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召喚士が召喚した召喚士 ~基礎から始める召喚マネジメント講座~  作者: KEI
第14話 先生が書き足した名前

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(五)先生が書き足した名前

◆ 五 先生が書き足した名前


 手続きが一段落すると、メルセナは新しい紙を一枚出した。


 リオルは、思わず身構える。


「まだあるんですか」


「あります」


 メルセナは当然のように答えた。


「相談先一覧です」


「相談先」


「はい。契約は成立した瞬間から運用が始まります。疑義が出た時、休眠期や存在確認予定で調整が必要な時、人間側が不用意に領域へ入った時、相談先が必要です」


 ヴァルグが低く言う。


「我が困った時に、人間へ問うのか」


「はい」


「我は赤竜だぞ」


「現在の登録名はヴァルグです」


「……ヴァルグだぞ」


 リオルは小さく言った。


「言い直した」


 メルセナは表情を変えずに続ける。


「困った時に相談することは、弱さではありません」


「そうなのか」


「そうです。少なくとも、契約上は」


「契約上は、か」


「はい。必要なら、感情上もそのうち慣れてください」


 ヴァルグは少しだけ鼻を鳴らした。


「人間の契約は、慣れることが多い」


「多いです」


 メルセナは淡々と認めた。


 それから、相談先一覧に名前を書いていく。


 自分の名。


 腹心であるカイル・レイヴァンの名。


 召喚士ギルドの信頼できる担当者。


 王国側の信用できる貴族。


 北方担当の実務官。


 さらに、それぞれの名の横に、継承者、後任、子孫、指定代理人を含む、という注記を加えていく。


 ヴァルグは長く生きる。


 人間一人の寿命だけで相談先を定めても、すぐに意味を失う。


 だから、この一覧は固定された名簿ではない。


 契約更新時、担当交代時、家督継承時、ギルド人事の変更時に、随時更新されるものだった。


 リオルは、その注記を見て少しだけ目を丸くした。


「相談先って、人だけじゃなくて、その後の人たちも入るんですね」


「はい」


 メルセナは筆を止めずに答えた。


「ヴァルグの時間は、人間より長い。今いる人間だけを書いても、すぐに古くなります」


 ヴァルグが低く言う。


「人間はすぐ代替わりする」


「はい。ですので、個人名と同時に、継承先も記録します」


「面倒だな」


「長く続ける契約ほど、面倒にしておく必要があります」


 リオルは、なるほどと思った。


 強い一体に全部背負わせない。


 それは、相談先についても同じなのだ。


 誰か一人だけを頼るのではない。


 役職、家、ギルド、後任、子孫。


 時間が経っても、誰かが受け取れる形にしておく。


 メルセナは、そこまで見て書類を作っていた。


 そして、ペン先が一度止まる。


「先生?」


「少し迷いました」


「何をですか」


 メルセナは、しばらく白い欄を見ていた。


 それから、そこに名前を書いた。


 リオル・ロステル。


 リオルは、息を止めた。


「え、僕ですか?」


「はい」


「僕、契約のことは分かりませんよ」


「契約のことは、私や担当者に聞けばよいです」


「じゃあ、なんで」


「制度上の問題ではない時、あなたの視点が必要になる可能性があります」


「僕の視点……」


 メルセナは、リオルを見た。


「今回、ヴァルグが本当に手放せずにいたものに、あなたは気づきました」


「でも、僕はただ、そう見えただけで」


「ただ見えた。それが重要な時があります」


 リオルは、相談先一覧に書かれた自分の名前を見る。


「僕で、いいんですか」


「はい」


「見習いですよ」


「知っています」


「契約の専門家でもありません」


「知っています」


「じゃあ」


「それでも書きました」


 そこで、ヴァルグが低く言った。


「我は、その名を外せとは言わぬ」


 リオルは、はっとしてヴァルグを見る。


「ヴァルグさん?」


「契約の細かいことは、そなたには分からぬのだろう」


「はい……」


「だが、我が迷っていたものに、そなたは名を与えた」


 ヴァルグの視線が、翼の意匠を持つ魔道具へ向く。


「契約ではなく、思い出だと」


 リオルは何も言えなかった。


 ヴァルグは続ける。


「ならば、我がまた契約では測れぬことで迷った時、その名が一覧にあることは、無意味ではあるまい」


 メルセナが静かに確認する。


「相談先一覧へのリオル・ロステルの記載に、同意しますか」


「同意する」


 ヴァルグは、はっきりと言った。


「ただし、契約判断を任せる相手ではない。迷いを問う相手としてだ」


「そのように記録します」


 ミレイユが筆を入れる。


「リオル・ロステル。契約判断者ではなく、感情上・認識上の相談補助者。ヴァルグ本人の同意あり」


 リオルは、ますます落ち着かなくなった。


「なんか、責任が増えてませんか」


「増えています」


 メルセナが答えた。


「そこは否定してください」


「否定する理由がありません」


 ヴァルグが、少しだけ鼻を鳴らした。


「案ずるな。契約の処理を頼む気はない」


「それは安心しました」


「だが、我がまた思い出と契約を取り違えた時は、そなたが気づくかもしれぬ」


 リオルは、相談先一覧に書かれた自分の名前をもう一度見た。


 そこには、ただ名前があるだけではなかった。


 メルセナが書き足し、ヴァルグが同意した名前だった。


 リオルは、自分の名前を見た。


 メルセナの字だった。


 王国の高官でもない。


 高位召喚士でもない。


 契約の専門家でもない。


 ただの見習い召喚士の名前だった。


 それでも、そこにあった。


 カイルやギルド担当者や貴族の名と同じ紙に、書き足されていた。


 しかも、その一覧は、人間一人の寿命で終わるものではない。


 後任へ引き継がれ、子孫へ残り、必要に応じて更新されていくものだった。


 そこに自分の名前があることの意味は、まだよく分からない。


 けれど、メルセナは消さなかった。


 迷ったうえで、書き足した。


 ヴァルグも、それに同意した。


 ならば、少なくとも完全な場違いではなかったのだろう。


 リオルは、そう思うことにした。



※第14話「先生が書き足した名前」は全六回です。

続きます。

作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/summoning-management-course-basic-top/

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