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召喚士が召喚した召喚士 ~基礎から始める召喚マネジメント講座~  作者: KEI
第0話 赤竜は暇だった

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(三)守るとは、そういうことだ

 召喚士は、少しだけ目を細めた。


 赤竜は、頼まれることに慣れていなかった。


 恐れられることには慣れていた。


 避けられることにも、挑まれることにも慣れていた。


 だが、頼まれることは少なかった。


 強いから逃げられるのではなく、強いから頼まれる。


 それは、赤竜にとって奇妙な感覚だった。


 召喚士の財宝は、山の奥の古い洞窟にあった。


 天然の洞窟に、少しだけ人の手が加えられている。


 床はならされ、入口には古い術式の跡がある。


 財宝と呼ぶには、あまり整っていない。


 金貨、銀杯、壺、宝石、古い剣、装飾品、魔道具。


 無造作に積まれているようにも見えた。


 赤竜は、洞窟に首を入れた。


 召喚士は、少し離れたところから説明する。


「盗まれない程度で構いません」


「程度とは何だ」


「ええと、誰かが持ち去らないように、という意味です」


「すべて記憶する」


「すべて?」


「形、数、色、重なり、傷、匂い、置かれた場所」


「そこまでしなくても」


 召喚士は困ったように言った。


 赤竜は真顔で返す。


「守るのだろう?」


「はい、守るのですが」


「ならば当然だ」


「当然、ですか」


「当然だ」


 召喚士は、財宝の山を見た。


 赤竜はすでに、金貨の積み方を見ていた。


 銀杯の傾き。


 青い石の欠け。


 黒い箱の向き。


 壺のひび。


 剣の柄の摩耗。


 翼の意匠を持つ古い魔道具の気配。


 そのすべてを、赤竜は記憶していく。


 召喚士は、少しだけ顔を引きつらせた。


「私は今、とても優秀な方に、軽い仕事を頼んでしまった気がしています」


「軽い仕事なら、なおさら失敗できぬ」


「そういうものですか」


「そういうものだ」


 赤竜は、財宝に興味がなかった。


 金も、宝石も、古い剣も、壺も、どうでもよかった。


 だが、守ると言われたものを守ることには、意味があった。


 召喚士は契約書を用意した。


 古い形式の契約だった。


 現代の契約制度から見れば、ひどく簡素なものだったが、その時代には、それで十分だと思われていた。


 召喚士は、赤竜に読み上げる。


「あなたが満足したら、契約は終わりにしましょう」


「満足とは何だ」


「もう守らなくてよいと思った時、でしょうか」


「我がそう思えばよいのか」


「はい。その時は私に言ってください」


「お前がいなければ?」


「戻ってきます」


「戻らなければ?」


 召喚士は、一瞬だけ言葉に詰まった。


「……戻ります」


「人間は短く生きる」


「痛いところを突きますね」


「事実だ」


「では、私が戻れない時は、後任に伝えます」


「後任」


「はい。あなたが望めば、契約を終えられるように」


「ならばよい」


 よくはなかった。


 けれど、その時の二人はまだ知らなかった。


 契約の終了条件は曖昧だった。


 後任への引き継ぎは、仕組みではなく約束に近かった。


 赤竜が自分から望みを申し出ることが前提だった。


 人間と竜の時間感覚が違うことも、分かってはいたが、契約には十分に刻まれなかった。


 それでも、その時は善意だった。


 召喚士は赤竜を縛ろうとしたのではない。


 赤竜も、縛られたとは思わなかった。


 ただ、頼まれた。


 そして、引き受けた。


 最初のうち、財宝守護は赤竜にとって救いだった。


 赤竜は洞窟の構造を覚えた。


 入口の風の流れを覚えた。


 足音の響きを覚えた。


 金貨の山の沈み方を覚えた。


 宝石の表面の傷を覚えた。


 翼の意匠を持つ魔道具が、どのような精霊力を帯びているかも覚えた。


 召喚士は何度か訪れた。


 そのたびに、赤竜は報告した。


「具合はどうですか」


 ある日、召喚士がそう聞いた。


 赤竜は首を傾ける。


「具合とは」


「退屈していませんか」


「していない」


「それはよかった」


「昨日、金貨の山が二枚分沈んだ」


「はい?」


「湿気だ。奥の壁から水が入っている。放置すれば、三十年で壺が割れる」


「三十年」


「短い」


「私には少し長いです」


「人間は不便だな」


「よく言われます」


 召喚士は笑った。


 赤竜は笑わなかったが、以前より穏やかだった。


 誰かに頼まれた仕事がある。


 自分がそこにいる理由がある。


 財宝そのものより、守るという行為が、赤竜を支えていた。


 それから、召喚士が来る間隔は少しずつ伸びていった。


 一年。


 三年。


 十年。


 赤竜にとっては短い。


 けれど、召喚士にとっては短くなかった。


 やがて、召喚士は来なくなった。


 赤竜は待った。


 一年は、待つうちに入らなかった。


 十年も、竜にとっては長い昼寝のようなものだった。


 百年が過ぎた時、赤竜はようやく考えた。


 人間は、戻ると言っても戻れないことがあるのだと。


 赤竜は怒らなかった。


 まだ怒らなかった。


 戻ると言った。


 ならば、まだ守る。


 戻る前に失われてはならない。


 そう思った。



※第0話「赤竜は暇だった」は全四回です。

続きます。

作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/summoning-management-course-basic-top/

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