ルーレットでは決まらない
遊戯室に戻ると、既にチェスの試合が終わっていた。
...が、どうも様子がおかしい。
碓氷さんは驚きのあまり口が開きっぱなしになってしまっているし、優奈さんに至っては、これまで見た事のない険しい表情をしていた。
...予想はしていたが、やっぱりお姉ちゃんの圧勝だったのだろう。
「...やっ、やだなぁ、華澄ちゃん。
初心者のふりしちゃって...
私、油断しちゃった...」
優奈さんの笑みがひきつる。
「ねえ、今度は最初から本気出すからさ、もう一局だけやらない?」
「どっ、どうしよう華凛ちゃん...!」
お姉ちゃんが少し焦りながら、テレパシーで聞いてきた。
「うーん、ここで断ると何言われるか分かんないし、やった方が良いんじゃない?
あっ、でも今からお姉ちゃんに手伝って欲しい事があるから、時間が掛かる様だったら止めた方が...」
「ううん、優奈さんって長考しないタイプの人みたいだし、私もなんとなく分かって来たから、次はもっと早く終わると思う」
...初心者のお姉ちゃんが、一局でなんとなく分かった...?
「へ...へぇ...じゃあ、大丈夫じゃないかな!
私見てるから、思い切りやっちゃいなよ!」
私の一言で、お姉ちゃんが俄然やる気を出す。
「えっ!見ててくれるの、華凛ちゃん!?
よーっし!格好良いとこ見せるぞー!」
...あっ、これはマズかったかも......
美月さんに鍵を渡して、先に予備室に行ってもらう事にし、私はルール位しか知らないチェスを碓氷さんと一緒にじっと眺める。
碓氷さんは真剣そのものだった。
...さっき私が光織さんと喋っていた時間の半分以下の長さで決着がついた。
結果は...当然というかなんといか、お姉ちゃんの勝ちだった。
碓氷さんが尊敬の眼差しでお姉ちゃんを見つめている。
優奈さんは俯きながら、何事かぶつぶつ言ってるな...と思ったら
「あっ...ありがとう華澄ちゃん...!
すっごく勉強になったよ~!
まさかこんなチェスの達人に会えるなんて思わなかったな~!」
顔がひきつり、声が若干震え上ずっていた。
予想通り、これが優奈さんの本性だろう。
「こちらこそ、ありがとうございました。
チェスって凄く面白いんですね。
機会があれば、また対局よろしくお願いします」
お姉ちゃんが、礼儀正しくお辞儀をし席を立つ。
「本当に凄かったです!素晴らしい対局が見れて感動しました!」
碓氷さんが興奮している。
「ふふっ、ありがとうございます」
お姉ちゃんが笑顔で会釈する。
私達が遊戯室を出ると、碓氷さんも嬉しそうな顔で遊戯室を出た。
もしかしたら、さっきの対局を部屋で思い返すつもりなのかもしれない。
ドンッ!!
遊戯室の中から物凄い音がしたが、何があったかは想像に難くない。
私とお姉ちゃんは、美月さんの待つ予備室へと向かった。




