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召喚士が召喚した召喚士 ~基礎から始める召喚マネジメント講座~  作者: KEI
第0話 赤竜は暇だった

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(二)竜に会いに来た召喚士

 山道とも呼べない岩場を、一人で登っている。


 供はいない。


 旗もない。


 弓も槍も見えない。


 ただ、一人の人間が、息を切らしながら山を登ってくる。


 赤竜は、しばらくそれを眺めた。


 愚かな討伐者か。


 あるいは、死に場所を探す者か。


 どちらでもよかった。


 どちらでも、始まる前に終わる。


 人間は、赤竜の威圧が届く距離まで来ると、足を止めた。


 膝が震えている。


 息も上がっている。


 顔色も悪い。


 それでも、逃げなかった。


 赤竜は首を上げる。


 人間の全身を影が覆った。


「人間」


 赤竜が呼ぶと、岩場が震えた。


 人間は両手をつきそうになりながらも、どうにか立っていた。


「はい」


「何をしに来た」


 人間は、顔を上げた。


「あなたに会いに来ました」


「殺しに来たのではないのか」


「殺せるとは思っていません」


「では、死にに来たか」


「できれば、それも避けたいです」


 赤竜は、少しだけ目を細めた。


「ならば、なぜ来た」


 人間は、強い風に服を煽られながら答えた。


「あなたが、何をしているのか知りたかったので」


「何をしているか、だと?」


「はい」


 赤竜は、しばらく黙った。


 それから答える。


「何も」


「何も?」


「何をしても、同じだ」


 人間は、その答えを笑わなかった。


 退屈している竜、などと軽く受け取らなかった。


 赤竜の声には、退屈よりも深いものがあった。


 疲労に近い。


 あるいは、諦めに近い。


 人間は、ゆっくりと呼吸を整えた。


「敵がいないのですね」


「いる。だが、敵になる前に逃げる」


「守るものは?」


「ない」


「欲しいものは?」


「欲しいものなどない」


「では、なぜ起きているのですか」


 赤竜は黙った。


 山の風が、二人の間を抜けていく。


 人間は、さらに言った。


「眠る理由も、起きる理由も、なくなっているのですね」


「人間。言葉を選べ」


「選んでいます。だから、まだ生きています」


 赤竜は、わずかに喉を鳴らした。


「面白いことを言う」


「面白いだけで済めばよいのですが」


 人間は召喚士だった。


 赤竜には、それが分かった。


 魔力の流れが違う。


 普通の兵士ではない。狩人でもない。呪術師でもない。


 召喚士。


 契約を扱う者。


 呼び、応じさせ、時に頼み、時に縛る者。


 けれど、その召喚士は赤竜を縛ろうとしていなかった。


 鎖の匂いがしない。


 支配の術式もない。


 赤竜に向けた攻撃準備もない。


 ただ、見ていた。


 赤竜の牙ではなく。


 爪ではなく。


 翼でも、炎でもなく。


 赤竜が何もしていないことを、見ていた。


「あなたには、役割が必要なのかもしれません」


 召喚士が言った。


 赤竜は鼻を鳴らした。


「我に役割を与えると?」


「命令ではありません」


「命令ならば焼く」


「でしょうね。ですので、お願いです」


「願い」


「はい」


「人間が、我に願うのか」


「そうです」


 赤竜は、召喚士を見下ろした。


「願いとは、身の程を知る者が使う言葉ではないのか」


「身の程を知っているから、願うのです」


「面白い」


「焼かないでいただけると助かります」


 召喚士は、少しだけ笑った。


 赤竜は笑わなかった。


 だが、焼きもしなかった。


 召喚士は、赤竜を利用する役割をいくつか思いついていた。


 王国守護。


 国境防衛。


 魔物討伐。


 戦争抑止。


 どれも大きい。


 どれも、赤竜の強さにふさわしいように見える。


 けれど、それらは赤竜を利用することに近かった。


 強いから戦わせる。


 強いから守らせる。


 強いから国を背負わせる。


 それでは、赤竜はまた強さに閉じ込められるだけだ。


 もっと小さくてよい。


 もっと個人的でよい。


 終わらせられるものがよい。


 召喚士は、少し迷ってから言った。


「では、私の財宝を守ってもらえませんか」


 赤竜の目が、わずかに動く。


「財宝?」


「はい」


「我に、財宝の番をしろと」


「言い方を選ばなければ、そうです」


「財宝など、どうでもよい」


「ええ。だからよいのです」


「どういう意味だ」


「あなたを縛るほど大切なものではありません。けれど、あなたに頼む理由にはなる」


「理由」


「はい。あなたがそこにいてよい理由です」


 赤竜は、静かに召喚士を見た。


「我は、理由がなければいてはならぬのか」


「そんなことはありません」


 召喚士は、即座に答えた。


「ただ、理由があった方が楽な時もあります」


「人間は、面倒な生き物だ」


「竜も、意外とそう見えます」


「焼くぞ」


「まだ契約前ですので、ご遠慮いただけると助かります」


 赤竜は、今度こそ少しだけ喉を鳴らした。


 笑ったのかもしれない。


 山が低く震えた。


「財宝など、誰でも守れるだろう」


「いいえ」


 召喚士は首を振った。


「これは、あなたにしか頼めません」


「我にしか?」


「はい」


「強いからか」


「強いからです」


「ならば、他の者でもよい。強い者を集めればよい」


「強いだけなら、代わりはあります」


 赤竜の目が、細くなる。


「では、なぜ我だ」


 召喚士は、一度息を吸った。


 それから、静かに言う。


「あなたは、守るものを欲しがっているように見えたからです」


「……欲しがってなどいない」


「そうですか」


「そうだ」


「では、断りますか」


 赤竜は答えなかった。


 召喚士は、追い詰めるようなことは言わなかった。


「断っても構いません」


「……」


「私は、あなたを支配しに来たわけではありません」


 赤竜は、しばらく召喚士を見ていた。


 やがて、低く問う。


「財宝は、どこにある」


「引き受けてくださるのですか」


「場所を聞いただけだ」


「では、場所だけお伝えします」


「守らぬとは言っていない」



※第0話「赤竜は暇だった」は全四回です。

続きます。

作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/summoning-management-course-basic-top/

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