近づく影
歩いて、10分もしない内に、分かれ道に辿り着く。
ここまで全く車とすれ違わなかった。
普段交通量が殆んどない様な道で、さっきはあんなに車とすれ違ったって事は、多分屋敷でパーティーか何かやっていて、大雨で早めに切り上げた...みたいな感じだろうか。
「美月さーん、こっちの道です」
私は美月さんに呼び掛けた。
「おおっ!なんか雰囲気あるね~!
今からミステリーの舞台に行く...みたいな?」
縁起でもない事言わないで下さいよ...
......まあ、確かにそんな感じするけど。
私達は屋敷に向かってどんどん歩いて行く。
最初に地図で確認した限りでは、此処から目的地までは、徒歩で20分程だろうか。
道中、結構急な崖があり、土砂崩れでも起こしそうでヒヤヒヤする。
と───
ゴゴゴゴ...!!
ん...?この音...
それに、この生臭い臭いって...もしかして!
お姉ちゃんも事態を察知したらしく、私と視線が合う。
「美月さん、取りあえず全力で走って下さい!!」
私は久し振りに叫んだ。
「えっ?...お、おう!かけっこだったら負けないぜ!!」
謎の闘志に火がついたのか、雨道で傘をさしているにも関わらず、物凄い速さで美月さんが走る。
本当だったら、それ以上に速い筈のお姉ちゃんは、私の速度に合わせている。
ゴォォォォォ!!
物凄い音が背後から聞こえた。
私達はとにかく走り続ける。
美月さんは夢中になって走っていて気付かない。
...音が止んだ......
「華凛ちゃーん、ゴールはどこー?」
100m位先で美月さんが叫ぶ。
「もう大丈夫でーす!」
私も叫んだ。
「おお、それじゃ私の勝ちって事で...って、うわ、なんじゃこりゃあ!!」
背後を見ると、これまた100m先の道路が土砂で完全に埋もれていた。
...あっ、危なかった......!
というより、正直運が良かった。
土砂崩れの前兆が幾ら分かっていても、何処で起こるかまでは分からないからだ。
ふぅ~、九死に一生を得るとはこの事だろう。
お姉ちゃんも、ホッとした表情をしている。
「あそこで走ってなかったら......ひぇぇ...!」
美月さんが身震いする。
「ありがとう、二人とも!お陰で助かったよ!」
美月さんが笑顔で言ったので、私達も思わず笑顔になった。
...それにしても、これはもう今日はなんとか屋敷に泊めてもらうしかないか......
あそこで来た道を引き返すという手もあった筈だが、咄嗟の事だったからか、奥へと走ってしまった。
「屋敷まではもう少しだと思うので、用心しながら行きましょう」
「おう!」
美月さんと、そんな会話をしていると...
「どなたか、こちらへ走って来てるみたいです」
道の先を見つめながら、お姉ちゃんが呟く。
「えっ...?」
美月さんが振り向き、私もお姉ちゃんの視線の先を見つめる。
確かに、誰か走って来ている。
暗くて良く見えないが、体格的に男性か。
「こんばんはー!お屋敷の方ですかー?」
近付いて来た男性に、美月さんが大声で尋ねた。
「さっ、左様でございますが!
どっ、どなたかいらっしゃるのですか!?」
男性は驚きつつ息を弾ませながら、私達の近くへと来た。
格好は如何にも執事っていう感じに見える。
「どうも、私、こういうものです...」
と言って、美月さんが警察手帳を見せる。
「け、警察の方がどの様なご用件で...?」
突然の事で執事さんがビックリしている。
「あー、実は...事件の捜査でこちらの地域に来ていて、その帰りだったのですが...私の車がエンストしてしまいまして...
本当は連絡だけでも、と思っていたのですが、つい先程、道路があんな状態になって...」
そこで美月さんが、土砂崩れの現場に視線を移す。
それを見た執事さんは、"やっぱり"という様な表情で、土砂に埋もれた道路を見ていた。
さっきの音で予想は出来ていたという事だろう。
「それは...大変でございましたね......
私、日神美家に仕える神守篤仁と申します。
皆様の事は、旦那様に伺わなければなりませんが、客室も余っておりますし、旦那様でしたら間違いなく、復旧までの宿泊を許可なさるかと思います。
お屋敷へは私がご案内申し上げます」
ああ、不幸中の幸いとはこの事だろう。
...それにしても、日神美家、か......
ニュースで良く見かける、トップ企業のあの社長の事だろう。確か名前は、日神美忠徳...だったか。
まさか、そんな人の屋敷がこんな所にあるなんて...
いや、もしかして...
「神守さん、こちらのお屋敷って、日神美さんの別荘...ですか?」
と、神守さんに聞いてみる。
「はい、左様でございます」
神守さんが丁寧に答えてくれた。
感じの良い人だなと思う。
「もしかして、どなたかを祝うパーティーがあったのでは?」
神守さんが少し驚く。
「は、はい、左様でございます。
旦那様の一人娘である、麗華お嬢様の誕生日を祝う会だったのですが、生憎の雨で早めに終了致しました」
「そうだったんですか...それは残念でしたね...」
「ええ、本当に。
ご友人も泊まりで呼ばれたりなど、楽しみになさっておいででしたから、不憫でなりません」
神守さんの声のトーンが下がり、歩幅が若干短くなる。
麗華さんの事を大切に思っているのだろう。
それだけ、忠徳さんへの忠義が厚いという事でもあるんだろうけど。




