約束の時刻
私達が遊戯室に入ると、優奈さんと碓氷さんがチェスを始めていた。
「あっ、来てくれてありがとー!
すぐ終わらせるから、ちょっと待っててね!」
私達に気付いた優奈さんが、楽しそうに手を振りながらそう言う。
その挑発とも言える一言で、碓氷さんの闘志に更に火がついた様だった。
私達は、軽く優奈さん達に会釈しながら、別のテーブル席に座った。
中央にビリヤード台がある他、古今東西の様々なボードゲームが置いてある...!
ワクワクするなぁ♪
「華凛ちゃん達はビリヤードとか出来ないよね?」
美月さんが聞いてきた。
「そうですね、全然やった事ないです」
私が答える。
「私も...」
お姉ちゃんも答えた。
「そっか...教えてあげるのも良いけど、このプロのハスラー美月さんが少し本気を出すと、二人を絶望させちゃうかもしれないからな~」
...いつ転職したんだろう。
大体、"ハスラー"って、実力を隠して、賭けビリヤードで金銭を巻き上げる詐欺師っぽい人の事じゃなかったっけ?
多分、美月さんも詳しくは知らないんだろうなと思ったので
「美月さん!ボードゲームでRPGでもやりませんか?」
と提案してみる。
そう!こう言っておけば、あそこに見えている、あのRPGの元祖を皆でプレイでき...
「RPG...?...おお!人生を生きるあのゲームね!」
確かにそれもRPGではあるけどっ!!
私は綺麗にズッコケそうになった。
結局、優奈さんと碓氷さんの対局が終わるまで、ルーレットを回して、億万長者を目指す事になった。
...と言っても、結果はお姉ちゃんの圧勝で、私と美月さんは醜い最下位争いをする事になったのだが。
結局美月さんが最下位だった。
「ゲームの中でも貧乏、か...ふっ...」
美月さんがニヒルに笑う。
格好つけてはいるが、ちょっと涙目だった。
...まぁ、これはこれで楽しかった...かも。
こちらのゲームが終わると同時に、どうやらあちらも決着がついた様で、笑顔の優奈さんと凹んだ表情の碓氷さんという、なんとも対照的な図になっていた。
碓氷さんが席を立つ。
...落ち込んで帰るのかな...?
...と思っていたら、近くの席に座り直した。
...観戦するんかい!
でも、本当に好きなんだな、チェス。
「よろしくお願いします!」
と、緊張した声で言いつつ、お姉ちゃんが席につく。
「よろしく!
ふふふ、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ、華澄ちゃん!」
優奈さんが楽しそうに目を細める。
...と、そのタイミングで光織さんも遊戯室にやって来た。
「ごめーん、待ったー?」
「いえ全然!むしろグッドタイミングです!」
なんかドラマとかでたまに見る、デートのやり取りみたいだな。
美月さんが席を外すか目で聞いて来たので、美月さんにも立ち会って欲しいという事を目で知らせた。
「それでそれで?どんな話が聞きたいの?」
「今日って、麗華さんのお誕生日パーティーだったんですよね?」
「うん、そうだよ!各界の色んな有名人が来ててね~!ああ、ほんとサイン貰っとくんだったなぁ。
...あっ!そういえば、まだ陽介さんにサイン見せて貰ってないや!」
どんどん話してくれるので、こちらとしては有り難い。
「そうだったんですね...
ところで、麗華さんのご友人は、あちらの優奈さんと碓氷さん、あと華菜さんですよね。
...でも、こう言ったらなんですけど、食事中も全然話してなかったっていうか、えっと...溝みたいなのを感じたんですよ。
どうして麗華さんは、ご友人を泊まりがけで呼ばれたりしたんですか?」
「あー、それは...」
何か言いかけて、光織さんが少し言い澱む。
優奈さんや碓氷さんがいる手前、言えないという事か、それとも......
「...ここじゃ、なんだし、隣に応接室があるから、そっちで話さない?」
と、光織さんが私に提案した。
「お姉ちゃん、ちょっと席外しても大丈夫?」
私はテレパシーでお姉ちゃんに聞いた。
「うん、大丈夫だよ。
結構気になること多いもんね」
流石にお姉ちゃんも気付いてたか。
「うん、じゃあ、ちょっと行ってくるね」
テレパシーを終え、私は
「こっちの...美月さんも一緒で大丈夫ですか?」
と、念の為、光織さんに聞いといた。
「そっちの綺麗なお姉さんの事?
...うん、もちろん!
っていうか、モデルさんか何か?」
今の所、忠徳さんと神守さん以外には、美月さんが刑事だと知ってる人はいない。
「あっ...やっぱ、分かっちゃいます?
これは参った...スターのオーラ、出ちゃってたかな~?」
誰もそこまで言ってない気がするけど、今刑事だと分かると動きづらくなるかもしれないし、まあ、そういう事にしておこう。
「...あっ、後で、サイン下さい!」
光織さんが目を輝かせる。
えっ...?
「もちろん構いませんよ。
ファンの期待に応えるのもスターの義務...ですからね」
美月さんがキメ顔でそう言うと、光織さんが頬を赤らめた。
......。




