12.隠された意図
お茶とお茶請けが運ばれてきて、小休憩に入った。何人か外へ出て行ったが、ほとんどは残って静かに話をしている。
俺も受け取ったお茶をすする。ほろ苦さの中に、ほんのりとした甘み。ふくよかな香りが、心身の疲れを少しだけ癒してくれた。
薄紙に包まれたお菓子は、開いてみるとカステラだった。ふわふわと柔らかく、片面についたザラメのシャリシャリとした食感が、いいアクセントとなっている。
夜中の二時過ぎに、なんだって俺は、こんな場所でお茶とカステラを味わっているんだろう……。
室内を、それとなく見回す。
みんなスーツか、制服姿。Tシャツにジーンズなんて格好は俺だけだ。完全部外者だし、場違いも甚だしい。いつまでいれば、いいんだろう。
岡松さんは小夏さんと短く話したあと、会議室から出て行ってしまった。顔見知りもおらず、退室の許可すら誰に取ればいいのか分からない。どうすればいいんだよ、これ。
食べ終えたカステラの包みを握り潰し、ポケットに突っ込む。
お茶をすすり、小さくタメ息をついた。
ふと視線を感じた。顔を向けると羽室さんと目が合った。にこりと微笑んだ顔に手招きされる。あまり話したくはなかったが、断る理由も見つけられない。
そばまで行くと、戸村さんが立った席に座るよう促された。
席についていた西海府の面々、それに戸村さんと対馬さんはテーブルを離れ、残っているのは羽室さんと水野さんだけだった。
その水野さんは羽室さんに背を向けて、ケイフの技師らしき人と話をしている。
羽室さんのそばにも若い男性が控えていたが、席に座る様子もなく床に視線を落として啄ばむようにカステラを食べていた。
羽室さんは彼の存在など見えていないかのように、もう一度、俺に椅子を示した。
嫌々、席に腰かける。
「町田はんやったっけ?」
「はい」
「苑廷の出身なん?」
「はい」
「苑廷のどこ?」
「廷都です」
「へぇー。そらまた、なんで筑州におるん?」
「個人的なことなので」
「はぁん、女にでも会いに来たん?」
「そうかも知れませんね」
「そない警戒しなや。袖振り合うも他生の縁。こないなところで会うた奇跡を楽しもうや」
羽室さんの軽口に、曖昧な笑顔を返す。
まったく楽しみたい気になれない。
「さっき聞きそびれたけど、どこに勤めてはるん? 町田はんみたいに優秀な技師がおるなんて、さぞかし名の知れた事務所なんやろなぁ」
「ありがとうございます。けど俺なんて、畿技さんの技師に比べたら素人に毛が生えた程度ですよ」
「またまた、そんな謙遜せんでええやん。ユグフドの不具合に気ぃ付いたり、状況把握しっかりしてたり。説明も整然としてたしな。報告でけへんのが、うちにも一定数おんねん。そこが一番、あんたを買っとるとこや」
「ありがとうございます」
――ユグフドの不具合……。
さっきは操縦士が要因だと言っていたのに。あれは水野さんに乗っかって西海府の言質を取りたかっただけで、本当は操縦士のミスだと思っているわけじゃないのか? それとも、俺が言ったことをなぞっているだけ?
「さっき言うとった改認選定の結果て、どないやったん?」
「もちろん落ちましたよ。元々、勉強のつもりで行かせてもらっただけでしたし」
蘇った苦い記憶に漏れかけたタメ息を、お茶と一緒に飲み込む。
「あんた……操縦士と話したんか?」
羽室さんは声を落とし、聞いてきた。
「いえ。そんな余裕もなかったので、こちらが一方的に話すだけでした」
「ほんまか? オンカン社と関係あれへんのやったら、変に庇わへんでもええんちゃうか? それとも西海府に遠慮しとるんか?」
本当に聞き出したかったのは操縦士についてか。
この人、本当は不具合と操縦士の関係を、どう思っているんだ?
「本当に、なにも。向こうは向こうで倒れる寸前みたいな状態でしたし」
「爆発、一歩手前やったんやって? 町田はんには感謝してもし切れへんな」
――誰が?
羽室さんは笑顔で言ったが、主語もお礼もない言葉に、戎華のことは含まれていないのだと感じた。
戎華の動きに対して責任を感じてはいないのか? 戎華が無理に止めようとしなければ、大公が街の方へ来ることもなかったはずだ。理由が不具合か操縦ミスかは別として、危機を作り出したのは大公だけの責任とは思えない。
なにより、戎華の操縦士たちが機関を止めることもなく避難したことが、ずっと引っかかっていた。この人は操縦士たちから話を聞いているはずだ。それを一言も口にしないのは畿技の総意なのか? それとも、この人の独断か?
どちらにしろ、この場での近畿技術の責任者は羽室さんだ。
この人しか戎華の責任については言えないのだから、揺さぶってみるしかない。




