11.言葉の檻
※人物表
町田 義生/主人公
廷都出身の魔導技師。偶然、立ち寄った博多で絡繰2機の暴走事件に巻き込まれる。
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御守港湾管理会社(通称:オンカン社)/ユグフド(大公)の開発元
代表:戸村 整備責任者:谷田部
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近畿技術(通称:畿技)/戎華の開発元 代表:羽室
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ケイフ自動車 代表:水野
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奥羽技研公社(通称:羽技) 代表:対馬
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西海府 経済産業局 局次長 小夏
断定するには情報が足りていない。せめて不具合自体の内容が明らかにならないと、本当に操縦士が原因だったとは言い切れない。
それに。
一連の大公の動きを思い出す。
大公は、常に戎華の動きにも気を配っていた。あれは周囲への影響を気にしていた証拠だ。一度は川下側、港へと戻ろうとした動きも見せたし、最後は自分の身を危険にさらしてまで街や人を守ろうとしていた。
そんな人が不具合に気付いていながら、無理に動き続けようとするだろうか?
動き続けていたのは、戎華が手を出してきたからだ。大公から戎華に攻撃を仕掛けた場面はなかった。少なくとも俺が見ていた限りでは防戦に徹していた。
「責任の所在はハッキリさせた方がええでしょう。操縦士は西海府さんが用意された人でしたね。話を聞くことは出来ませんか?」
水野さんの提案に、西海府の面々は視線を交わし合った。誰が答えるのか探り合っているように見える。西海政府にも縦割り文化が根付いてるのだと垣間見えた瞬間に思えた。
「操縦士は疲労が見られたため、病院に搬送されました。検査が必要であると報告ば受けています。話ば聞くにしてん」
淡々とした口調で答えたのは通交局の杉尾さんだった。白髪の混じった髪を綺麗に整えた、六十代ぐらいの女性。
チラリと腕時計を見て続ける。
「今夜は無理やなかですかね」
港湾局でも魔導部でもなく、通交局に所属している職員?
絡繰の操縦にも資格は必要だ。特に大公のような大型絡繰は特殊免許を必要とする。管理に必要な絡繰のある港湾局や、そもそも技術部署の魔導部所属なら分かるが、通交局は意外だった。
どんな経緯で職員が搭乗することになったんだ? オンカン社の操縦士は?
「それ、どっちですか?」
噴き出すように羽室さんが言った。
「無理なんですか? 無理やないんですか?」
「聞いてみんば分からんです。病院まで行って、確認してみましょうか? 車で十五分ほどん距離やけん、来らるるなら三時頃には着くでしょう」
杉尾さんは一旦、口を閉ざすと、ふっと微笑んだ。
「私たちも休憩ばはさんで、三時半から再開しましょうか。それなら確実に操縦士も来らるるでしょう」
――三時半……。
チラリと自分の腕時計を見る。
俺が起きたのは一時頃だった。いまは二時過ぎ。病院との往復で三十分。操縦士が、すぐに支度を整えられればいいが、検査結果待ちだったり、準備に時間を要したりすれば三時ぐらいにはなるか。
けど、いい加減、解放してほしい。
うんざりしたような空気が無言の空間に漂った。
「今夜ぁ、もう遅いすけ明日、改めででいいんでねですか? ユグフドの調査も詳細におごなって、それも勘案して判断した方が間違いねのでは」
対馬さんの、やんわりとした提案にホッとする。
「オンカン社はん、どないします? 私らは、あんたはんの判断に従いますよ」
羽室さんが尋ねる。
「……少し相談してもよろしいでしょうか」
戸村さんは視線で谷田部さんを示し、ぐるりと席に座る人たちを見回し聞いた。
反対する人は、誰も
「私は、この場で決着をつけた方がええ思やーすがね」
水野さんがキッパリと言った。
緩みかけていた空気が、また気まずく固くなったように感じられた。
「お互い不利な情報は出したくにゃーでしょう。証拠隠滅、口裏合わせ。そんな疑念を持ちながら話すよりは、この場で収めた方がええのではあらせんか?」
「なし、お互いなんです? 我々が、そぎゃん不正ば働く意味はなかごつ思いますが?」
怒りを滲ませて小夏さんが言った。
「操縦士の失態だったと分かりゃあ、すなわち府の失態ですわ。府が街を危険にさらした。それを隠いてゃー思うのは人情でしょう」
「まあまあ。そら操縦士が要因やったと、分かってからのことでっしゃろ。まだ、なんも確定したことはあれへんわけですから、不正が行われること前提に話されたら、西海府さんも気分はようないですよ。ねぇ?」
羽室さんは取り成し、畳みかけるように続ける。
「公務員かて人間ですから、そういうこともありましょう。そやけど、分かったら不正をする、なんて決めつけで語ったらあかんです」
「安全にも関わることです。私情ば挟んだ判断はいたしもうせん。操縦士には正直に話させます」
小夏さんの言葉に、羽室さんは大きな笑みを浮かべた。
「さすが西海府はん。正直者で名が通るだけのことはありまんな」
――ああ……。言質を取られた。
これで操縦士は西海府が不利になろうが、すべてをさらけ出さなくてはならなくなった。少しでも拒む素振りを見せれば、西海府の隠蔽行為を疑われて攻められる。
そして、それは同時にオンカン社への攻撃ともなる。オンカン社が望まない、大公の機密に関することでも、他社が求めれば操縦士は答えざるを得ないからだ。
嫌な手を使う。
責任を一身に背負わされる操縦士が、他人事ながら心配になった。
「どないします? オンカン社はん」
戸村さんは強張った顔で黙っていた。
機密を守るか、責任を回避するか。一存で決められることではないだろう。
谷田部さんが戸村さんの肩に手を置き、代わりに答えた。
「よければ時間をいただきたい」




