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『あと一回のメタモルフォーゼ!?――マッドサイエンティストが至る境地』

――バリバリバリ、ガシャァァァァンッッ!!!


 《宝剣ヴォーパル》の獰猛な四連撃によって制御中枢を完全に破壊された鉄の竜が、ビクンと激しく硬直する。

 天井をホールドしていた多節キャタピラの力が失われ、ガルを乗せたままの巨体が、轟々と燃え盛るクリスタルパレスの天井から真っ逆さまに墜落していった。


「カ、カハッ……! ワガハイの、ワガハイの最高、の、ショウ、ガァァァァーーーッッッ!!!」


――ドガァァァァンッッッ!!!


 床板を粉砕し、激しい爆炎のなかに沈んでいく鉄の竜。

 それと同時に、中空で獲物を仕留めたアリス王女の華奢な体もまた、重力に従ってまっすぐに落下を始めていた。ロイヤルブルーのドレスの裾が、炎の熱風を孕んで夜空の薔薇のように激しく舞い踊る。


「王女殿下、ナイスショットなのじゃァッ!!」


 地上で大きく両腕を広げた松平輝夜が、重厚な十二単の裾を乱暴に払うと、降ってくる溶けたガラスの雨をものともせず、落ちてきた主に迫る。


――ガシィィィンッッ!!!


 輝夜はその豪腕で、アリス王女の体を完璧な軌道で受け止めた。

 お淑やかなお姫様抱っこというには、あまりにも頼もしすぎる実力行使の着地である。


「もうっ……! 衝撃が強すぎて、本気で骨が折れるかと思ったわよ、輝夜……!」


「カカカ、無事で何よりじゃ。エゲレスの王女様は、ちと軽すぎるのではないか?」


 輝夜の腕の中で、アリス王女は煤で黒く汚れたドレスの胸元を押さえながら、激しく肩で息をして地声で文句を垂れた。

 地上に取り残されてポカンとしていたマーチ・ヘアと白先生も、慌てて二人の元へと駆け寄ってくる。


「やったかしら!?」


 爆炎を上げるジャバウォックの残骸を見つめ、アリス王女がふと喉からその言葉を漏らした、まさにその瞬間だった。

 純白の振袖の袂を縛り上げた稲葉白が、ハッと眉をひそめてアリス王女を振り返る。


「アリス様。私が言うのもなんですが、なんだかその言葉は、言ってはいけない気がしますね」


「ほえ?」


 白の不吉な予感が、炎上するクリパレス(水晶宮)の空気を1インチの狂いもなく凍らせる。

 安堵の息を漏らそうとしたウサギたちの耳に、直後、聞いたこともない不気味な『駆動音』が、地響きと共にゴトゴトと響き渡り始めた。


   ――ドクン。


            ――ドクン。


 それは、まるで生きている怪物の心臓のような、おぞましい真鍮のビートだった。


 それは、まるで生きている怪物の心臓のような、おぞましい真鍮のビートだった。

 破壊され、床へと墜落して大爆発を起こしたはずのジャバウォックの残骸。

 その真っ赤に熔け落ちた鉄の瓦礫の底で、何かが異常な過電圧によって激しく『蠢(うごめ)いて』いた。


「ぐギ、グぎひヒャひひゃひゃハはハかカガがガ!!!ス晴らシヰ!ジツに素バらしイ耐Qてすトだと思わないカね、隲ク蜷」


 爆炎を割って響いたのは、全身を煤と自らの折れた指の血で汚し、正気のリミッターを完全に消し飛ばしたウィリアム・ガルの狂叫だった。

 操縦席のフレームが両断され、頭部を失ったはずのジャバウォックだったが、ガルの執念に呼応するように、その残された高圧蒸気シリンダーが狂ったように再駆動を始めていた。


 ――ガカガkガアkガgクアgクカウガkガkガッltゥltッ


 周囲の炎上するパビリオンから、熔け落ちた真鍮の建材、へし折れた鉄骨、およびドロドロに溶けたクリスタルガラスの塊が、巨大な磁石に吸い寄せられるかのように、ジャバウォックの破損したフレームへと次々に巻き込まれ、歪にドッキングしていく。


 それは自己再生などという生易しいものではない。壊れたからくりが、周囲のあらゆる『大英帝国の残骸』を強制的に貪り喰らい、さらに巨大な、異形の【鉄の多節巨竜】へと膨れ上がっていく狂気のプロセスだった。


 大英帝国の残骸を貪り喰らい、歪な真鍮の多節巨竜へと膨れ上がったジャバウォック第3形態が、圧倒的な質量で突撃を開始した。


 それは、これまでの近代兵器としてのスマートさなど微塵もない、純粋な破壊の暴風。


 ――バリ、バリガシャァァァンッッ!!!


「くっ……!? 速い、重い、のじゃ!! 物理的な攻撃が、一ラインも通じぬぞ!」


 松平輝夜が名槍《御手杵》を構えて真っ向から迎え撃つが、熔けた真鍮を纏った巨体の突進に、その小さな体が防戦一方で床を激しく削りながら弾き飛ばされる。


 熱でドロドロに溶けたガラスの雨が降り注ぎ、四方八方から紅蓮の炎が迫るなか、じゃじゃ馬たちの最高礼装は煤と破片でズタズタに引き裂かれていた。退路はない。文字通り、全員が五体の限界を迎えた絶望の戦場。


「アタシ、もう足が動かないんですぅ……!」


「マーチ殿、立ってください! ――来ます、避けて!!」


 マーチ・ヘアを白先生が身を挺して庇うなか、ジャバウォックの真鍮の顎が、二人をまとめてウサギのミートパイにせんと狂ったノイズを上げて振り下ろされた。


「――させないわよォォォッッッ!!!」


 アリス王女の地声の咆哮が、燃え盛るクリスタルパレスに木霊した。

 輝夜の腕から飛び出し、煤まみれになったロイヤルブルーのドレスを激しく羽ばたかせた王女は、限界を超えて震える両手で、しっかりと握り直した《宝剣ヴォーパル》へ体重のすべてを乗せ、天に向けて真っ直ぐに突き出した。


 勝算などない。ただ、仲間を救うためだけの、祈りにも似た、刹那の刺突。

 だが、そのなりふり構わぬ執念の刃は、歪に巨大化した真鍮の装甲の、ほんの一ラインの『隙間』――パチパチと異常な過電圧の火花を散らす、剥き出しの圧力制御バルブ(バイタルパート)へと、吸い込まれるように深く突き刺さった。


 ――スニッカー・スナック!!!


