10.誘い導かれる模索
※人物表
町田 義生/主人公
廷都出身の魔導技師。偶然、立ち寄った博多で絡繰2機の暴走事件に巻き込まれる。
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御守港湾管理会社(通称:オンカン社)/ユグフド(大公)の開発元
代表:戸村 整備責任者:谷田部
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近畿技術(通称:畿技)/戎華の開発元 代表:羽室
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ケイフ自動車 代表:水野
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奥羽技研公社(通称:羽技) 代表:対馬
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西海府 産業技術局 魔導部部長 月野
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博多港湾署警備部部長 城丸
軽く息を吸い、姿勢を改めるとはっきりした声で言った。
「戎華との戦いにおいて、ユグフドの操縦士は十分な操作技術を持っているように見えました。だから、よけい不自然な動きである印象を強く持ちました」
「十分な操作技術とは? なにをもって、そう判断した?」
疑わし気に戸村さんは聞いてきた。
「ユグフドは四本腕の戎華と対等以上の戦いをしていました。操縦士は武芸の心得がありますよね? ユグフドの動きからでも、それを感じ取ることが出来たので十分な技術があると判断しました」
「武芸の心得など。どうして、そんことが君に分かるのかね」
「俺も……多少、剣術を習った経験があるので」
戸村さんは押し黙り、さっと西海府の面々へ視線を走らせた。
――操縦士は西海府の職員だったのか?
選考会が、どういう状況だったのか、さっぱり分からない。なにが、どうなってるんだ?
「もう一つん方は?」
月野さんが促してきた。
「右腕の破損です。私が目撃して以降、ユグフドは戎華の打撃を受けてはおらず、外装にも大きな損傷は見受けられませんでした。なのに突然、右腕が激しく振動し始めました」
「それこそ操縦士が操作を誤ったせいなのではないか?」
戸村さんが問い詰めてくる。
「その可能性も否定は出来ません。しかし、振動を始める直前まで、無理やりな動きをしているようには見えませんでした」
「戎華との戦いで、出力に耐えられへんかったんやろか。摸擬戦なんて普段せえへんですからねぇ。操縦士の動きが、よっぽど激しかったんでしょう。災難でしたなぁ」
羽室さんは慰めるように戸村さんへ声をかけた。しかし、暗に大公の性能不足をくさしている。戸村さんは羽室さんを一瞥し、鋭く俺を睨みつけてきた。
「君の発言には、なんの根拠もないように思えるが? すべて、ただの印象ではないか?」
「大体の動きは、あそこにおった人間からん聴取と一致しています。全員やなかとですが、百人程度から聴き取りはしとーです」
城丸さんが手元の紙を見ながら言った。席に座る誰よりも大柄で物静かな口調だったが、反論しようという気概を削ぐような鋭さがあった。その警官らしさが、嫌いだ。
「そいに視線の動きと実際ん動きの不一致は、摸擬戦をば始めたとっから見られておりましたなぁ。あいは操縦が不慣れやったで、ち思いましたが、そいとも違ったようで」
月野さんの指摘に、戸村さんと谷田部さんの面持ちが険しくなる。
るーさんも言っていたな。摸擬戦を始めてから、しばらくして大公の動きが妙な感じになった、と。
所属はともかく、あの操縦士の搭乗は不測の事態で、それが不具合か否かの判断を難しくした。戎華は大公を止めようとして追っていた……?
けど、それにしては仕留めるような動きに見えたが。
それに、制止したかったのなら下手に攻撃せず、操縦士に機関を止めるよう勧告すればよかったはずだ。なにより大公を押さえ込んだあと、どうして機関の停止もせず戎華の操縦士たちは逃げ出した?
「機体には、なんの問題もありません」
谷田部さんが断言した。眉間に深い皴を刻み、怒りを抑えているように見える。
「事前調整でも、直前の動作確認でも、なんら問題はありませんでした。私はユグフドの開発から携わってきました。整備には絶対の自信があります」
技師として、谷田部さんのプライドは理解出来た。大公は苑廷各地の港湾で活躍しているが、こんな暴走は俺も聞いたことがない。例え企業圧力で報道を止めたとしても、技師の間で噂はあっという間に広がる。
それすらないのだから、大公自身が持つ欠陥でないことは確かだ。
不具合があったとしても、今回だけのものだろう。長距離の移動をして、不慣れな場所での整備。見落としがあっても不思議はない。
――けど、本当に整備に問題がなかったとしたら?
不自然なほど誰も指摘しない事実が一つあった。
「君に聞きたいことがある」
谷田部さんは、俺を見据えて聞いてきた。
「機関へは、どうやって介入し、どうやって圧力を抜いた?」
「搭乗口の切断面から、機構内部の魔力を介して機関に進入。すでに弱っていた部分に冷気を当て、同時に圧力をそこへ集中させることで破壊しました」
「内部の魔力を利用した? そのせいで内部の術式がメチャクチャに」
「違います」
咎めの言葉を遮り、言った。
「私が進入したときには、すでに術式は破断していました。外部からの物理衝撃だけで、あそこまでの破断はしませんから、私も不審に思いました。詳しく調査していただければ、魔力を介しただけで発生するような事態でないことは分かるはずです」
束の間、静寂が場に満ちた。外からの低い蒸気機関の唸りだけが響く。
「けったいなことになってるんでんなぁ」
ぼそりと口を開いたのは羽室さんだった。無意識なのかペンを回し、視線はテーブルの上を彷徨っている。
「ユグフドの無効化を考えたら、外部からの干渉はむつかしいんとちゃうかな。内部から、操縦室からなら、どうなんですか?」
戸村さんたちを見やり言うが、二人は黙ったままだった。羽室さんは苦笑いを浮かべ、親密そうな口調で言う。
「ここで機密をばらすのもアレなんやけど、うちの戎華は操縦士が術式を変えられるようになってましてな。ごく一部ではあるんですけど。ユグフドも同じちゃいますか?」
谷田部さんは一瞬、不快そうに眉をひそめたが、振り返った戸村さんと視線をかわす。
「詳細は伏せますが、確かに操縦士なら干渉することは可能です」
慎重に谷田部さんが答えると、にこりと羽室さんは笑んだ。
「それやったら、操縦士が慣れへん機体で操作を誤ったんでしょう。特にユグフドは特殊な操縦機構をしとりますから、初めてならしゃあないですよ」
戸村さんも谷田部さんも、反論はないようだった。むしろ、どこか安堵したような色さえ滲んでいる。操縦士に責任を負わせられれば、大公に、会社の名に傷はつかないからか?
確かに操縦士の魔力は力強く、圧倒的な威力を持っていた。
魔力を扱える適性は、個々人で差がある。生まれ持った器の大きさとでも言おうか。基礎的な魔力量、査定値によって等級が定められる。
壱等から漆等まであるが、陸等以上は特筆すべき性質、天機特性を備えたものにしか与えられないため、一般だと実質的に伍等級が最高となる。
俺は肆等級だか、大学時代には身近に伍等級がゴロゴロいた。その彼らからも一度として感じたことがないほど、操縦士の魔力は強かった。
天機特性の魔力が流入したとしたら、術式が破断する可能性はある……だろうか。一度なら耐えられても、戦いの過程で二度、三度と繰り返されたとしたなら、あるいは。
操縦室の灯火と空調が停止していたのも、その影響だった?
筋は通っているように感じる。無理のない理由。
でも、モヤモヤとした感覚が残っていた。




