9.問い諮る
※人物表
町田 義生/主人公
廷都出身の魔導技師。偶然、立ち寄った博多で絡繰2機の暴走事件に巻き込まれる。
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御守港湾管理会社(通称:オンカン社)/ユグフド(大公)の開発元
代表:戸村 整備責任者:谷田部
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近畿技術(通称:畿技)/戎華の開発元 代表:羽室
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ケイフ自動車 代表:水野
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奥羽技研公社(通称:羽技) 代表:対馬
戸村さんの口がなにか叫びたそうに開いたが、言葉を発したのは羽室さんが先だった。
「町田はん、言うた?」
三十代後半ぐらいの男性。手にしたペンをクルクル回しながら、にこやかな笑顔で言ってくる。
「若いのにしっかりしとりますね。岡松はんから魔導技師て聞ぃたけど」
「……はい」
「西海府はんと顔見知りなんて、ええとこに勤めとるんですやろなぁ」
そういう食いつき方か。嫌な攻め方に視線が泳ぐ。
「いえ、そんなことは……」
「イサくんのとこは小しゃか魔導事務所やったな。あんときん参加事業者ん中で一番小しゃかったばい」
岡松さんは、そう言って笑った。人の名前は憶えないくせに、そんな些細なことは覚えてるのか。
「はい。でした、ね」
「へぇー。西海府はんの事業に参加したことがあるんですか? そら、どんな事業で?」
「西海メーカーん絡繰ば、苑廷に売り込む事業やったな? イサくんとこは代理販売店やったか?」
「はい」
「はぁー、すごいですやん。代理販売店、言うたら改造まで担当しはるんでしょ? お勤め先のお名前、お聞きしてもええですか?」
回りくどく拒否しづらい方向からの確認。
「それは……この場では関係ないことなのでは」
「勤め先の程度で、君の言葉の信用度も変わる。一介の魔導事務所が、そうそうユグフドの設計図を見る機会があるとは考えられんでよ」
そう言ったのはケイフ自動車の水野さんだった。四十前後に見えるが、表情が読めず年齢以上の威圧を感じた。
「それはウチん選定に疑問がある、ちゅうことでしょうか?」
産業技術局の今永さんが、ムッとした口調で言い返した。
三十代半ばぐらいの女性。小柄で、男性の間にいると埋もれるような印象があったが、臆する様子もなく堂々とした様子だった。
「そういうわけでは……」
水野さんが口ごもる。
「西海メーカーん製品ば苑廷で売り出す。そんためん代理店であり、程度の低か業者ん選定はなんの利益にもなりません。我々は厳密に精査し、信頼のおける業者ば選んだと自負しとります」
「役所ど契約する業者は、表だげ見では選ばれねすけ。実績があるのだら、そごは問題にしねんでもいいんでねすか?」
やんわりと対馬さんが場を収めようとしてくれる。
それを無視し、戸村さんが強い口調で言ってきた。
「魔導事務所の名は? 一体、いつ、どこでユグフドの設計図を見たのかね?」
「……改造認可事業者選定の説明会です。配布された資料の中に設計図の一部も含まれていました」
「それだけでユグフドは、他の絡繰と変わりないと断定したのかね?」
「基本構造において、私には変わらないように見受けられました。事実、搭乗口を破壊したあとでもユグフドの動作に変化は見られず、不具合が拡大した様子もありませんでした」
「それは結果論であって」
「緊急事態に結果論もなんもあらへんでしょう。臨機応変に対処する。町田はんは、そうしはっただけ。なぁ?」
「さすがにドアを破壊いたことが、ユグフドの動作に関係するとは考えられんですなも。それより破壊の方法を聞きてゃーものだ。確かユグフドは魔力の無効化を外装に施しとることが、売りの一つでしたよね」
「あー、そうでんなぁ。そら私も興味があります。摸擬戦でも、ウチの戎華の攻撃を華麗にかわしてましたなぁ」
公社の奥羽技研は別として。
苑廷のオンカン社、東海府のケイフ、京畿府の畿技は、それぞれ地域を代表する大企業だ。本業は異なるが、共通しているのが荷役絡繰の開発元であるということ。
互いにライバル視し、勢力圏を保持しながら残った地域のシェアを奪い合っている。
廷都は横浜発祥のオンカン社の中枢にあり、他社が入り込む隙間がなく、対立など噂で聞くばかりだった。
大手同士は、どこもこんなものとは言え、このギスギスとした空気感。息苦しくてたまらない。
「お答えしても、よろしいですか?」
どう答えていいのか正解が分からず、戸村さんに尋ねた。
