疑問だけが残った
遅めの朝食も終わり、各々思い思いの時間を過ごす。
...とは言っても、殆んどの人が客室にこもった。
犯人を見つけるのに積極的な陽介さんも、他に手掛かりも無いので動けずにいるみたいだった。
私はといえば、寝不足に加え、朝から異常な事があったせいで、思った以上に神経が磨り減っていたのか、仮眠のつもりが夕方過ぎまで寝てしまっていた。
そろそろ夕食の時間か......
寝てただけなのに、お腹だけは空いていた。
陽介さんじゃないけど、早めに行って、料理の匂いでも嗅いで期待を高めてよう...
そう思い部屋を出ると、ちょうど優奈ちゃんも部屋から出て来た。
「あっ、先輩!」
優奈ちゃんは相変わらずだ。
「こんな時なのに、なんかお腹が空いちゃって、早めに食堂に行こうかなって...
優奈ちゃんは?」
「ん~、私はそれなりって感じなんですけど、何もする事が無いからヒマでヒマで......
だーれも、ゲームに付き合ってくれないし、しょうがないから、スマホでずっとゲームしてましたよ~。
それで、それにも飽きちゃったから、食堂に行って誰かと話してようかなーって。
だから、華菜先輩と会えて嬉しいです!」
優奈ちゃんが屈託の無い笑顔を見せる。
おお、天使か、この子は......
なんか癒される~。
私と優奈ちゃんは、事件の事には触れず、互いにとりとめのないお喋りをしながら、食堂の方へ向かう。
...と、料理を持って西棟の階段を上がろうとする、神守さんの姿が見えた。
「それー、先輩の料理ですかー?」
優奈ちゃんが少し声を張り上げ質問する。
その声に気付き、神守さんがこちらを振り向く。
「はい、左様でございます」
私達は神守さんの近くまで来た。
「その後どうですか、麗華先輩の様子はー?」
「時間が経って、少し気持ちも落ち着いて来たようです。
...ただ、ショックが大き過ぎた為、今日は眠れそうにないからと、睡眠薬をご所望になりました」
見ると、料理を載せたトレイの上に、睡眠薬入りの瓶が置いてあった。
「そうだったんですか...
実は私もちょっと気持ちが高ぶっちゃってるみたいで...
ゲームしてても気持ちがソワソワしちゃうんです...」
いつもマイペースに見えていた優奈ちゃんだけど、やっぱり本当は不安だったんだな。
それでも周りに心配かけまいとして、気を張っていたのかもしれない。
「だから...その、良ければ、私にも薬、分けてもらえませんか...?」
「それは勿論でございます。
こちらはお嬢様に持っていく分ですので、他に必要な方がいらっしゃるかもしれませんし、夕食の後にでも、お持ち致します」
「ありがとうございます...」
優奈ちゃんがペコリとお辞儀をすると、神守さんも一礼し、二階へと上がって行った。
「大丈夫、優奈ちゃん?
気付かなくてごめんね」
優奈ちゃんに無理をさせてしまって、申し訳ない気持ちで一杯だった。
「そんな!良いんですよ、先輩は気にしなくて!
...何て言うんだろう、こんな感じで話してないと、私自身、何かにつぶされちゃいそうなんです...
...だから、何も気にしないで、今は夕食の事だけ考えてましょ?」
優奈ちゃんが、いつもの雰囲気に戻る。
「...うん、分かった。
ありがとう優奈ちゃん」
優奈ちゃんは、「えへへ」とはにかんだ。
夕食は静かだったが、特に何の問題もなく終わり、神守さんが、必要とする人へ睡眠薬を次々と渡していった。
結局、陽介さん以外の全員が貰っていた。
自分の部屋へ戻る途中、不思議そうな顔で陽介さんが話しかけて来た。
「ねえ、華菜ちゃん。
今日、書斎に行った時に掛け金下ろしたりした?」
…?
「いえ…また、下ろされてたんですか…?」
「うん...何か見落としてる事はないかなって、実は昼間にもう一回書斎に入ろうとしたんだけど、扉が開かなくてさ。
僕の腕だと斧で空けた穴に入らないし、しょうがないから、寝室から書斎に行ったんだよ。
それで、扉の前まで行って確認したら、掛け金が下ろされてたってわけ。
取りあえず、また元に戻しておいたけどね」
...どういう事なんだろう...?
「犯人がまたやった...とか...?」
「そうだよね~、他に誰もそんな事しそうにないし......」
底はかとなく、薄気味悪さを感じる。
「...ああ、ごめんね、変な話で怖がらせちゃって...」
陽介さんが申し訳なさそうに言った。
「いえ、全然大丈夫です!
...おやすみなさい」
「おやすみ~」
陽介さんと手を振って別れる。
...ほんと、訳が分からない事だらけだな。
昨日よりは雨脚の弱まった外の景色を眺めながら、窓の前で私は物思いに耽った。




