因果応報
美月さんが持っていた手錠を優奈さんにかける。
「...これで満足?
...あはは!私に罪があるって言っても、殺人未遂だけ!すぐに出て来れるわよ!」
優奈さんが、ゲラゲラと笑う。
「あー、正確に言えば、私とお姉ちゃんに対する殺人未遂と、窃盗も複数回。
それと美月さんはああ言ってますけど、さっきだいぶ暴れてましたから、あれで美月さんの体に痣でもついていたら公務執行妨害致傷罪もついて、短くても12年...長ければ15年以上って感じじゃないですかね」
と、私は訂正した。
「......っ!!
...ほんっとに、ムカつくわねアンタ!
刑務所から出たら真っ先に...」
そう言いかけて、優奈さんの表情が凍りつく。
その視線の先を辿ると、お姉ちゃんから殺気がだだ漏れになっていた。
あー、久し振りに見たな、こんなお姉ちゃん...
「......もしも華凛ちゃんに指一本でも触れたら、先程以上の、想像出来ない位の苦痛を与えて、貴方を後悔させますから...覚悟...して下さいね...?
ふふっ、私、人体には"人一倍"詳しいので...」
人の笑顔がこれ程までに怖い事があるだろうか。
「ひっ...ひぃ...ごっ、ごめんなさい!ごめんさい!!」
優奈さんの場合、口から出任せの事が多いだろうが、失禁する位、役者という訳でもないだろう。
優奈さんは奥歯が噛み合わず、ずっとガタガタと震えていた。
「お姉ちゃん、大丈夫...?」
私が心配するのも変な話だけど、テレパシーでお姉ちゃんに聞いてみた。
「うん、半分冗談だから大丈夫だよ!
何か起こる前に、華凛ちゃんは私が守るから!」
お姉ちゃんの目がやる気に満ちてキラキラしている。
...やっぱ、半分は本気だったんだ......
心配して貰えて嬉しい様な、ちょっと怖い様な、若干複雑な心境だった。
テレパシーの内容が聞こえる訳ではないが、内容を察したのか、美月さんが楽しそうに笑いを堪えていた。
その後、起きた事を忠徳さんに報告し、日神美家の協力で、優奈さんは警察が来るまでの間軟禁する事になった。
重たいベッドの支柱部分に手錠をかけ、トイレはオムツにしてもらう予定らしい。
自分と仕事上交流がある人の娘の犯行という事で、忠徳さんは若干ショックを受けてはいたものの、すぐに持ち直した。
優奈さんが軟禁された経緯は、翌日、忠徳さんから報告され、何も聞かされていなかった、碓氷さん、陽介さんの二人は、最初少なからず驚いている様子だったが、すぐに腑に落ちた表情になった。
「信じられない話かもしれないんだけどさ......僕、優奈ちゃんに殺される夢、見ちゃったんだよね...
それが妙に生々しくてさ。
感覚までちょっとあった位で、気持ち悪かったんだ。
...だからって訳じゃないけど、優奈ちゃんが殺人未遂っていうのも、なんか納得出来ちゃったっていうか」
陽介さんが、苦笑しながら語る。
「...実は私も...なんです。
色んな方々が殺害され、私が検死して、最後には、就寝中に優奈さんに刺されました」
表情を暗くしながら、碓氷さんが陽介さんに同調した。
そんな中、麗華さんだけは、信じられないという表情で愕然としていた。
「えっ、それどういうこと?
優奈がやったって......
だって、私は......!」
何か言いかけつつ、麗華さんはチラッと華菜さんを見て、そのまま押し黙った。
恐らく、麗華さんも同じ様な夢を見ていて、"華菜さんに殺された"と、言おうとしたのかもしれない。
一昨日の夕食、昨日の朝食と夕食の計3回とも、碓氷さんの事ばかりで、華菜さんの方は全く気にも留めていなかった麗華さんが、今日は朝食の席に着くなり、やたらと気にしている様な素振りがあった。
他の二人も昨日までは普通だったし、多分、夢を見るタイミングがそれぞれ違うのだろう。
因みに、神守さんと光織さんは昨日の時点で、優奈さんに刺された夢を見たと言っていた。
何とも不思議な話ではあるが、そのお陰で事がスムーズに運び、事件も未然に防げたのだから、怪奇現象に感謝しなければいけないだろう。
...しかし、夢の中の優奈さんは、全員を殺害した後、どうするつもりだったのだろう?
殺害方法からして接触痕跡は残るだろうし、誰とも一致しない8人目のDNA の存在は隠しようがないから、仮に道が開通したタイミングで、この山奥から逃げれたとしても、麗華さんに身近なパーティーの参加者という事で、真っ先に疑われる気がするが......
...まっ、その辺りはノープランだったか、捕まる前に海外にでも行くつもりだったのかな。優奈さんの事だし。
食事を楽しみながら、私は一人で納得した。