無効化の術自体は一般に広く知られ、様々な場面で利用されている。大公が特殊なのは、機構内部に組み込まれた魔導術を維持している点だ。
術式では魔力に指向性を持たせるのが難しく、強力であればあるほど広範囲に影響を及ぼす。外装に強い無効化を施せば、内部の術にも影響し発動を阻害する。それが魔導術の常識だった。
しかし、大公は両立させた。そして、二十年が経った現在でも、大公以外に両立を果たした絡繰は存在しない。
人型機乗絡繰としての大きさや、繊細な動き、疑似体を用いた連動操作。多くの優れた技術も注目に値するが、大公が他を圧倒しているのは、なによりも無効化の術の扱いだった。
戸村さんは渋い顔に少しの迷いを滲ませ、後ろへと目をやった。背後に立っていた五十代の男性と視線をかわすと、戸村さんではなく彼が口を開いた。
「ユグフドの整備責任者をしています、谷田部です」
軽く会釈されたため、一礼を返す。
現場責任者か。他の後ろにいる人たちも各社の技師だろうか。
「私もお聞きしたいですね。破損部分を確認しましたが、非常に鋭利なもので切断されたようでした。魔力残滓も検出されず、なにを使用したのか疑問に思っていました」
目つきの鋭さから、同じ技師だからといって、こちらの心情を汲んでくれることを期待するのは間違いだと察した。
小さく深呼吸し、説明した。
「ウォーターカッターです。ただ切断する部分からは魔力を抜いて、無効化に干渉されないようしました」
「組成は?」
そりゃ、聞くよな。強張った首を振る。
「自己発揮で作りました」
咎めるような、嫌悪するような、責めるような表情が面々に浮かぶ。
ただ、西海の関係者と対馬さんは、特に表情を変えなかった。
あのスーツの男性が言ったように、西海では、もしかしたら奥羽でも魔導師に対する忌避感は少ないのだろうか。それとも魔導術と関係する人が多い場だからか?
「ごっつ器用なこと出来るんでんなぁ。免許等級をお聞きしてもええですか?」
「そいくらいは弐級ん人間でも出来ましょう」
独特なイントネーションの声が割って入った。五十代ほどの男性。産技局魔導部の月野さん、だったか。声音には少し呆れたような色が混ざっていた。
「それくらい、て。自己発揮で水を操っとるのに、そこから魔力を抜いて、どないしてコントロールするんでっか?」
「ウォーターカッターじゃっで、噴出と吸収を同時にすれば、そいだけで出来ましょう」
月野さんはそう言うと、手元にあったグラスに半分ほど残っていた水を浮かせ、刃の形に形成した。銀花灯の光を反射して、刃が回転している様子が見て取れる。
戸村さんたちは顔を強張らせ、視線をかわした。ライバル社の反目は消え、同志のような空気が生まれていた。
月野さんは水をグラスに戻すと、彼らを見渡し聞いた。
「聞いてる限り、町田さんの行動に問題はなかったち思いますがよ。そいより、私は他んことが気になりましたが。聞いても良かですか?」
「なにを、ですか?」
戸村さんが少し上ずった声で聞き返した。
技術部門に所属しているだろう戸村さんでも、あまり自己発揮を目にする機会はないらしい。少しショックを受けた様子だった。それとも軽々しく力を使ったことに対するショックだろうか。
「町田さんな、さっき、不具合が拡大した様子はなかった、ち言いましたね?」
月野さんは俺に顔を向けて言ってきた。
「はい」
「そいは、すでに不具合を起こしている、ち確信があったからですか?」
「確信とまでは言えません。ただ、二度ほど不自然な動きを目にしました」
「どげな?」
「一度目は視線と動きの不一致。操縦士が向かおうとした方向とは逆に動き、操縦士がそれに対応できなかったように見えました」
月野さんは隣りに座る港湾署の城丸さんと視線を交わした。
「それが不具合だと、なぜ言える? 操縦士の腕が未熟だっただけだろう」
苛立った口調で戸村さんが詰め寄る。
戸惑って、喉元まで出かかっていた返事が止まった。
――操縦士はオンカン社の人間じゃないのか?
「不具合と操縦士の問題。町田はんの目ぇには、どう映りましたん?」
興味深そうに身を乗り出し、羽室さんが聞いた。対馬さんも水野さんも。西海府の人間も注視している。
核心は、ここなのか。と合点がいった。
大公が不具合を起こし、暴走した。あるいは、操縦士が操作を誤り制御不能に陥った。
前者なら大公の性能問題。
後者で操縦士の所属がオンカン社でないのであれば、オンカン社の責任は軽減される。
加えて、俺の独断で問題のない大公が破壊されたのであったなら、オンカン社は完全な被害者となり得た。
だから、攻撃的な追及をしていたのか。
そう理解出来ると腹が立ってきた。
俺だけではなく、最後まで必死に操縦を続けていた操縦士に責任を負わせようとしている。どういう関係であろうが、一度は大公の操縦を任せた相手にする仕打ちではない。




