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召喚士が召喚した召喚士 ~基礎から始める召喚マネジメント講座~  作者: KEI
第3話 十羽の鳥と迷子の森

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(二)生き物なら、なんでも

◆ 三 生き物なら、なんでも


「何羽……」


 リオルは少し考えた。


 精霊なら、一体で精一杯だ。


 けれど、鳥は違う。


 鳥たちは、呼べば来てくれることがある。


 窓辺に来る鳥。


 中庭で餌を食べる鳥。


 怪我をした時に、何度か水を置いた鳥。


 こちらを見ても逃げなくなった鳥。


「僕の魔力量だと、十羽くらいが限界です」


 ミレイユが記録板を持つ手を止めた。


「十羽?」


 メルセナも一拍置いた。


「確認します。応じる鳥が十羽まで、ではなく、維持できるのが十羽まで、ですか」


「はい。呼びかければ、もう少し来てくれると思います。でも、僕がちゃんとつなげていられるのは十羽くらいです」


「普通の見習いなら、小動物一体でもかなりの成果です」


「そうなんですか?」


 リオルは本気で聞き返した。


 メルセナはうなずく。


「はい。十羽を維持できることも普通ではありません。ですが、それ以上に、十羽以上が応じる可能性があることの方が特殊です」


「でも、餌をあげてる子たちなので……」


「そこが重要です」


「餌がですか?」


「餌だけではありません。関係です」


 メルセナは、ギルドの屋根にいる鳥を見た。


「この世界の召喚は、異世界から何かを連れてくる術ではありません」


「異世界?」


「古い物語には、別の世界から英雄や魔獣を呼ぶ話もあります。ですが、少なくとも現在のヴァルセイン王国で制度化されている召喚は、それとは違います」


 メルセナは淡々と続ける。


「召喚対象は、この世界にいる生き物です。精霊、獣、鳥、虫、魚、人。術式上は、生き物であれば呼びかけの対象になり得ます」


「人も、ですか?」


「はい。人もです」


 リオルは少しだけ目を丸くした。


「人も召喚できるんですか?」


「できます。召喚とは、こちらから呼びかけ、応じた相手を自分のところへ呼ぶ術です。対象が人であっても、その原則は変わりません」


「じゃあ、人をどこか別の場所へ送ることも?」


「それは違います」


 メルセナは首を横に振った。


「召喚士ができるのは、基本的には自分のところへ呼ぶことです。呼んだ対象を帰還させることはできますが、任意の場所へ送り届ける術ではありません」


「あくまで、呼ぶ術なんですね」


「はい」


「でも、人を呼ぶのって、鳥とは違いますよね」


「違います。ただし、今はそこまで詳しく扱いません」


「え」


「今日の依頼には不要です」


「あ、はい」


 リオルは少しだけ肩を落とした。


 聞きたかったような、聞かなくてよかったような顔だった。


 メルセナは、屋根の上の鳥を見る。


「重要なのは、相手が何であっても、呼べば終わりではないということです」


「鳥でも、人でも?」


「はい。鳥でも、人でも、精霊でも。呼んだ後に破綻させないことが必要です」


 リオルは屋根の鳥を見た。


 鳥はまだ、こちらを見ていた。


「鳥は、来てくれるかもしれない」


「はい」


「でも、来てくれたら、それで終わりじゃない」


「はい。何を見てほしいのか。どこまで行ってよいのか。危険な時はどうするのか。いつ戻るのか。戻ってきた後、どう休ませるのか」


「そこまで考える」


「それが召喚士の仕事です」


 リオルは少し黙った。


 鳥に餌をあげたことがある。


 巣から落ちた雛を戻したことがある。


 窓辺に来た鳥を追い払わなかった。


 猫が近づいた時に、そっと離したこともある。


 けれど、それは召喚のためにしたことではなかった。


「僕、ただ世話してただけです」


「召喚対象から見れば、それが関係になります」


 メルセナはリオルを見た。


「召喚士は、呼びたい時だけ名前を呼べばよいわけではありません。呼ばれる前から、関係は始まっています」


 リオルは、胸の奥に少し不思議なものが落ちるのを感じた。


 精霊を呼ぶのは苦手だ。


 学校評価も高くない。


 けれど、鳥たちが呼ばれてもよいと思ってくれている。


 それが召喚士として意味を持つのだと、初めて言われた。


「リオル」


「はい」


「今は驚いている時間が惜しいです。鳥を呼びましょう」


「あ、はい」


◆ 四 十羽の鳥


 ギルドの外、石畳の広場で、リオルは小さく息を整えた。


 メルセナとミレイユが少し離れて立つ。


 ミレイユは記録板を構え、メルセナは召喚の状態を確認できる位置にいた。


 リオルは両手を胸の前で軽く合わせる。


 精霊召喚の時のような、決まった呪文ではない。


 鳥たちに呼びかける時は、いつも言葉が先に出る。


「来られる子だけでいいから」


 足元に淡い召喚陣が広がる。


 学校で使う整った実習陣より、ずっと小さく、ずっと柔らかい光だった。


