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召喚士が召喚した召喚士 ~基礎から始める召喚マネジメント講座~  作者: KEI
第14.5話 盗賊は竜の寝息を聞いた

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(四)森が耐えられない

◆ 十五 赤竜が飛ぶ


 赤竜は立ち上がった。


 財宝の山が揺れる。


 けれど、赤竜は財宝を崩さない。


 怒っていても、守護拠点内では暴れない。


 守るべきものがあるからだ。


 赤竜は慎重に身を起こし、洞窟の入口へ出た。


 外の風を嗅ぐ。


 強い魔法の痕跡はない。


 転移の跡もない。


 攻撃の跡もない。


 ただ、風がわずかに違う。


 自然の風と区別しにくい、薄い揺らぎ。


 赤竜にとっても、それは明確な証拠ではなかった。


 風が少しそよいだようなもの。


 だが、財宝は欠けている。


 ならば、何かが通った。


 赤竜は飛んだ。


 洞窟の上空を旋回し、山肌、谷、森、川筋を見下ろす。


 人間の足跡は見えない。


 しかし、人間が通るなら森を抜ける。


 川へ出る。


 街道へ向かう。


 赤竜は考えながら飛んだ。


 考えながら、低く飛んだ。


◆ 十六 森が耐えられない


 西の山脈の麓に、広い森がある。


 魔物たちの棲み処だった。


 赤竜はその上を飛び、盗人の痕跡を探した。


 人間の匂い。


 風の乱れ。


 足跡が消えた場所。


 獣が不自然に避けた場所。


 だが、赤竜の体は熱い。


 吐息は炎を含む。


 翼が打つ風は、火の粉を広げる。


 森は最初、赤くなかった。


 ただ、葉の縁が乾いた。


 次に枝先が焦げた。


 その次に、一本の樹が内側から火を噴いた。


 赤竜が振り向く。


 森の一部が燃えている。


 赤竜はそれを見た。


 しかし止まらない。


 盗人はまだ見つかっていない。


 赤竜は森を焼くつもりだけではなかった。


 村を襲うつもりだけでもなかった。


 ただ、盗人と盗まれたものを探していた。


 だが赤竜が低く飛び、息を漏らし、翼を打つだけで、森は耐えられなかった。


 魔物たちは走った。


 炎から逃げた。


 竜から逃げた。


 そして、人間の村へ向かった。


◆ 十七 まだ知らない


 統領は、まだ何も知らなかった。


 隠れ家の奥の部屋で、盗んだ輪を眺めていた。


 灯りは小さい。


 輪の翼の意匠が、赤黒く光る。


 指先で転がすたび、洞窟の熱を思い出した。


 赤竜の寝息を思い出した。


 二時間、体を動かせなかった石柱の陰を思い出した。


「統領、それ、売らないんですか」


 部下の一人が聞いた。


「まだだ」


「まだ?」


「まだ、見ている」


「見てるだけで金にはなりませんぜ」


「金なら他で取れる」


「じゃあ、それは?」


 統領は、輪を指で止めた。


「息だ」


「息?」


「赤竜の寝息を聞いた時のな」


「……やっぱり、統領の言うことはたまに分からねえ」


 統領は答えなかった。


 もう少しだけ見ていたかった。


 これを持っている間、彼は赤竜の懐まで行った人間でいられた。


◆ 十八 商人との取引


 やがて、統領は満足した。


 物がなくても、思い出せると思った。


 赤竜の瞼。


 洞窟の熱。


 一歩ごとに死が近づく感覚。


 それはもう、手元に輪がなくても消えない。


 だから売った。


 森近くの街道で、商人と会った。


 商人は綺麗な馬車で来た。


 護衛を二人連れている。


 首には光る飾りを下げ、手袋をした指で布包みを受け取った。


 商人は、輪を見て目を細める。


「これは、どこで?」


「山で拾った」


「山で拾える品ではありませんな」


「なら、山に返すか?」


「いえいえ。買いましょう」


「高く」


「危険料込みで?」


「生還料込みで」


「それは、さぞ高い」


「安いくらいだ」


 商人は笑った。


「ずいぶん名残惜しそうに見えますが」


「もういい」


「もういい?」


「十分見た」


 商人は金を渡した。


 硬貨が、小さな袋に入っている。


 統領は輪を渡す。


 商人はそれを赤い布で包んだ。


 遠くの枝に、一羽の鳥が止まっていた。


 鳥は、人間の取引を理解していたわけではない。


 ただ、光るものと、布に包まれたものが、人の手から人の手へ移るのを見ていた。


 この時、統領はまだ知らなかった。


 森が焼けたことも。


 魔物が住処を追われたことも。


 その大群が人間の村へ向かい、すでに退けられていたことも。


 その後、赤竜によって村二つが燃やされたことも。


 人死には出ていないらしい。


 だが、村は燃えた。


 家は失われた。


 畑は焼けた。


 家畜は逃げた。


 そのことを、統領はまだ知らなかった。


 彼にとって、それはまだ、赤竜の寝息を聞いた証でしかなかった。


◆ 十九 後から届いた話


 商人へ売った後、情報が入った。


 部下が持ち込んだ。


「統領、森が焼けたそうです」


「どこの森だ」


「西の山脈の麓です」


 統領は動きを止めた。


「魔物が押し出されて、村が一つ危なかったとか」


 別の部下が続ける。


「あとは、人死には出てないようですが、村二つが燃やされたそうです」


 統領は、少しだけ目を伏せた。


「……赤竜か」


「まさか、あれ一つで?」


 部下の声には、怯えと困惑が混ざっていた。


 統領は、低く答えた。


「そういう相手だったんだろう」


「どういう意味で?」


「俺より、ずっと真面目だった」


「真面目?」


 統領は、赤竜の瞼を思い出した。


 あの瞼が開けば死ぬと思っていた。


 だが本当に見誤ったのは、瞼ではなかった。


 赤竜が何を見ているのか。


 それを、自分は見ていなかった。


「俺は、あれを証だと思った」


「証?」


「赤竜の懐まで行って、戻った証だ」


「赤竜には?」


「守るべきものだったんだろうな」


 部下たちは黙った。


 統領は笑わなかった。


 あの小さな輪は、自分にとっては死の近くから持ち帰った証だった。


 だが赤竜にとっては、守護契約の一部だった。


 赤竜の強さは見た。


 寝息も聞いた。


 死の近さも知った。


 だが、赤竜の真面目さを知らなかった。



※第14.5話「盗賊は竜の寝息を聞いた」は全五回です。

続きます。


作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/summoning-management-course-basic-top/

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