一触即発
「おお、お疲れー!
今のとこ、何の動きもないよ」
私達が予備室に入ると、美月さんが報告してくれた。
光織さんから少しだけ話は聞いていたのだが、デジタル機器が殆んど無い、このお屋敷の中で、予備室は異質な部屋という印象を受ける。
少し伽藍とした部屋に、パソコンやカードキーを発行する機械などが、一ヶ所にまとめて置かれている。
部屋の隅には一応ベッドもあり、埃もたっていない所を見ると、誰も使っていなくても、しっかり手入れしているという事なのだろう。
「お疲れ様です、美月さん。
今日は運転とかで疲れてるんじゃないですか?
私とお姉ちゃんで見張っておきますから、美月さんは、良かったら向こうのベッドで寝ていて下さい。
動きがあったら知らせますから」
張り込みには慣れてるだろうけど、今日は動きっぱなしだったし、美月さんには少しでも休んで欲しかった。
「ありがとう、華凛ちゃん。
じゃあ、ちょっとお言葉に甘えようかな!」
そう言って美月さんはベッドに飛び込み、1分も経たない内にいびきをかき始めた。
早っ!!
...でも、良かった。
「ふふ、なんかワクワクするね!こういうの!」
お姉ちゃんがニコニコしながら言う。
「うん、そうだね。
...あっ、ところでお姉ちゃん、忠徳さんが今、書斎と寝室のどっちに居るか分かる?」
「さっき予備室に入る前に鍵穴から能力を使ってみたんだけど、書斎に人がいたから、あれが多分忠徳さんじゃないかな。
四方が本に囲まれてて、部屋の真ん中に大きな机と椅子があるみたいなんだけど、その椅子に座ってる...と思う」
能力というのは、お姉ちゃんが持っている死体や物体など、生物以外に対して使用する事で、現代の法医学や科学捜査で得られる知見をイメージとして見る事が出来るというものである。
今回の場合だったら、多分レーザードップラー振動計を使用した時に分かる事が分かったんじゃないかと思われる。
鍵穴からレーザーを拡散させて、反射データを使って声や部屋の構造を分析するという感じだ。
ほんと凄い時代だなと思う。
その後暫くして、私も うとうとしかけた時に、扉の外で物音がした。
一瞬で目が覚め、お姉ちゃんの方を確認すると、お姉ちゃんが頷く。
やっぱり来たか......
書斎の扉が閉まった事を確認し、廊下に出て、お姉ちゃんの能力で室内の会話を聴いて貰う。
どうやら鍵は掛けていない様だ。
その間に、悪いなと思いつつも、私は美月さんを起こしに行った。
「美月さん、起してすみません。
来ました」
「ん...?
…おお、了解!」
美月さんが飛び起きて、素早く体勢を整える。
...刑事って凄いな......
「今、お姉ちゃんが、書斎の中の状況を監視してます」
「えっ、そんな事も出来ちゃうの?
さっすが華澄ちゃん!」
能力は基本的に、お姉ちゃんを中心とした半径3m以内でしか使用出来ないのだが、科学捜査で用いる器具で出来る事は大体出来る。
"大体"というのは、生きている人や動物、そしてその人が身に付けている物に対しては使用出来ないので、例えば生きている人が着ている服の繊維を調べる事は、その人が服を脱がない限りは出来ない。
今回の場合だったら、レーザードップラー振動計で出来る事は大体出来るものの、直接人に対しては使えない。
しかし、そもそも物に反射したデータから、声や部屋の構造を割り出す訳だから、忠徳さん(と思われる人)が、部屋の中に居るかどうかは分かったという訳だ。
「踏み込むタイミングが来たら、お姉ちゃんが合図します」
「おっけ~」
~~~~書斎内の会話~~~~
「...今更、どういうつもりなんですか…?
...父が...自殺した後、色々援助して下さった事には感謝してます。
でも、そもそも父がああなったのは...!」
「その事については...申し訳なく思っている。
...ただ、企業を預かる身として、私情を挟んで判断を鈍らせる訳にはいかなかった」
「...でも...でもそんなのって、あまりに身勝手過ぎませんか!?
どうしてもっと早く、父が死ぬ前に助けてくれなかったんですか!?
貴方が私を父に押しつけたのに!」
「許してくれなどと言うつもりはないが、私の出来る限りの事で、これからも償わせてもらいたい」
「...それで...そんな事で...私をここに呼んだんですか...?
...ふざけないでよ!!
私がどれだけ惨めな思いをしたと思ってるの!?」
~~~~
結構な剣幕で怒っているのか、廊下に居ると、断片的にだが、私にも聞こえた。
お姉ちゃんが私に合図を送る。
私達は書斎に突入した。




