何処へ行ったのか?
はぁ...結局あんまり眠れなかった...
7時15分にセットしておいた、スマホのタイマーを手で止める
やっぱり神経が高ぶっていたのだろう。
きっと、目の下にはクマが出来ているに違いない。
ベッドから起きて伸びをした後、私は洗面所で顔を洗う。
...思ったほど、酷い顔じゃ無くて安心した。
チラッと横の扉を見る。
昨晩、寝る前に風呂も利用したんだけど、家のよりも大きくてビックリした。
そんな事を思い出しつつ、私は部屋を出て食堂へと向かった。
食堂には...やはり既に陽介さんが居た。
...が、少しだけ顔色が悪いというか元気がない。
...今から朝食だっていうのに、一体どうしたんだろう?
「おはようございます、陽介さん!」
私は明るく言うと、陽介さんの体が一瞬ビクッとなり
「...あ、ああ、華菜ちゃん...おはよう......」
と、少し動揺しながら挨拶した。
やっぱり…何かあったのかな?
「どうかしたんですか?
なんか顔色が悪いみたいですし、元気もないみたいですけど...もしかして陽介さんも昨日、あの後あんまり寝れなかった...とか?」
「...あ...うん...実はそうなんだ。
非常事態といえば非常事態な訳だし、やっぱりちょっと緊張してたのかも。疲れてるのに、眠れない...みたいな」
この人も案外デリケートなんだな......
「分かります。実は私もなんです。
昨日はあんまり...眠れなくて...」
「...ああ、確かに目の下にクマが出来てるね~」
少しだけど、いつもの陽介さんの調子になってきた。
昨日と同じく、陽介さんと話している間に、他の人達も続々とやって来る。
優奈ちゃんは元気みたいだけど、碓氷さんは、だいぶ疲れた...というか落ち込んだ顔をしている。
あっ......
「ねっ...ねえ、優奈ちゃん。もしかして昨夜の勝負......?」
昨日と同じく、優奈ちゃんが私の席の隣に座ったので、恐る恐る小声で聞いてみた。
「はい!そりゃあもう全勝ですよー!
楽しくて朝方までやってました~!」
ちょっ、ちょっと...声が大きい......!
私はちらっと碓氷さんの方を見る。
...あ~あ、余計暗い顔になっちゃってるよ......
...そういえば麗華は...?
...あっ、来た!
どうやら誰かを探している様だ、
神守さんが通り掛かった時に、何か小声で聞いていたけど、神守さんが首を横に振ったあと、二人の顔が青ざめて行くのが分かった。
慌てて、二人が食堂を飛び出していく。
「どうしたんでしょうね~?」
「さあ...そういえば、忠徳さんの姿が見えないけど...」
優奈ちゃんの問いかけに私がそう答えると、今度はその会話を聞いていた陽介さんの顔が、さーっと青ざめていくのが分かった。
「ど、どうしたんですか...?」
「おっ、叔父さんが決まった時間に来ないなんて、おかしいんだ...
時間に厳しい人だから...」
私が尋ねると、しどろもどろになりながら陽介さんが答える。
「ええ~!それって、まずくないですかー?」
優奈ちゃんがそう言うと
「う、うん...ぼ、僕達も、行った方が良いかもしれない......」
と陽介さんが言い出したので、私達は西棟二階にある、忠徳さんの部屋へと向かった。
そんな私達のただならぬ様子に気付いたのか、碓氷さんと、配膳をしていた星井さんも私達の後に続く。
二階に上がる階段の途中から、ドンドンと扉を叩く音が響き渡っていた。
「やっぱり、何かあったみたいですね」
優奈ちゃんがそう呟やく
ただならぬ事態に、弦が張り詰める様な緊張が、場を支配していくのが分かった。
2階西棟廊下に上がると、血相を変えた麗華達が、叫びながら扉を叩いている姿が目に入った。
「どうしたんですかー、先輩?」
優奈ちゃんが麗華に尋ねると
「おっ、おかしいの...普段お父様が書斎に鍵を掛けるなんて事無かったのに...幾ら呼び掛けても返事も無いし......!」
麗華がだいぶパニックになっている。
私も、自分の心臓が、かつてないほどドキドキしているのが分かる。
「落ち着いて下さい。
マスターキーの様な物はないんですか?」
先程まで暗い表情をしていた人と、同一人物かと疑いたくなるほど、極めて冷静に碓氷さんが聞いた。
「あっ...有るには有るのですが...その、普段、旦那様が管理しておりまして、何処にあるのか、旦那様以外には誰にも分からないのです」
狼狽した神守さんが辛うじて告げた。
「書斎の方に、忠徳さんがいらっしゃると考える根拠は?」
確かに、自室にいると考えても良さそうなものだが。
「そ...それは、僕から説明するよ...」
陽介さんが口を開いた。
「実は、書斎には仕掛けがあってね。
本棚にある本の一部分を動かすと、自室への扉が開くようになってるんだ」
なんでそれを貴方が知ってるの、とでも言い出しそうな表情で、麗華が陽介さんを睨む。
「それで、その仕掛けは、書斎側からしか作動しないようになってるから、多分、叔父さんの自室にも鍵が掛かってると確認した上で、書斎から行こうとしたけど、その書斎にも鍵が掛かってて困ってた...ていう感じだと思う......」
陽介さんが青ざめた表情のまま、冷静に状況を推理した。
「なるほど...
何か急病で倒れた可能性が高いですし、事態は一刻を争います。
ここは書斎のドアを、なんとか打ち破るしかないと思います」
「そっ...それなら、僕も手伝うよ!」
碓氷さんの提案に、陽介さんが乗った。
「物置に斧が有りますので、念のため取って参ります!」
恐らく、扉が破れない時の事を想定しての事だろう。
神守さんが、走って物置へと向かった。
その後、碓氷さんと陽介さんの二人で何度か体当たりをしたが、古くなっているとはいえ、扉は簡単には破れなかった。
...が、そのタイミングで、斧を担いだ神守さんが戻って来て、陽介さん達に斧を渡す。
そして、鍵の近くを、陽介さん、碓氷さん、神守さんの三人で、交代しながら斧を振り下ろしていく。
───何度か繰り返す内に、漸く細い腕ならギリギリ通る位の穴が出来た。
3人の中でも細身の碓氷さんが、腕を突っ込む。
「あれ...鍵は掛かってないみたいです...あっ、でも掛け金の様な物が下ろされてるみたいですね」
碓氷さんが掛け金を上げ、ドアノブを掴んで押すと、勢い良く扉が開き、部屋の中の光景が目の前に広がっていった......




