苦痛に沈む
「私が...私が悪いって言うの!?
ふざけた事言ってんじゃないわよ!」
「う~ん、誰もそんな事言ってないようなー?」
いつもの優奈ちゃんの雰囲気が、更に麗華の神経を逆撫でする。
「はぁ!?言ってるも同然じゃないの!!
大体、貴方なんなのよ!
横から出てきて、蒼夜さんと......!」
流石にその先を口に出すのはプライドが許せなかったのか、麗華が少し口ごもる。
「碓氷さん...?
どうしてそこで碓氷さんが出て来るんですか?
私達、チェスをしてただけなんですけどー」
こんな状況でも、優奈ちゃんのペースは全く崩れない。
その事が、更に麗華を苛立たせた。
「はっ、それはどうだか!
意気投合して、二人で口裏を合わせてるだけかもしれないじゃない!」
そう言った瞬間、麗華もまずいと思ったのか、碓氷さんの表情を少し伺う。
...が、別の事を考えているのか、碓氷さんは気にもとめていない様子だった。
「...と、とにかく!
私、貴方達の事なんて、もう信用できないから!
道が復旧するまで自室にいる事にするわ!
…神守!食事は私の部屋まで運んでちょうだい!!」
「...畏まりました、お嬢様」
神守さんが一礼し、そう言ったが、その表情は何処か悲しそうだった。
「ちょっと待って下さいよ~、先輩~!」
優奈ちゃんが麗華に追い縋る。
「...!離しなさいよ!!」
怒鳴ると同時に、麗華が優奈ちゃんを突き飛ばす。
優奈ちゃんが倒れそうな所を、偶々そこにいた碓氷さんが支える。
「~~~ッッッ!!
気安く私に触らないでよ!!」
金切り声をあげながら、麗華が壊れた書斎の扉を無意識に思いっきり閉めた。
書斎を重苦しい沈黙が支配する。
「...そうだ、碓氷君。
死因は...分かるかな?」
最初に沈黙を破ったのは陽介さんだった。
「...え、ええ。
瞼などに溢血点が多く出ている事。
首に索状痕が見られる事。
そして、赤黒くなった顔に少し突き出た舌...
以上の事から、何か細い物で首を絞められた事による、窒息死の可能性が極めて高いでしょう。
また、後頭部に出血の痕が見られますが、出血量がやや多い...つまり亡くなる前に負った可能性が高い。
恐らく鈍器で殴られた後、首を絞められたのではないでしょうか」
凄いな...そんな事まで分かっちゃうんだ。
「なるほど...」
そう言って、陽介さんは改めて周囲を観察し、机の上の電気スタンドに注目する。
「もしかして...これ...かな?」
スタンドには触れないようにしつつ、陽介さんが細かい部分をじっくり調べ始めた。
「あっ...これ、血痕じゃないかな?」
陽介さんの言葉に、机の周りに皆集まった。
「ん~?...ほんとだ!血ですよ、これ!」
優奈ちゃんがはしゃぐ。
まだこの場に麗華が居たら、さっき以上の修羅場になったに違いない。
「叔父さんの遺体の位置から見ると、血痕はスタンドの裏側についてるし、殴られた時にこの位置に飛び散ったとは考えにくいと思うんだ。
...それに...ほら、ちょっと拭き取った様な痕もある。
犯人はこれで叔父さんを殴った後、多分、スタンドの電気ケーブルで叔父さんの首を絞めた...んじゃないかな」
「すごーい!陽介さん、なんか探偵みたいですね~!ぼーっとしてるだけかと思いましたー!」
一言余計な気がするが、私も同感だった。
「あはは!ありがとう!
...と言っても、凶器の可能性が高い物が分かっただけ...だけどね」
陽介さんが少し照れ臭そうに、ポリポリと頭をかいた。
それでも十分な成果な気がするけどな...
そんな事を思いながら、異様な状況のこの書斎から、私は一刻も早く立ち去りたいと感じていた。




