15.変化の兆し
※人物表
町田 義生/主人公
廷都出身の魔導技師。偶然、立ち寄った博多で絡繰2機の暴走事件に巻き込まれる。
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御守港湾管理会社(通称:オンカン社)/ユグフド(大公)の開発元
代表:戸村 整備責任者:谷田部
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近畿技術(通称:畿技)/戎華の開発元 代表:羽室
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ケイフ自動車 代表:水野
息をつき、みんなに聞こえるように言った。
「本来の操縦士の体調不良によって、予定外に操縦士の変更があった。オンカン社さんは予備の操縦士は連れてこなかったのですか?」
「夕べの夜行便で発って、今朝到着予定だった。ただ悪天候で大阪に代替着陸して、そこから朝一の汽車に乗り換えたんだが、それも遅延して間に合わなかった」
戸村さんが不満げに答えた。予備の操縦士さえいれば、と思っているのだろう。
「つまり二重の不幸がなければ、西海府の操縦士が搭乗することはなかった。ましてや不幸のひとつは自然が理由です。西海府の計画という線は消えました」
「それは消えても、操縦士の操縦ミスの可能性は消えへんな」
「この線で詰めますか?」
羽室さんには答えず、オンカン社の二人に聞いた。
「不慣れな操縦士が操作すれば、ユグフドは暴走する危険がある。畿技さんも指摘しておられましたね。ユグフドは、特殊な操縦機構だから、と」
「そんなはずはっ」
谷田部さんが即座に否定しかけたのを、戸村さんが視線で制した。
「そんなはずはない。そう言いたいが、可能性がゼロと言うわけではない。それは、どんな絡繰でも同様だ。どれほど安全に気を配り設計、製造しても人為的ミスで事故は起こる」
「自動制御の不具合は、ほとんどが整備不良を原因としています」
俺が言い切ると、谷田部さんがムッと顔をしかめた。
「操縦士のミスではなく、整備不良が原因だと言いたいのかね」
「不具合が発生していたのは、自動制御であることは間違いないと思います。自動制御は操縦士の制御範囲にはない部分です。それともユグフドの自動制御は、操縦士が誤操作できるようになっているんですか?」
「そんなわけ」
苦々しげに谷田部さんは漏らした。
「自動制御に不具合が発生した状態でも、操縦士は戎華と対等以上に渡り合っていました。それだけの操縦技術がある操縦士が、ミスをするとも考えにくいです。操縦ミスが原因である可能性は低いと思います」
「そら、どうやろ」
考え込むような顔をして羽室さんが口をはさんできた。
「ユグフドが不規則な動きをし始めたんは、摸擬戦が始まってすぐやった。まだ扱いに慣れへんうちに、うっかり触ってしもたんやないか? どれほど厳重に対策を施したところで、完璧に防ぐんは無理やさかいな」
「それなら、なおのこと整備不良が疑われますね。初めて搭乗し、摸擬戦のような瞬間的な判断が問われる操縦で、理解していない部分を触るのは危険です。まずは基本操縦だけで対応しようとするのではないですか?」
「そら、あんたの考えやろ。操縦士の考えは違うたんちゃうか?」
「操縦士が自動制御を操作することは、そんなに容易いのですか?」
戸村さんも谷田部さんも答えない。葛藤が顔に滲んでいた。
操縦士の失態にしたところで、それを許した大公の設計ミスも免れなくなった。整備不良より重大な問題だ。かといって、整備不良を認めることもプライドが許さない。特に谷田部さんは整備責任者として受け入れ難いだろう。
「ウチのCA-Ace αなら、考えられんな」
水野さんが独り言のように、けれどハッキリと聞こえる声音で言った。
「オペレーターの意図せん操作で自動制御が不具合を起こすなど欠陥品でしかにゃー。危のうて売りに出すなど、とんでもにゃーことだ」
ケイフ自動車の開発したCA-Ace α。通称トリプルエースは大公、戎華と違い重機絡繰に分類される。動く倉庫とも形容され、荷台で簡単な検疫や仕分け作業が行えるほどの巨大さを誇る。作業の大半は自動制御された絡繰で行い、乗組員の数は、その巨大さに似合わず数名だと聞く。
大公の移動に関する技術とは違うが、自動制御技術を持つ企業としては最高峰に立つケイフの水野さんの言葉は重かった。
「あまり愚弄しないでもらいたい。そのなような欠陥はユグフドにはない! 自動制御の操作は正規の手続きを取らなければ、行えないようになっている。西海の操縦士には、その手続きを教えてはいない」
我慢出来なかった様子で谷田部さんが言った。強い口調での断言。戸村さんは苦虫を噛み潰したように顔を歪めた。
内心でホッと息をつく。これで操縦士だけに責任を負わせることは出来なくなった。
あとは、どこまで迫れるか。
「では、これで操縦士が原因の線も消えました。残るは整備不良と戎華の攻撃」
周囲を見回して言う。西海政府の人たちの面持ちから険しさが消えていた。
「繰り返すが、整備にはなんの問題もなかった。運搬にも気を使い、時間をかけて整備をしてきた。直前の動作確認でも正常に動いていた」
谷田部さんが言う。憤りを堪えきれないような、少し震えの混じった声だった。
「ユグフドは小笠原にも配備していて、遠方への輸送、整備、運用は初めてではない。ましてや博多のような設備の整ったところで整備に失敗するはずがない」
戸村さんも言った。
「せやけど、小笠原も苑廷の内でっしゃろ? 筑州は西海やないですか。同じ西国なんて東の人は言いますけど、私らからしても、随分ちゃうて思いましたで。なぁ?」
同意を求めたのは、ずっと影のように羽室さんのそばにいた男性だった。彼は強張った曖昧な笑顔で頷いた。
「整備主任も、道具が使い難うてややこしい、て言うてました」
ボソボソと小声で言う。
「我々は整備道具は持参してきて、西海府さんが用意していたものは使用していない」
ピシャリと谷田部さんが言い切る。若い技師の男性は狼狽えたように俯いた。
痛々しい。なんで畿技は、こんな場面に責任者でもない若い技師を連れて来たんだ。
「そうは言うても、バタバタでしたやん。延期してもよかったのに、日ぃも暮れてから始めるもんやから」
呆れたように言い、羽室さんは大きく肩をすくませた。
飛行船が代替着陸したり、汽車が遅延したり。本当に、ひどい雨だったらしい。俺が着いた頃、小雨程度になっていたのは運がよかったんだな。
「こっちは、今日はせえへんものや思て、みんなで飲みに行く気満々でしたで。オンカン社はんも同じでしたやろ?」
戸村さんは言葉に詰まったが、谷田部さんがすぐに否定した。
「港湾での作業は時間との勝負です。短時間での正確な整備には慣れています」
オンカン社の本業は港湾管理。開発が主要の他社とは事情が異なっている。さすがに羽室さんも継げる言葉を失ったようだった。
オンカン社は振り切った。操縦士のせいには出来ない。整備不良も認められない。戎華の優位性を認めることになっても、大公に欠陥がある可能性を受け入れるよりはマシだと踏んだのだろう。
風向きは変わった。




