14.反転攻勢
※人物表
町田 義生/主人公
廷都出身の魔導技師。偶然、立ち寄った博多で絡繰2機の暴走事件に巻き込まれる。
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御守港湾管理会社(通称:オンカン社)/ユグフド(大公)の開発元
代表:戸村 整備責任者:谷田部
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近畿技術(通称:畿技)/戎華の開発元 代表:羽室
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ケイフ自動車 代表:水野
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奥羽技研公社(通称:羽技) 代表:対馬
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西海府 産業技術局 魔導部部長 月野
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西海府 経済産業局 局次長 小夏
「そうですか? では、早々に、この問題を片付けましょう」
「それは、あんたが考えること、ちゃうやろ」
「疑問は放っておけない性分なんです」
羽室さんは警戒したような目を向けて答えなかった。
俺は構わずに続けた。
「解き明かす疑問点は、ユグフドが暴走した理由です。考えられる原因は三つ」
「三つ? 整備不良か、操縦士の操縦ミスの二つやろ」
「もう一つ。戎華の攻撃による不具合の発生です」
羽室さんはハッと息を呑んだ。周囲の視線が集まったのも感じた。みんな耳をそばだてて聞いている。
可能性を誰も考えなかったはずがない。けれど、指摘するタイミングも、意味も見出せなかったんだろう。
オンカン社が、攻撃による不具合だ、と言えば戎華の優位性を認めることになる。
羽技、ケイフは、どちらでもよかったんだろうが、オンカン社を追い詰め、大公の機密を少しでも得ることを選んだ。
西海府は指摘できる唯一の存在だったが、操縦士のミスに話が及んだ。下手に指摘すれば責任逃れと責め立てられる。よほどの確証がない限り、四社からの反発を喰らって終わりだ。
だから、誰も指摘しなかった。出来なかった。
「町田はん、廷都の魔導技師なんやろ? ユグフドの性能は、よう知っとるはずやけどな」
羽室さんは軽く笑って言った。
「ウチの戎華を買ってくれるんは嬉しいけど、ちょろっと攻撃した程度でユグフドが不具合起こすはずないやろ?」
「それは調査してみないと分からないんじゃないですか? 絡繰なんて打ち所が悪いと、意外と簡単に不具合起こすものですよ」
「こない言うてますけど? オンカン社はん」
笑いを含んだ声で羽室さんは部屋の片隅にいた戸村さんたちへ言った。二人は硬い表情で、こちらを見ている。二人とも答えるべき言葉を探しあぐねているように見えた。
羽室さんは俺に向き直ると、気の毒そうな笑みを浮かべて言った。
「あんま失礼なこと言わん方がええんちゃうか? 魔導技師の端くれやろ。オンカン社はんに楯突くなんて、苑廷におられんくなるで」
もう、とっくに居る価値は見いだせなくなっている。だから俺は西海へ来た……。
暗い感情を振り払って答えた。
「魔導技師だから原因をハッキリさせたいんですよ。中途半端な解決は、次の事故への入り口です」
「立派な心がけやなぁ。せやけど、どうやって明らかにするん? やっぱりユグフドの操縦士に聞くんか?」
「ユグフドの操縦士に聞いたところで、なにも分からないと思います」
羽室さんは意外そうに目を見張った。周囲も、かすかにざわつく。
「当事者に聞いて、なんも分からん言うことはないやろ」
「お聞きした限り、ユグフドの操縦士は急遽、呼ばれた人なのですよね? 初めての機体では、なにが正常で、なにが異常かの判断を下すのは難しいでしょう」
「初めての機体、言うても特殊免許持ちやん。あんただって十分な操縦技術を持ってた、て言うたよな?」
「操縦技術があることと、正常・異常を認識できることは別です。機関のタイプ、燃料の違い、外装・機構に使用されている素材、防音の程度、反響、作動タイミングの差、魔導術……。
絡繰は千差万別です。例えば音がしたと思っても、それが問題のある異音なのか、通常動作内の音であるのかは、その絡繰に精通した人間にしか判断できません」
羽室さんは笑みを固くし、黙っていた。
「急遽、呼ばれた操縦士が細かな特徴まで理解していたとは思えません」
視界の隅で、小さく月野さんがうなずいたのが見て取れた。
「であるなら話を聞いたところで、自身の操縦がどうであったかぐらいしか、答えられないでしょう。それで原因の究明に繋がるとは到底、思えません」
「そうは言うても、中におったんは操縦士だけやで? 操縦士自身は分からんでも、話を聞いたオンカン社はんなら分かるやろから意味ないことないやろ」
「……オンカン社さんが操縦士を見捨てるつもりがないなら、意味はあるかも知れません」
羽室さんは呆気にとられた様子だったが、すぐに表情を緩ませ笑った。
「また、どえらいこと言い出したな」
「どういう意味だ! 我々が操縦士の話を握り潰すとでも言いたいのか?」
怒りの形相で戸村さんが迫ってきた。
「操縦士が御社に不利な発言をしないとも限りません。そして、それが不利に働くか、有利に働くかの判断は御社にしか出来ません。操縦士は西海政府の人間なのですよね? ユグフドの欠点を隠す人身御供としては最適だ」
「ユグフドに欠点などない」
強く断言したのは、戸村さんの後ろからついて来ていた谷田部さんだった。
「なら、ユグフドの暴走は、なんだったんです? 操縦士が意図的に行ったとでも?」
「あー、せや。その可能性もあったな!」
「そうですか? 政府職員が意図して街を危険にさらす目的は?」
「そら我々の優位に立って、都合のいい契約を結ぶためやろ」
羽室さんの発言に西海府の面々が気色ばんだ。割り込んでくるかと思ったが、静観することに決めたようだ。険しかったり、固かったりする面持ちで遠巻きに眺めている。
「つまり西海府の目的はオンカン社さんとの有利な契約であって、そもそもあなた方は当て馬として呼ばれた、と言いたいわけですか」
「聞き捨てならんな」
不機嫌を滲ませ、水野さんが言ってくる。
「西海府さん、そこのところハッキリしてちょう。私たちは、なんのために呼ばれたんですか?」
「公平な選定ば行うためです」
キッパリと小夏さんが断言した。
「そもそも操縦士が変わったとは、オンカン社しゃんの操縦士が体調ば崩されたとが原因ですばい。そっがなかれば操縦士が変わることもなかったとに、まるで初めから計画されとったような発言は慎んでほしかですね」
「操縦士が意図的にした、言うんは私が言い出したんやないですよ。町田はんが口にしたことや」
「俺はオンカン社さんの……」
「むやみに人ば疑うのはよぐねど思うじゃ。あんだも魔導技師だば技術的な話だげに留めでおきなせ」
対馬さんの注意に残りの言葉を飲み込む。
中途半端は次の事故の元だ。目的を見失うな。