「ぐ、ギ……!? ぬァガ、ガ、ガアアアアアアア繧「繧「繧「繧「繝ャ繝ッッッ!?」


 ガルの、そして機械の、引きつった断末魔が重なり、バグノイズとなって炎上する宮殿に響き渡る。


 たまたま、奇跡的にバイタルパートを完璧に貫き抜かれた怪物の内部で、行き場を失った高圧蒸気とエネルギーが、一瞬の静寂ののち、凄まじい逆流(オーバーロード)を起こし始めた。


                 ――ドクンッ。


        ――ドクッ。


                          ……ドッ


                  ドッ


             ドッ


                         ド、

          ド、

                  ド

              ド

           ド

         ド


 胸部の真鍮のシリンダーが、歪に膨れ上がっていく。

 じゃじゃ馬たちの必死の実力行使が手繰り寄せた、因果応報の限界突破。怪物の体内からボッカンボッカンと火柱が吹き上がり、完全な大暴発のカウントダウンが始まった。


「機械の限界も分からないなんて、マッドサイエンティスト失格よ!! みんな、全力でずらかるわよ(逃げるわよ)ーーーッッッ!!!」


「のじゃあッッッ!!(一目散)」


「アタシを置いてかないでなんですぅぅぅーーーッッッ!!!」


「い、急がないと、急がないとォっ!」


 勝負は決した。じゃじゃ馬たちの華麗なる連携が、狂気の怪物を内側から完璧にハメ殺してみせたのだ。

 おめかしした最高礼装をはためかせ、崩落していくクリパレスの床を、爆炎から逃れるために全力のダッシュで駆け抜けていくウサギたち。


 そして――。


 ――ズガァァァァァァァァァァァァンッッッッッ!!!!!


 パビリオンの底から、ガラスの宮殿のすべてを真昼の如く白く染め上げる、ジャバウォックの文字通りの『大暴発(グランドフィナーレ)』が炸裂した。


 命からがら万博会場の外へと転がり出たアリス王女は、夜空へと舞い上がる無数の火の粉と、轟々と燃え盛るクリパレスの残骸を見上げながら、煤だらけのロイヤルブルーのドレスをパタパタと払い、額の汗を拭った。お淑やかな仮面は一ラインも残っていない。


「ふい~……。一時はどうなるかと思ったけれど、意外となんとかなるものね!」


 アリス王女はふうっと大きく息を吐き出すと、ふと、戦場に遺されて爆炎の中に消えていったウサギの着ぐるみの姿を思い出し、そのロイヤルブルーの瞳に悲痛な涙を浮かべた。


「ピーちゃん、貴女のことは忘れないわ……。自分の身を盾にして、最期に私たちの未来を拓いてくれたのね……ッ!」


「あ~、それが、言いにくいのですが……」


 純白の振袖の袂を払いながら、隣にいた稲葉白が何とも言えない複雑な顔で視線を彷徨わせた。床の液体が血ではなくただの『赤色の潤滑オイル』であり、当のピーターが間一髪で脱出して今頃どこかでドヤ顔をしているであろう事実に気づいている白は、勘違いでガチ泣きしている主へその真実を伝えようとした、まさにその時だった。


「これは、なんの騒動ですか」


 夜霧を割って響いたその冷徹で重厚な声に、じゃじゃ馬たちの背筋が同時に凍りついた。

 ここまでお読みくださり、ありがとうございます。


 もう話すことなくなっちゃった(オイ)


 ……と、思ったのですが、今回のオノマトペやら、文字化けやらの演出についてなら、少し話せるかもしれません(笑)。

 ガルの脳のネジが完全にねじ切れていくのを表現するために、セリフの途中にリアルな文字化け(文字コードのバグ)のノイズを混ぜてみたり、機械の駆動音が暴走していく様子を描くためにわざとタイプミスして「ガカガkガアk~」とバグらせて地の文から切り離してみたり。


 極めつけは、アリスの一撃を喰らったジャバウォックの心音が不規則に、バラバラに壊れていく様子を、なろうの空白と配置の限界に挑戦して画面全体で表現してみました。


 こういうオノマトペを利用した表現は、他の作品でも使っているので、他の作品も読んでくださっている方にはお馴染みかもしれませんが。


 あ、「百たる王」のほうは、吉備篇を終えて以降は、あえてオノマトペを排して、歴史小説っぽい格調高さを狙ったりもしています。


 Web小説ならではの「画面と文字の使い方」として、最終決戦のおぞましい暴走の臨場感が少しでも伝わっていれば幸いです!


 そんなマッドサイエンティストが至った境地(大暴発)の直後、夜霧の向こうから響いたあの重々しい一言。

 首切りウサギたちの背筋を同時に凍らせた、声の主の正体とは――?


 次回、ついにこの物語のすべてを懸けた、真の最終回(グランドフィナーレ)へ!

 どうぞお楽しみに! 評価やブクマ、感想などもいただけると大変励みになります!

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