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密室殺人に対する考察  作者: 守屋亭 混沌
第二部:解決編
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死線の境

扉が、音もなく開く。


月明かりだけの薄暗い部屋に、人影が忍びこみ、ベッドの方へ一歩...そしてまた一歩と、少しずつ歩を進める。


暗いから見えにくいけど、美しく長い髪は確かにアイツの髪だ...と、彼女は思ったのかもしれない。


夕食時、包丁が一丁無くなっていたと、光織さんから聞いていた。


その包丁を彼女は懐から取り出し、両手で逆手に振り上げた。

窓からの明かりが、ほんの少し刃に反射する。


...そして興奮を抑えきれず、彼女は包丁をベッドに向かって思いっきり突き刺した。


赤い液が布団から漏れ出し、それが彼女の快感となって、更に何度も何度もベッドを突き刺す。


肉に突き刺さる触感、溢れる赤。


...だけど...何かがおかしい。

声一つあげないなんて、そんなこと...


それに骨に当たる感触も全くない......?


彼女は布団を捲り、そしてその瞬間───


パッと、電気の明かりが部屋を照らした。


「......っ!!」


優奈さんは、驚きで少し硬直する。


「いや~、ここまで私の計算通りに事が運ぶなんて思いませんでしたよ。

...ふふ、分かりやすい人なんですね、優奈さんって」


私はクローゼットから出て微笑みながら言った。


それを合図に、お姉ちゃんと美月さんが風呂場から出て来た。


「...か、華凛ちゃん...?これって 

どういう事かなぁ?」


優奈さんの顔がひきつる。


「あれー、分かりませんでした?

優奈さんが楽しく夢を見られる様に、お膳立てをしてあげたのに...

優奈さんって意外と抜けてるんですね」


私は笑いながら言った。


朝食の後、お姉ちゃんと再びチェスで対局し、昨日以上に大敗を喫した優奈さんは、お互いの健闘を称えるハグだとか言って、お姉ちゃんに抱きついたのだが、その際お姉ちゃんがポケットに入れていたカードキーが、案の定失くなっていた。


「それなのに意外と手癖が悪いんだから、ビックリしちゃいますよね。


その袖口の辺りが緩めの服装も、スリをしやすくする為なんですか?

...もしかして、昨日のパーティーでも何か盗んでたりして」


優奈さんの瞳孔が一瞬拡大した後に縮小した。

図星だったか。

それに常習犯っぽいな。


そういえば、一時期何処かの大学で、盗難騒ぎが続いたとニュースで流れていた気がする。


「...さ、さあ?なんの事か分からないなー。

...っていうかさ、随分と悪趣味なんじゃない?こんな悪ふざけするなんて、ベッドが汚れちゃったじゃない」


こういう時のブロック肉とケチャップは、意外と効果覿面だなと思う。

お肉は後で私が美味しくいただくけどね。じゅるり。


「悪趣味も何も、優奈さんがそんな事しなかったら、あんなに汚れずに済みましたよね。

っていうか、ここってお姉ちゃんの部屋ですし、あれってどう考えても、お姉ちゃんが寝てる様にしか見えなかった様な......?」


因みに、髪は光織さんのウィッグを貸して貰い、それらしく見せた。なんで持って来てたのか、詳しい事は聞いてないけど。


「き、気のせいでしょ~。

私に華澄ちゃんを殺す気なんかないもん」


典型的なサイコパスらしい取り繕い方だなと思う。


「そうですか......

なんていうのは冗談で、優奈さんがわざわざ包丁を持って入って来た時点で、それは未必の故意ですし、包丁をああして突き刺した瞬間に、殺人未遂の現行犯...なんですけどね。


気付いて無かったかもしれませんけど、ほら、美月さんって刑事ですから...」


私がそう言うと


「やっほー、刑事でーす!」


と、美月さんが警察手帳片手に元気良く手を振り、優奈さんの顔が青ざめた。


「こっ...これは違うの華凛ちゃん!

私の意志とは無関係に、体が勝手に...!」


「ええ、分かりますよ。

多分、人を殺す夢を見たんですよね?」


「えっ?...ど、どうして......?」


「そんな事、どうして知っているのか...ですか?

ですから、先程も言ったでしょう。

貴方の事は手に取る様に分かるんです。

気持ち良かったし、楽しかったんですよね。

人の命を弄んで、壊す事が。

退屈な時間や、空虚だった自分を埋められる事が。

手癖が悪いのも、その一環でしょう?


でも、それが夢だと思ったら、物足りなくなった。

まるで、シリアルキラーの妄想みたいにね。

そして何より、自分を負かして恥をかかされたのが我慢出来なかった...


ふふっ、だって貴方は、自分がその場を影でコントロールする感覚が、自分の誇りであり、アイデンティティの様にさえ感じていたから。

...ですが、これで分かったでしょう?貴方は別に、大した事ないんだって」


私が急所を突くと、優奈さんが口を鳴らし、みるみる顔が険しくなった。


「うるせぇ...うるせぇんだよ!このクソガキが!!」


包丁を持った優奈さんが私に襲いかかる。


...が、お姉ちゃんのサイドキックが、もろに優奈さんの脇腹にヒットし、優奈さんが悶絶しながら包丁を落とす。


「...ゴホッ!ゴホッ!

...畜生っ!!ふざけやがって!!」


そう言って、痛みに喘ぎながらなお、優奈さんが今度はお姉ちゃんに掴みかかろうとした。


...と、その瞬間、美月さんが横から飛び出し、襲い掛かる優奈さんの勢いを利用し、払い腰で豪快に投げ飛ばす。


投げ飛ばされた勢いが強く、そのまま俯せに倒れた優奈さんの右腕を掴んだまま、美月さんは枕袈裟固めに移行した。


地面に叩きつけられた衝撃で、暫く動けなかった優奈さんが、固め技から逃れようと必死に暴れる。


「クソが!!離せ!!離せよ!!」


「ん~、優奈ちゃんさ、これ以上暴れると、公務執行妨害になっちゃうよ?」


美月さんがそう言うと、優奈さんが途端に静かになった。


「畜生...!畜生...!!」


優奈さんが延々と、悔しさを吐き出し続けていた。


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