に怒るんじゃ......
その時、扉が勢いよく開いた。
「うるさいわね!!そんな大きな音たてなくても聞こえてるわよ!!
今、スピーチの原稿を頭に入れてる最中なんだから、邪魔しないで!!」
陽介さんが立てた音以上の喧しさで、麗華が怒鳴り散らす。
開いた扉の隙間から、麗華の部屋の中がチラッと見えたが、客室と同じ様に、入り口正面には窓があり、その前には電気スタンドが置かれた机が設置してあった。
「あ~、ごめんごめん!
でもさ、せっかくお友達来てくれたんだし、取りあえず報告しといた方が良いかなって......」
陽介さんはペースを崩さない。
従兄弟だし、多分、慣れてるんだろう。
「そんなの、会場で見かけたら分かるし、大体今日は泊まるんだから、その時に話せば良いでしょ!バカなの!?」
「あはは!相変わらず麗華ちゃんはキツいな~!」
麗華のキツい当たりにも微動だにせず、陽介さんが楽しそうに笑う。
「笑い事じゃないわよ!!ほんとに......!
......ああ、貴方達お疲れ様。もう行って良いわよ」
麗華らしい対応に、内心苦笑いしながらも
「誕生日...おめでとう...」
と、お祝いの一言だけは言っておいた。
「先輩、おめでとうございまーす!」
優奈ちゃんは全く意に介さず、いつも通りの感じでお祝いを述べた。
麗華は軽く会釈した後、バタンと扉を閉めた。
「ひえ~、相変わらずだな麗華ちゃんも!
ごめんね、華菜ちゃん、優奈ちゃん」
陽介さんが申し訳無さそうに頭を下げる。
「いえ、そんな!
別に陽介さんのせいじゃないんですから...!」
私は慌てて言った。
「うん...まあ、そうではあるんだけど...なんとなく、ね」
陽介さんが、ちょっと気まずそうに、ポリポリと頭をかく。
「ぜんぜん大丈夫ですよ~!
いつもの麗華センパイって感じで、なんか良くないですか?」
優奈ちゃんが癒しオーラ全開でフォローする。
...ああ、この子は天使か何かか?
「...そうですよ!
さっ、気を取り直して、お屋敷ツアー再開しましょ!」
私は正直嫌な気分になっていたが、目一杯明るく言った。
「ありがとう...二人とも。
...よーっし!じゃ、今度は書斎に入ってみよう!」
陽介さんがいつものテンションに戻る。
「えっ...勝手に入って大丈夫なんですか?」
ちょっと心配だったので聞いてみた。
「ん~、まっ、叔父さん今、下で人と話してるし、大丈夫っしょ!」
あー、それはダメなヤツですね。
「ええ!?ほんとに良いんですかー?」
優奈ちゃんが驚く。
「うん!だって僕、この屋敷に来る時は、良く忍びこんでるからね!」
陽介さんが自慢気に胸を張る。
いや、そんな事、自慢されましても......
「よっし!じゃ、そうと決まれば早速行ってみよう!」
決まった覚えは全く無いが、こうなっては仕方ないだろう。
実は、結構興味もあるし......
再び陽介さんの後に続き、私達は書斎の方へ向かう。
北を上とすると、麗華の部屋が西棟の一番右上で、書斎は麗華の部屋の斜向かいにあった。
書斎の隣──つまり、麗華の部屋の向かい側は、麗華のお父さんの部屋らしい。
書斎の扉が開く。中は暗い。
陽介さんが入り口横に手を伸ばし、パチッという音と共に明かりがつく。
うわ~、本がいっぱい!
正面には窓があって遮光カーテンが閉められ、その前には机が置かれてある。
近くの壁には、1m位の折り畳み式の脚立も立て掛けられていた。
机の上には、客室で見かけたものよりも更に装飾などが立派な、大理石製の電気スタンドが置いてあった。
また、窓の上方も本棚になっていた。
ちらっと入り口を振り返ると、少しだけスペースを空けながらも、扉の左右と上方を本棚が囲っている。
影になっていて、暗くて見えづらいのだが、部屋の明かりのスイッチが扉に向かって左側に、向かって右側には扉の掛け金がくっついていた。
扉の前まで近づいてみる。
掛け金は回転式になっていて、円周上に横に倒すと、そのままロックされる仕組みになってるっぽい。
というか、だいぶ古くなって、緩くなっている様に見える。
まあ、普通に鍵が掛かる様になってる訳だし、その辺りの手入れはどうでも良かったのかも。
「凄いよね~。
叔父さんには内緒だけど、この部屋、僕のお気に入りなんだよね~。
しかもね、この部屋にはちょっとした秘密の仕掛けまであるんだ」
「秘密の仕掛け...ですか?」
なんだろう、気になるな......
「うん。叔父さんに悪いから、流石に詳しくは言えないんだけどね。
最初に見つけた時は、叔父さんも物好きなとこ、あるなぁって思ったよ」
陽介さんが楽しそうに笑う。
「へぇ、そうなんですね......」
まあ、なんとなく予想は出来るけど......
「ごめんね~。
じゃ、誰かに見つかってもまずいし、そろそろ次に行こっか」
「あっ...はい、そうですね」
マイペースな人だなあ。
...でも、確かに誰かと鉢合わせしたら、色々面倒そうだし、長居は無用か。
陽介さんが部屋から出て行ったので、私達もそれに続いた。