「森の方を見てほしいんだ。迷子の子を探したい」


 一羽目の鳥が、光の輪の中に現れた。


 茶色い小鳥。


 次に二羽目。


 黒い羽の混じった鳥。


 さらに三羽、四羽。


 鳥たちは、どこかから飛んできたのではない。


 召喚経路を通って、リオルの近くに現れている。


 同じ世界のどこかにいた鳥たちが、リオルの呼びかけに応じて、ここへ来ている。


 七羽。


 八羽。


 九羽。


 十羽。


 十羽目が現れたところで、リオルの額に汗が浮いた。


 まだ、向こう側に気配がある。


 呼びかけに応じようとする、小さな羽音のような気配。


 けれど、つなげていられない。


 リオルは少し申し訳なくなって、召喚陣の外縁へ声をかけた。


「ごめん。今日は十羽まで。終わったら餌はあげるから」


 召喚陣の向こうにあった気配が、ゆっくり遠のいた。


 広場に残った十羽の鳥たちは、リオルの周りで首をかしげたり、石畳をつついたりしている。


 ミレイユは記録板を見つめたまま、ぽつりと言った。


「今の、まだ応じようとしていましたよね」


「たぶん。僕の魔力が足りないので」


「魔力が足りないから、十羽で止めた……」


 ミレイユは記録板に何かを書き込む。


 メルセナは十羽の鳥を見ていた。


 表情はほとんど変わらない。


 だが、リオルには、先生が少しだけ考え込んでいるように見えた。


「十羽……いえ、応じる数は十羽以上」


「餌を持っていれば、もう少し来ると思います」


「リオル」


「はい」


「それは、かなり特殊です」


「え」


「ただし、今は驚いている時間が惜しい。運用します」


「はい」


 メルセナはすぐに切り替えた。


 驚くより先に、依頼を進める。


 それが最高位召喚士なのだろうと、リオルは思った。


「まず、あなたの指示案を」


「指示案……」


 リオルは鳥たちへ向き直った。


「森に行って、迷子の子を探してきて。見つけたら戻ってきて」


 鳥たちが一斉に羽を震わせる。


 飛び立とうとした。


「待ちなさい」


 メルセナの声で、鳥たちもリオルも止まった。


「何かまずかったですか?」


「かなり」


「かなり」


「森とは、どこからどこまでですか。迷子の子とは、どの子ですか。見つけたとは、何を見た状態ですか。戻る先はどこですか。危険なものを見た時はどうしますか」


「あ……」


 リオルは口を開けたまま固まった。


 昨日の床と同じだった。


 いや、床よりずっと条件が多い。


「昨日の掃除より条件が多いです」


「当然です。床は逃げませんし、迷子にもなりません」


「それはそうですね……」


「鳥は飛びます。森は広い。子どもは動いているかもしれない。だから、条件が必要です」


 メルセナはミレイユへ視線を向ける。


「迷子の特徴をもう一度」


「赤い帽子、黄色の肩掛け、小さな薬草籠です。八歳前後の子ども。最後に見られたのは、東の小道近く」


「鳥には名前より目印です」


 メルセナはリオルを見る。


「赤い帽子、黄色い布、籠。これを探させます」


「はい」


「捜索範囲は森全体ではありません。最後に見られた東の小道を中心にします。広げすぎないこと」


「広げすぎると?」


「戻ってきません。戻ってきても、情報の位置が分かりません」


「じゃあ、三方向くらいに分けますか?」


「よいです。十羽を三班に分けましょう」


「三班……」


「三羽、三羽、三羽。一羽は連絡役として残します」


「連絡役?」


「戻ってきた鳥の報告が重なった時、あなたは混乱します」


「混乱します」


「早いですね」


「自信があります」


「では、混乱しないために先に分けます」


 リオルは鳥たちを見た。


「東の小道沿いを見る子、三羽。小道の右側を見る子、三羽。左側を見る子、三羽。あと一羽は僕の近くにいて、戻ってきた子を落ち着かせる手伝いをして」


 鳥たちは首をかしげたり、小さく鳴いたりした。


 完全に分かっているかは分からない。


 けれど、リオルには、だいたい伝わっている気がした。


 メルセナが補足する。


「赤い帽子。黄色い布。籠。大きな獣や魔物がいたら近づかない。煙、強い匂い、嫌な音があれば戻る。子どもを見つけても、つつかない。追い立てない。見て戻る」


 リオルは鳥たちへ繰り返した。


「赤い帽子、黄色い布、籠。見つけたら戻ってきて。大きい獣がいたら、近づかずに戻ってきて。怖いところには行かなくていいから」


 鳥たちが羽を広げた。


 今度は、メルセナは止めなかった。


「行って」


 十羽のうち九羽が、一斉に空へ上がった。


 一羽だけが、リオルの近くの柵にとまる。


 空へ上がった鳥たちは、すぐに三つの流れに分かれ、森の方へ飛んでいった。



※第3話「十羽の鳥と迷子の森」は全四回です。

続きます。

作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/summoning-management-course-basic-top/

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