不安と密室
その後、3分経ったか経たない内に二人が戻って来た。
「マスターキーだったよ。
予備室の部屋の鍵が開いたし、叔父さんの寝室の鍵も掛かったから。
台の上に置かれてたのが、麗華ちゃんの部屋の鍵で、机の手前の方に落ちていたのがマスターキーみたい」
陽介さんが説明する。
「麗華さんの部屋の鍵は元に戻しておきますが、マスターキーはどうしますか?」
碓氷さんが全員に尋ねた。
「うーん、誰か使う事になったとしても、現場に特に証拠になりそうなものも残ってないし、予備室に入ったとしてもパスワードが分からないなら、カードキーを再発行して、誰かの部屋に入る...なんて事は出来ない訳だから、元通りの位置に戻しておいても大丈夫だと思うんだけど...
...あっ、使用人室は確か鍵で開くんだったか。
...なら、神守さんか光織ちゃんが管理するっていうのはどうかな?」
陽介さんの提案に誰も異論は無かった。
「それでは、私が管理させていただきます......」
碓氷さんから神守さんに鍵が手渡される。
神守さんも白い手袋をしていたので、指紋がつく心配はないだろう。
陽介さんが徐に、麗華の部屋の2つの窓を調べ始める。
「...やっぱり、どっちもしっかり鍵が掛かってる...
今回も密室かぁ...
犯人は密室に何か拘りでもあるのかな...?」
陽介さんが疑問を口にする。
「...もしかして、麗華先輩が自殺した...とか...?」
優奈ちゃんが恐る恐る言う。
「ん~、でもそれだったらさ、その...例えば農薬のボトルとか、毒薬が入っていたコップみたいなのが、部屋に無いのはおかしいんじゃないかな?
それに遺書とかも残しそうなものなのに、そんな物すら何処にも見当たらないし...」
陽介さんが優奈ちゃんの疑念を払拭する。
「...じゃ、じゃあ...やっぱり密室に変な拘りがある異常者が犯人って事ですか!?
そ、それじゃあ、次に誰が狙われてもおかしくないんじゃ......!」
今までずっと、青白い顔をして黙り込んでいた星井さんが、パニックになる。
そうだ、どう考えても最初の事件から異常だった。
一体誰がこんな事を......?
「...お、落ち着いてよ、光織ちゃん...!
まだ、そうと決まった訳じゃ無いし、しっかり戸締まりしておけば、犯人だって、そうそう手出し出来ないよ」
陽介さんが、相手を落ち着かせる様なトーンで話し、パニックになった星井さんが、少しずつ落ち着きを取り戻す。
今の話は、現在マスターキーにより、使用人室を自由に開ける事が出来る神守さんが"犯人でなければ"という前提条件が必要なのだが、口では色々言っていても、神守さんに対する星井さんの信頼が、それ位厚いという事なのかもしれない。
その後、他に見るべき所もないし、麗華にも悪いという事で、私達は早めに麗華の部屋を出た。
朝食をまだ食べてないけど、どれ位の人が食堂に行くのだろう。
「優奈ちゃんは朝食どうする?」
試しに優奈ちゃんに聞いてみた。
「どうするって...ああ、神守さん達が犯人だったらーみたいな事ですか?
んー、そんなの気にしてたら、ご飯美味しく食べれないですよ!
麗華先輩の分まで、私達が食事を楽しまなきゃ!」
...これは優奈ちゃんなりの、弔い方...なのか?
...まあ、でも思った以上に元気そうで良かった。
昨日みたいに無理させてたらと思うと、少し心が痛むから。
私も安心して食堂へと向かった。
...結局食堂には被害者以外の全員が集まって食事をした。
それぞれ思う所は色々あったのかもしれないが、私には知る由もない。
流石にあんな事件があった後だからか、特に会話が弾む事もなく、皆淡々と朝食を終える。
夕食は今日も19時からという事で、もう主人のいないこの屋敷で、忠実に職務を全うしようとする神守さん達には、頭が下がる思いだった。
...が、同時に、誰が犯人か分からない現状では、互いに良く知っている者同士で家事全般を回した方が、安全だという判断でもあるのだろうなとも感じた。
私は自室に戻り、鍵がちゃんと掛かっているか、しっかりと確かめる。
正体不明の不安に押し潰されそうになりながらも、ベッドの上で横になり目を閉じている内に、私は浅い眠りについていた......




