(四)檻になった救い
やがて、召喚士の後任らしき者たちが洞窟の入口へ来た。
彼らは赤竜を恐れていた。
遠くから財宝が守られていることを確認し、契約書の写しを見て、安心したように頷いた。
「契約は継続している」
「赤竜も守護を続けている」
「ならば問題はない」
「解除の申し出は?」
「ない。なら、継続でよいだろう」
「赤竜に確認は?」
「刺激しない方がよい。守っているなら、それでよい」
赤竜は、その会話を聞いていた。
人間は、財宝が守られていることを望んでいる。
ならば、守る。
召喚士が戻らなくても、後任が確認に来た。
これは継続の意思なのだろう。
誰も嘘はつかなかった。
誰も赤竜を騙そうとはしなかった。
ただ、誰も最初の問いを持っていなかった。
赤竜はまだ、その役割を必要としているのか。
その問いだけが、引き継がれなかった。
時間が流れた。
後任の後任が来た。
さらに、その後任が来た。
契約の写しは増えた。
台帳は増えた。
しかし、本来の意味は薄れていった。
赤竜は守り続けた。
最初は、頼まれたから。
次に、契約があったから。
やがて、守っている間だけ、自分が存在してよい気がしたから。
「守る」
赤竜は、洞窟の奥で呟いた。
「欠けてはならぬ」
銀杯の傾きは変わっていない。
黒い箱の上の青石もある。
金貨の山は沈んでいるが、数は欠けていない。
壺のひびは広がったが、まだ割れていない。
翼の意匠を持つ魔道具は、長い年月の中で、少しずつ火の精霊力に寄っていた。
赤竜はそれも覚えていた。
誰もそこまで求めていない。
しかし赤竜にとっては当然だった。
守るとは、そういうことだから。
「失われてはならぬ」
赤竜は、自分がいつからそう考え始めたのか覚えていなかった。
財宝など、どうでもよかったはずだった。
金も宝石も、古い魔道具も、赤竜の欲しいものではなかった。
それでも、欠けてはならなかった。
なぜなら、それを守っている間だけは、自分が不要ではないと思えたからだ。
洞窟に、風が通った。
ほんのわずかな風だった。
入口からではない。
岩の隙間でもない。
赤竜は、少しだけ目を細めた。
魔力は感じない。
戦闘音もない。
敵意もない。
ただ、風が少しそよいだだけだった。
赤竜は、また目を閉じた。
財宝は、いつも通りそこにある。
そう思った。
赤竜は財宝に興味がなかった。
ただ、財宝を守っている間だけは、自分がそこにいてよい気がした。
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