(四)反省文ではない
◆ 四 反省文ではない
再契約が成立しても、終わりではなかった。
ミレイユが、次の書類を出したからである。
ヴァルグの目が、明らかに細くなった。
「……まだあるのか」
「あります」
ミレイユは容赦がなかった。
「焼損事故報告書兼熱害再発防止確認書です」
リオルは小さく呟いた。
「名前が長い」
ヴァルグは低く言う。
「村の件か」
「はい」
ミレイユは答えた。
「村、燃えましたからね」
リオルがつい言うと、ヴァルグがこちらを見た。
「我は燃やそうとしたわけではない」
「はい」
メルセナが言った。
「そのための報告書です」
「反省文か」
「違います」
ミレイユが即答した。
リオルは首を傾げる。
「違うんですか」
「反省文ではありません」
メルセナが説明する。
「事実、原因、影響、再発防止、補償処理の切り分けです」
「ほぼ反省文に聞こえます」
「反省文ではありません」
ヴァルグは登録板を見下ろした。
「人間は、燃えた村にも書類を作るのだな」
「燃えたから作るのです」
メルセナが返す。
その言い方は淡々としていたが、軽くはなかった。
村が燃えたことは、消えない。
ヴァルグに悪意がなかったことと、被害がなかったことは同じではない。
その違いも、書類にしなければならない。
ミレイユが読み上げる。
「本人陳述を確認します。村への接近目的は、盗難品の魔力および精霊力の気配確認」
「相違ない」
「村への焼損意図はなし」
「相違ない」
「ただし、怒気に伴う熱放出により、建物および周辺物品に焼損被害が発生」
ヴァルグは、少しだけ沈黙した。
そして、低く言った。
「……相違ない」
リオルは小声で言う。
「ヴァルグさん、ちょっと声が小さくなった」
「鼻息のつもりだった」
ヴァルグが言った。
メルセナは静かに返す。
「人間の村に対しては、災害級です」
「理解した」
ミレイユは続ける。
「再発防止事項。人里への接近時は、事前通告、熱量抑制、飛行高度、接近距離を遵守すること」
ヴァルグは低く唸った。
「細かい」
「人里の近くへ行く場合の最低条件です」
メルセナが言った。
「あなたにとっては息を荒げた程度でも、人間側には熱害になります」
「……理解した」
「理解だけでは足りません。次からは条件として守ってください」
ヴァルグは、しばらく黙ってから答えた。
「相違ない」
リオルは、少しだけ胸をなで下ろした。
ヴァルグが悪意を持って村を焼いたわけではない。
けれど、悪意がなければ被害が消えるわけでもない。
だから、言葉にする。
書類にする。
次に同じことが起きないように、条件にする。
それもまた、契約なのだと思った。
ミレイユはさらに確認する。
「被害補償および復旧支援は、王国、地方防衛会議、召喚士ギルドの制度処理により進める。ヴァルグ単独の負担とはしない。ただし、本人陳述および再発防止確認を記録する」
リオルは、そこで少し安心した。
ヴァルグだけに、すべての責任を背負わせるわけではない。
けれど、ヴァルグが何も書かなくていいわけでもない。
それが、今回の新しい形だった。
ヴァルグは、長い時間をかけて頷いた。
「相違ない」
ミレイユが記録する。
ヴァルグは、反省文ではないと言われた文書に、長い時間をかけて同意した。
村を焼く意思はなかった。
盗まれたものを探していただけだった。
だが、意思がなかったことと、被害がなかったことは同じではない。
その違いもまた、現代の契約に書かれるべきものだった。
※第14話「先生が書き足した名前」は全六回です。
続きます。
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